見出し画像

「MBA問題解決100の基本」を読んでみた


▪️本書の要点

  1. 限りある経営資源と時間を有効に活用するためには、「本質的な問題」と「単なる現象」をしっかりと見分け、重要箇所にエネルギーを割く必要がある。

  2. 平均的な場合と個別の問題の差異を見極め、マニュアルやテンプレートに自分なりの視点の転換を盛り込むことで、ユニークなソリューションを生むことができる。

  3. 問題とは、「あるべき姿」と現状とのギャップである。その「あるべき姿」を適切に設定すること自体が問題解決に影響を与える。

▪️要約

見きわめる技術

ー問題の存在を認識する

問題は、実在すること以上に「認識」することが重要な意味を持つ。問題を認識しなければ、問題解決のためのアクションが取れないからだ。

また、問題を認識しなければ、組織の生産性は上がらない。たとえば、目標がわずかな差で未達に終わったときのように、「明確にネガティブではない」場合。「まあいいか」と感じる人もいるだろうが、その目標を設定したのにはそれなりの理由があったはずだ。その目標が妥当なものであったなら、達成意欲の欠如やPDCAの実行の甘さ、あるいはコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)の不適切さなどを問題と認識し、解決を図る姿勢が重要である。

失敗の予兆に気づき、議論する

fizkes/gettyimages

「失敗した会社では、多くの社員はずっと前から問題を知っている」
――つまり、企業はある日突然経営状態が悪化して倒産するわけではない。必ずその予兆はある。そして多くの従業員はその原因を知っている。

原因が分かっていようと、経営資源の制約などからすぐに対応できないこともあるだろう。だが手遅れになる前にその予兆に気づき、皆で議論してつぶしこんでいく必要がある。

原因がわかっているにもかかわらず、それを本気で議論しないこともある。「日本人はファクトから目を背ける」とよく言われるが、好ましくないファクトを見つけたら、それを報告し、議論する姿勢をもたねばならない。若手には特に、この姿勢を身につけてほしい。

「本質的な問題」を見きわめる

「『本質的な問題』と『単なる事象』を区別することが大事」
――この言葉はコンサルタントの大前研一氏のものだ。
世の中の出来事や変化は突き詰めれば何かしらの問題、あるいはその原因の萌芽とも言えよう。だが経営資源や時間は有限だ。だから、どれが無視してしまうもので、どれが問題解決しなければならないものか、しっかり見分けなければならない。

では、どうすれば本質的な問題を見分けられるのか。
基本となるのは、ロジックツリーなどを用いて細分化を行い、重要箇所にエネルギーを割くことだ。

ただし同時に、現実はそれほど単純ではないということも覚えておこう。「地球の裏側の蝶の羽ばたきが大きな災害をもたらす」とまではいかずとも、ネット社会において、小さな事象が大きなトラブルをもたらす可能性も無視できない。

行動する技術

ー小さな問題解決を積み上げる

Jovanmandic/gettyimages

アマゾンには、ツーピザルールという問題解決ポリシーがある。
顧客からの要望などに対し、2枚のピザを分け合えるくらいの人数、つまり4~6人のチームでスピーディに問題解決に当たるというものだ。

アマゾンのこのポリシーは、CEOのジェフ・ベゾスの「コミュニケーションは人数が増えるとかえって非効率になる」という考えによるものとされている。集合知という言葉があるとおり、人間の数が増えれば効果的な意見が出る可能性は高まる。しかし重要なのは、良い意見を出すことでなく、最後までやり抜くことだ。人数が多すぎると、意識合わせなどに時間がかかり、スピード感が落ちてしまうリスクがある。

小さな問題解決を積み上げることが、大きな成果につながる。その観点からも、このルールは応用の可能性を秘めているといえよう。

独自解を探す

大手コンサルティングファームは、問題解決のプロだ。そんなコンサルティングファームには、通常、業界やテーマごとにナレッジ共有がなされている。新しい依頼を受けた際、今まで蓄積してきた知見や標準プロセスを利用することで、スピードアップや質の向上が可能になるわけだ。

一方、マニュアルやテンプレートを用いることが必ずしも適切ではないこともある。問題それぞれに固有の特性があるからだ。平均的な場合と取り組むべき問題の差異を見きわめ、自分なりにどうすれば良いかを考えてみよう。そうすれば、効果的な解を導きやすくなる。自分の強みを活かしやすい差異に着目し、そこで価値を生み出すのもいいだろう。

相手と向き合って話す

「コミュニケーションの効果は聞き手が決める」とはよく言われることだ。これは問題解決における説得や依頼にも当てはまる。効果的な説得をしたように見えても、相手を動かすことができなければ、それは良い説得だとは言えない。

ポイントは、結局自分は何を解決したいのかという原点に立ち返ることだ。常に相手の関心や説得のレバー(利得、規範)、つまり説得の琴線になる部分を意識する。

同じように、人間は一人ひとり異なるという基本も忘れてはならない。質問を投げかけて理解度を確認したり、相手の表情から前向き度合いを読み取ったりするなどといった地道な努力を怠らないようにしたいものだ。

失敗に学ぶ技術

ー大失敗から学ぶ

bee32/gettyimages

ビジネスパーソンにとって、失敗から学ぶことは不可欠だ。特に大失敗からは学べることが多く、同じミスを繰り返しにくくなるものだ。

失敗は、人を注意深くし、賢明にする。「信じられないほどの大失敗の方が学びは大きい」とはスティーブ・ジョブズの言葉だが、彼の失敗は、アップルを一度追い出されたことだ。だが彼はそれに屈しなかった。その失敗によって組織や人の何たるかを学び、経営者としてステップアップしたのだ。

新しいことに挑戦したときや新しい環境に飛び込んだとき、人は大失敗しやすいものだ。言い換えれば、チャレンジには失敗がつきものだということだろう。後輩や部下には、会社にとって大きな損失を与えない程度のチャレンジをさせ、学びを加速させるのもいいだろう。

ミスを憎んで人を憎まず

「ミスを憎んで人を憎まず」
――星野リゾートでよく用いられている言葉だ。問題解決の途中で、その原因や要改善箇所が特定の個人に行きついてしまうことがある。そんなとき、その個人を責めることが必ずしも良いとは限らない。必要以上に当人のやる気を削ぎ、萎縮させてしまうかもしれない。

ではどうするのがいいか。それは、「犯人探し」よりも、そのトラブルが発生した「システム」に注目することだ。マニュアルが十分でなかったのか、サインの位置をすべての人に見える位置に変更すべきではないか。そもそも伝え方が不適切だったのではないか。こうしたことを改善すれば、再現性の高い問題解決につながるはずだ。システムの問題を個人に転嫁するのは、思考停止に他ならない。

▪️必読ポイントー課題設定の技術

良い「あるべき姿」を描く
「問題解決」と「課題解決」の違いは何か。
本書では、
「問題解決」は「あるべき姿」と現状とのギャップ
「課題解決」は問題解決に向けたポジティブな取り組みを指す。
具体的には、「体重が目標体重より10キログラム重い」は「問題」に、「体重を〇〇の期間に10キロ減らす」は「課題」に当たる。

「あるべき姿」は一律に決まるものではない。それを適切に設定すること自体が、問題解決や課題解決に影響する。適切な「あるべき姿」を描く方法は5つだ。
(1)関係者間で最大限の合意があること
(2)自分や組織の長期的成功に資すること
(3)皆の思いが反映されていること
(4)世の中の大きな方向性に乗っていること
(5)実現可能性が高いことだ。

これらのバランスは、そのときどきで変わる。あらゆる情報を考慮したうえで、5つのポイントを高い次元で満たす「あるべき姿」を構想する必要がある。

「あるべき姿」はゼロベースで描く

コンサルティングファームなどでは、「あるべき姿」をゼロベースで描くことが推奨されている。つまり既存の前提や常識にとらわれない発想だ。これは特に、新製品・サービスを開発するときや、新事業を構想するときに有効な手法である。

一方、ゼロベース思考にはデメリットもある。それは、それまでの職場のやり方を変えるなど、人々の行動に関わってくると、非常に大きなエネルギーを要するということだ。変わることを嫌う人間や既得権益者といった抵抗勢力には受け入れにくいものなのだろう。

ゼロベース思考においては、その「あるべき姿」が本当に人々のメンタリティの面からも受け入れられるかどうかを検討しておかなければならない。問題解決のスピードや効率を左右する可能性があるからだ。

顧客の問題を解決する技術

一番不満を持っている客から学ぶ

fizkes/gettyimages

企業にとっての顧客の存在意義は、キャッシュの創出源だということのみではない。情報源や学びの相手という側面もある。ファーストリテイリングや東レをはじめとする多くの企業は、自社に好意的な顧客との共同プロジェクトを立ち上げるなどして「顧客の顧客」に対する問題解決を提供している。

だが一方で、好意的な顧客とだけ関係を結んでいては、ブレークスルーは生まれない。エンドユーザーの潜在ニーズを満たすこともできないだろう。

有効なのは、大きな不満を持っている顧客に学ぶことだ。長期的な契約を結んでいるがゆえに、不満を抱えながらもサービスを使ってくれている既存顧客や、声をあげずに消えていった過去の顧客もいる。彼らが抱える不満を知ることで、何らかのヒントが得られるだろう。

お客様に恥をかかせない

顧客が明らかなマナー違反を犯したときや、「お断り」と明示してあることをしようとしたとき。そんなふうにトラブルの原因が明らかに顧客にあるときでも、高圧的な態度を取らないようにしたい。「恥の文化」が根付いた日本人は、他者からの見られ方と自分の体面を気にするからだ。

重要なのは、相手に恥をかかせないようにことを収めることだ。さまざまな方法があるが、相手のミスでも自分の非として対応するのがよいだろう。「この表示がわかりづらかったですね」「今後のサービス向上に活かさせていただきます」などという言い回しを選ぼう。事実を指摘して恥をかかせるのではなく、相手の立場に立って考えるようにする。

もう一つの方法は、時間をかけて対応し、相手に共感を示しつつ怒りが収まるのを待つというものだ。ロジックで打ち負かすのではなく、相手の立場を想像しつつ、その気持ちに寄り添うようにしたい。

▪️すゝめ

本書を読めば、多くの問題は先人によって既に解決され、そのコツが明らかにされていることがわかるだろう。ぜひ本書で紹介されるさまざまなコツを習得し、ビジネスの現場で活用してほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?