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きみと8月のすべて ②

「ふふん~♪」
(真由美さん美しかったなー。家に帰ってあんなきれいな人がいるってどんな感じなんやろ。)
涼太はニヤける顔を抑えずに帰宅した。

涼太は7年前、両親の事故死をきっかけに大学を中退し家業であるこの
”夏目酒屋”を継いで、家族5人で住んでいた広い実家で暮らししている。
妹の智那もここに住んでいるが、彼氏である快の家に半同棲状態で涼太は
一人暮らしに近かった。

酒屋の倉庫のすぐ隣にある玄関から涼太がニヤニヤしながら入ってくる。
「ただいま~」
『おかえり~』誰もいないはずの部屋の奥から小さく声が聞こえた。

 〔、、!真由美さん!?来てたんですか?〕
 〔〔うん。突然来ちゃってごめんね、、〕〕
 〔何ゆうてるんですか。24時間いつでも大歓迎や〕

『おかえり』
「はへっ!?・・!?」妄想世界から戻る涼太

リビングのテーブルで智那がアイスをほおばっていた。
「智那!なにしてんねん!ビックリした、、
             真由美さんか思ったのに・・・」
『なに??』
「なんでもないわ」
『おかえり ってゆったやん』
「え。あああ」
智那は顔色を変えず、アイスを頬張りながらかばんから小さな袋を取り出した。 
『はい、今日の売上げ。』
「おう。おつかれ 金庫入れといてくれりゃええのに。ってええ!?」

テーブルの上には智那が今食べているアイスの袋紙が置かれていた。
「ちょ、、」
涼太は冷凍庫を確認した。ご褒美で買っておいたアイスが無くなっている
「俺のアイスやん!!これ食べるの楽しみにがんばっとったのに。。」
『え。ごめん。食べる??』
残り半分以下となるアイスを涼太の方に出して見せた。
「食べへんわ」
いつもの事と諦めた涼太を横目に智那は嬉しそうにまたアイスを口にした。

冷蔵庫から麦茶を取り出す涼太にリビングから智那が声をかける。
『お兄さぁ、ひかるちゃんの事どう思ってん?』
「ひかるちゃん?あの子しっかりしてるっぽいやん。なんかあったんか?」
背中から聞こえてくる声に返事をしながら涼太はリビングに戻ってくる。
智那は直球すぎたかと心配していたが心配をよそにきょとんとしている
自分の兄の顔を除いた
『え、いや、、もしかして・・・・・』

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今日はジリジリ太陽が顔を出していて蒸し暑い空気と少しずつ増えてきた海水浴客で熱気が増していた。
海の家なつめも昼時のピークには人手が足りないと感じるほど賑わった。
スタッフはキラキラと汗を流しながらもアイコンタクトを取りながら笑顔で動けている。
その中心であるゆきと智那は営業終了後、店の片づけを終えたスタッフを見送り汗だくになったTシャツを着替えていた。
「えええー?お兄さん気づいてへんかったん!?」
『そうやねん。』
「ひかるちゃんのアピールって今どきの子と思われへんくらいまっすぐわかりやすいやん」
『いや、だからさ、話進まん位わかって無さ過ぎて、ゆうてもうたんよな。』
「ほんま鈍感やなぁ。」
『ひかるちゃんに悪い事したな、、、
      お兄ってどうしてあぁ妄想力高いのに現実は鈍ちんなんかな』

((パパもママもいなくなって急に家を継ぐ事になって、私も退学しようと言ったけどお兄は聞かなくてしっかり私の大学の学費を工面してくれた。
お兄ちゃんは結婚どころか恋愛もしてる暇もないくらいずっと働いてくれて。
とはいえ、妹としてはそろそろ支えてくれる人見つけてほしいと思てる。
もう年だしさぁ。既婚者好きになったりしなきゃいいんやけど。))

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珍しく午前中に小料理屋なかむらの裏口で涼太と真由美は笑いあっていた。
『昨日の発注わすれちゃってほんま助かったわぁ。忙しいのにごめんね。』
「いや、俺は会えてうれしいですし。
      真由美さんなら24時間いつでも秒であいにきますよ」
『え?』
「あぁ。いやなんでもないっす。そういえば悦子さんは?最近全然お見かけしないですけど」
『ああ。。。ママは少し体調がわるくて』
「そうなんすか。夏風邪はしんどいらしいですからね。
    なんか必要なもんとかあったら言ってください!
    酒屋としてじゃなくて家族として!
    夏目家は悦子さんにめちゃめちゃお世話になってますから!」
『ありがとう。そうだ、
 こないだ試飲でくれたお酒、すごく美味しかった!今度注文できる?』
「あれうまかったすか!良かった、でもあれまだまだ試作らしくて
         全然作ってないんですよ。でも、また手にいれますよ」
『そうなんや。残念やわ。おいしいからはよ商品化してほしいわ』
「酒蔵さんにもそう伝えときませわ。」
『うん。人気出る思う』

涼太は真由美がこの町に居た頃を思い出して鼻歌交じりに海の家に向かった
今日もこれから海が盛り上がる。

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「よ!智那 今日もあっついな!がんがん働けよ?」
ご機嫌な様子の涼太が軽トラで海の家前まで乗り入れた。
生ビールやサワーの樽を運び入れる。
智那もお酒の運搬という力仕事には慣れていて、すぐに軽トラに駆け寄った
「智那、重いやろ。ええねんええねん。俺がやっとくから」
そう言って智那の運ぼうとするケースも涼太が軽々と奪った
『なにこれ。お兄、ニヤニヤして気持ちわる。』
「なんや?」
ニヤニヤ顔で振り向いた後ろには、同じく運搬を手伝うつもりのひかるがいた。
『おはようございます。』
「お。おうう。」
智那は目線で助けを求められたが、自分でやればと目線をそらし店の作業へ戻る。
ひかるの目には涼太がいつもよりキラキラして見えていた。
『涼太さん、今日も暑いですね!よろしくお願いします!』
「おお、今日もがんばってな!」
『はいッ』
ひかるの目は透き通りキラキラしている。

涼太がすべてのビール樽を運び終え、今まで全く気にならなかったひかるからの目線に気づき始めた頃、真由美は夕方の営業に向けて仕込み中。
九州にいる旦那から電話が鳴っていた。


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