見出し画像

きみと8月のすべて ①

「すっきゃーーー。ええぞ。夏。今年も来たな。会いたかったで!夏!!」

涼太はキラキラと光が反射する海が眩しい海の家の店前で腰に手を置き
太陽の光を全身に感じながら叫んでいた。

今年は例年もよりも梅雨の時期が長引きいつも以上に蒸し暑さが増している
関西地方にあるこの町は海が取りえと言っても過言ではなく
夏になると各地から海水浴客がごったがえす。

この辺りで商売をしている人間はこの季節になると海の家も展開する。
涼太、智那の兄妹もその例外ではない。

 〔〔あの、お一人ですか?良かったら・・・〕〕
 と白と紺のビキニを着た20前半の女の子が上目遣いで涼太に話しかける。
 〔おお、かわいいガールだね。でもごめんね、、僕今お仕事中やねんな。〕

「あれ?お兄さん、またどっか行ってへん?」
『え?あ、ほんまや行ってもうてんな。帰ってきて働いてやー』
店先で一人ニヤニヤして別の世界に言っている涼太を見てゆきと智那はあきれ笑いしていた。
智那の同級生であるゆきは学生の頃から涼太たちの海の家でバイトしてくれていて就職した今でもこの時期になると本業の休みに合わせ手伝いに入ってくれる。
『ま、えっか、帰ってこんでも!いっそそっちの世界の方がお兄ぃは幸せかもしれへん!』
と、笑いあう智那とゆき。

「智那さんのお兄さんってほんとにかっこいいですよね。」

後ろから聞こえた声に智那とゆきが振り向くと今年からバイトで手伝ってくれることになった大学生のひかるがキラキラした瞳で涼太を見つめていた。
『え!?』
智那とゆきは驚き、目と声を合わせた。
「ええええーーー!!!」

=========
「んんー!いい天気だ。久しぶりに来たね。夏」
真由美がこの時期に実家である「小料理屋なかむら」に帰ってくるのは4年ぶりだった。

=========
涼太はまだ海の家の前で一人ニヤニヤと想像の中の美女の誘いを断っていた
ドンッ
「焼きそば1つ」
涼太が我に返り注文口の方を振り返ると、優也だった。
優也は涼太の中学の同級生で、近くの自動車メーカーで働いている職人だ。
この季節になると昼休憩にわざわざここまで来てくれる。
7月の上旬12時少し前のこの時間は海の家のまだ少し空いていた。
「今年もはじまるな、涼太」
『来てまうねんなー!夏は!』
「今年は智那ががっつりこっち手伝うねんて?」
『そうやねん。あいつ転職するとかで夏の間、有休消化っていい御身分や』
「そらええな。智那の味好きや。」
『おお、おおきに。ほな今年も足しげく通ってや』
「行列ができる前までやなー。」
背を向けていた注文口から智那がやきそばを差し出した。
「優也君お待たせ 800円」
注文口の上のメニュー板に”やきそば800円”と書かれている。
「おう!智那サンキュー!大盛りやろ?友人価格で助かるわー!」
涼太は智那にアイコンタクトで伝え優也と一緒に店を出た。
「涼太さん!」
振り向くとひかるが、店前に置き忘れたタオルを差し出してくれた。
『あ!ひかるちゃんありがとう!!助かったわ!』
ひかるは嬉しそうに恥ずかしそうに笑い、店に戻っていった。
「新人さん?かわいい子やな」
『大学生やって。つい1週間前位に面接に来てんけど、よく働く子やわ』
砂浜とコンクリートの境目のところで涼太と優也は別れた。
『ありがとうな、優也。俺配達出なあかんから。また来てな!』

涼太は鼻歌を口ずさみながら停めてあった軽トラを走らせた。

=========
涼太は「小料理屋なかむら」の裏口にお酒のケースを抱えていた。
「こんにちはー」
『はーい』
60代のかわいらしいお母さんが1人で仕切っているこの小料理屋の裏口から顔を出したのは、涼太の初恋の人だった。
((う、うつくしい・・・))
見とれている涼太に真由美の声が入ってくる
『涼太君!久しぶりやねぇ、元気しとった?』
数年ぶりに見る憧れの人はとても、とても輝いて見える。
「ま、真由美さん、、戻ってはったんですか。」
『そうやねん。年末年始とかは帰ってくることもあってんけど、
 今年はちゃんと店手伝おう思うて。この時期は忙しいの知ってるし』
「そう、、なんですね、、」

 〔真由美さん、俺、ずっと待ってました。〕
 〔〔・・・涼太君私も、、店におったら会えるかな思うてな〕〕
 涼太は勢い余って壁に真由美を追い込み、右手で行く手を遮った
 〔俺たち、こうなる運命やったんですわ。デステニーっすわ、、〕
 と涼太が真由美に顔を近づける・・・

『涼太君は、相変わらず元気そうでよかったわぁ。今年も海の家盛り上がってるみたいやし』
と、言いながら真由美は手際よくお酒の検品をすすめていた。
検品するその左手の薬指でシンプルなシルバーが光を集めていた。
涼太は我に返り
「はっ。元気です!てか元気になりました!!
    海の家もぼちぼちですけどね!今度遊びに来てくださいよ」   
『そうやなぁ。せっかく久しぶりの実家の夏やし時間作って行こかな』
と微笑んだ真由美はどこか切なくきらきらと光を吸い込み美しかった。
「はいっ!」
「あ!そうや!!ちょっと待っとってください」
そう言って涼太は自分の軽トラから紫の朝顔の書かれた小さな小瓶を持って戻った。
「これ!酒蔵さんから試飲でもらったんです。
              良かったら飲んで感想聞かせてください」
『え?ええの?きれいなお酒やな・・・』
小瓶から反射した光でまた真由美の表情が輝くように見えた
   
 〔〔そんな、真由美さんが一番きれいやって〕〕

『ありがとう。』
「はへっ!!あぁぁ。はいっ!ほな、こっちは回収していきますね!!」
涼太は裏口に置かれた空瓶の入ったケースを持って軽トラに戻っていった。

真由美さん、、キレイやったな、、






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?