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介護施設でホントにあった怖い話。

今している仕事ではない。
過去に勤めていた介護の業界の話だ。
小規模多機能型施設と聞いてピンとくるだろうか。
それに医療的な要素が加わった場所だ。
宿泊サービスの定員が9名の職場で働いていた。
あと登録人数定員が約30名、デイサービスは約20名だった。

初めてその施設に出勤した時、明るい施設だと思った。
一通り仕事を覚えるまでは夜勤は免除で昼の顔しか知らなかった。
デイサービスのレクリエーションを1人で回すようになった。
体操や風船バレーは鉄板だ。
あとは少人数の日はかるたやトランプをした。

利用者の9割以上が認知症を患っていた。
認知症にも色んなタイプがあるし、生来の性格も加わってとても個性的になる。朝、ゲッソリとした夜勤者が申し送りをしているのを聞いて夜勤をするのが怖くなった。

でも次々に新人が入ってきては年配者が辞めて行った。
私はあっという間にシフト表の位置が真ん中になった。
そして夜勤をする日がやってきた。

平和な夜勤の日は3時間に1度オムツ交換にバケツを持って回る。
利用者を出来るだけ起こさないように懐中電灯1本持って行く。
この時深夜でも起きている利用者が多かった。

忙しい夜はフロアに利用者がいる。
眠れないのでフロアに出てきてテレビを眺めたり、廊下を歩いたりしている。これを徘徊という。基本的に寝る前に睡眠薬を飲んでいる人が多いので転倒の危険性がある。だから手を繋いで一緒に歩く。
歩き疲れた頃に温かいお茶を提供してベッドに横になってもらう。
これで寝てくれたらいいが、そうはいかない。

夜間に記録を付けることが出来ずに、夜勤明けに日勤者が来てから夜何があったかを詳細に介護記録に記入する。
眠気を戦いながら書く記録は無茶苦茶だったりする。

尿量を記録しなければいけない人も多くパッドを秤に乗せて重さを測定していてそれをメモしておく。パッドの大きさによって何g引き算するのかも変わってくる。夜勤明けは電卓を使っても間違える。

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そして、私が勤めていた頃には人手不足が深刻で朝食を手伝ってくれる早番と夕食を手伝ってくれる遅番がいなかった。だから夜勤者の負担が大きかった。

だけど日勤の間に洗いきれなかった汚物付きの洗濯物を洗濯機で回し、乾燥機で回す。次の日の日勤者が気持ちよく仕事を始められるために、静かに施設内も掃除する。夜勤の間に出たオムツやパッドはまとめておいて、早朝に回収業者専用のゴミ箱に出す。

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激ヤバな夜は突然にやってきた。
記録を書くペンの音に紛れて深夜の静かな中に、かすかに苦しそうな声が聞こえてくる。
血圧計、体温計、酸素測定器が入ったカゴを持って走ってその部屋に駆けつけると、呼吸音が明らかにおかしい。
呼びかけにも目を開けずに、ただ苦しそうに息をしていた。
バイタルを測定しながら、その日のオンコール担当の看護師に電話する。
深夜だけどこうゆう時は遠慮してはいけない。
明らかに寝ていた看護師にバイタルと様子を伝える。
「…そこで出来ることないから、救急車呼ぼうか」と言われて119番する。
その前に隣の施設の宿直に電話して念のためAEDを持ってきてもらう。

10分以内に救急隊が来ることになった。
電話している間も心臓マッサージをする。
肋骨折れたらどうしようと思いながらも、心臓が止まるよりはマシだ。
隣の施設の宿直者がAED持って来てくれた、手が離せないので玄関を開けて欲しいとお願いした。
てゆうか誰か心臓マッサージを変わって欲しい。病院とかなら交代でやるくらいしんどい。ポニョのリズムで押せ!押せ!押せ!と訓練ではならった。
ポ~ニョ、ポ~ニョ、ポニョ、魚の子~。が頭に流れる。

そして救急隊が来て無事に病院へ運ばれいった。
忘れていたが、救急車には同乗者が必要で施設長を呼んでいた。
救急隊が到着して間もなく車をぶっ飛ばしてきてくれた。
病院に着くまでの間に心停止した。
早めに発見出来てよかったと心底思った。
夜勤中記録書くときにイヤホンで音楽を聴いているスタッフもいる。
それをしていたら次の巡回ではもうあの世に逝ってしまったかもしれない。
その利用者はしばらく入院して無事に戻って来れた。

こんな救急車騒ぎが4回あったが、いずれも発見が早かったので皆さん生存されて戻ってくることが出来た。

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隣の施設と同じ建物にあるからという理由で、夜勤は1人体勢だった。
休憩なんてまともにとれないし、トイレに行くのも気を使う。
便座に座ったとたんコールが鳴ることもあった。
食事は2食持って行く、カップラーメンは伸びるので、湯切り出来る焼きそばが多かった。もう1食は甘いパンが定番だった。

ロッカーにカップ焼きそばを常備していた。
ある日勝手に食べられていたことがあった。
犯人は前夜の夜勤者だと分かった。
電話して「次の出勤の時にちょいグレードの高いカップ焼きそば持って来てね」と念を押す。そうでもしなければ納得できない。
治安が悪い施設だった。
金を漁られていないか心配になったので大金は持ち歩かず、お札は入れるのを辞めた。

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私が辞めるきっかけとなるスタッフが入ってきた。B子だ。
新人の頃は妙にすり寄ってきて、気持ちが悪かった。
電子タバコを吸っていると喫煙するわけでもないのに隣に座ってくる。
B子は噂を流すのが好きな子だった。

そして手癖が悪かった。
私の給与明細が勝手に開けられていたことがある。
資格手当と経験手当が年配スタッフよりも多く貰っていることに嫉妬されてあらぬ噂を流された。私以外のスタッフも被害に遭った。書類ケースに個人向けの書類を配布するために使われていた。不用心極まりない。

給与明細が勝手に開けられたことは施設長に報告した。「つまらないことで揉めんな。適当に流して」と取り合ってもらえなかった。
女子同士の揉め事なんてよくある話だ。
年配者からはしょっちゅう嫌がらせされた。
2人介助で回らないと無理なのに、無視されたり。わざと風呂当番を押し付けられたり、そんなもんだ。基本、治安が悪い。

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またしんどい夜がやってきた。
デイサービスで受け入れていた利用者が暴力や施設から出て行き止めようとすると殴る人だった。失禁した服を着替えさせようとすると噛みつかれた職員もいる。
その人が6日間宿泊することになった。

日中でさえ、複数人で対応しなければいけない上に対応困難事例だというのに何考えてんだろうと、夜勤者は不満の嵐だった。
でも、誰かがやらなきゃならない。腹を括るしかない。

どうか6日に当たりませんように…とシフトが出来上がるまでに願った。
そして私が見事5夜目に当選した。どうせなら6日(ラスト)にして欲しかった。
「明日帰れますから」というキラーワードが使えるからだ。
そして、この期間中のみ宿直室で宿直者をつけることになった。
なにかあった時にすぐに起きてきてくれるスタッフがいることが心強い。

1~4日目いずれも問題は起きた。
ガラス戸を椅子でぶち破ろうとしたり、他の人の部屋に乱入したり言い出したらキリが無い。
そして5日目の私が夕方に出勤した時に、宿直者に「ホンマにごめんやねんけど…家帰らせてくれんかな」と言われた。理由は何ですかと尋ねると「また新生児がいるので…あと近いから10分で来れるから…」と言われた。子どもが産まれたのは知っていた。だけどそれはないだろうと思った。宿直できないなら初めに申告してくれよ。と心の中で毒づく。

「分かりました」と言い、1人での夜勤が始まった。
夕食の時から不穏だった。そして玄関先で帰ると大騒ぎが始まった。
下手に止めても悪化するので危険物を除去して遠目に見守った。
諦めてフロアで座っているようになった。
夕食後に飲む薬を持って行って飲んでもらう。
「いいところで寝ましょうか」と言うと部屋に戻って行った。

3時間後の巡回でその利用者の部屋のドアを開けると、ドアを開けて10cmの所に立っていた。「ヒッ!!」っと声が出そうになるのをこらえる。こんな時は平気なフリをしないと相手を驚かせてしまうからだ。
「ずっと立っていたんですか?しんどかったでしょう。足温めましょうか?お湯もってきますよ」と声をかけて足浴をしてふくらはぎのマッサージをする。そのうちに眠ってくれた。

日付が変わる頃に宿直者から連絡が入る。
「変わったことない?大丈夫?」そう言われて無性にカチンときた。
中庭に出て電子タバコをフゥ…と長めに吐き出しながら「大丈夫じゃない、普通に怖いわ」と呟く。
だが「問題ありません。起きていてくれてありがとうございます。」と返信する。

無事に朝を迎えて、心配した日勤者がいつもよりも早く来てくれた。
気にかけてくれている人もいる。
困難事例の方の部屋を重点にケアしていたため、いつもしている掃除は出来なかった。それに対してB子が「なんか汚くない?」と嫌味を言ってくる。

B子は無資格者のため、夜勤ができなった。私がキレなくても「ヤバいくらいしんどい夜勤の日だってあるんだよ。お前、想像力ゼロやな」と言う声が聞こえてくる。

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こうして私は擦り切れていった。
この施設で働いている間にいい出会いもあった。
人生観を変えられるような利用者との会話もあった。
楽しい時間もあった。レクリエーションが成功した日も失敗した日も。
ただ、その施設に合わなかっただけだ。その時の人間の輪にも。

その証拠に現在も連絡が取れる元同僚と偶然会った時に当時のメンバーはほぼいない、転職した人が多い。明るい介護の現場はこの社会に存在するのでしょうか。当人同士だけが楽しい現場じゃなくて、全員が面白いと思える居場所と職場は。綺麗事だけですまないのが介護だと思う。

基本、現場は3K=きつい・汚い・危険を超える。
だけど誰かがやらなきゃいけない仕事だ。
そんな仕事をしていた私の一つの体験記。




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