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ときどき一句鑑賞1|バターサンド

マルセイバターサンド常緑樹の林  佐藤文香


「マルセイバターサンド」は、六花亭のお菓子だ。しっかりと固めのビスケットに、バターとホワイトチョコレートを合わせたクリームと、レーズンが挟まっている。そのおいしさもさることながら、パッケージが素晴らしい。薄くてぴかぴかの銀のフィルムで、一つずつぴっちりと包装されており、特別なお菓子としての厳かな佇まいがある。指先にわずかに力を込めてフィルムを切り、ゆっくりと包みを開いてゆくときの、しんとした心持ち。それが、「常緑樹の林」から想起される静寂ととてもよく合っている。「常緑樹」の種類は特定できないが、北海道のイメージを重ねて読むと、エゾマツやトウヒなどの常緑針葉樹になるだろうか。そこに、お菓子のパッケージの銀、クリームの白がオーバーラップして、(句にはどこにも書かれていないが)音もなく林に降り積もる雪まで見える気がする。

一句のうち実に十音が商品名で占められているにもかかわらず、このイメージの広がりはどうだろう。私が「マルセイバターサンド」の大ファンであるせいもあるだろうが、取り合わせの技の妙に、何度読んでも感嘆する。

俳句の出典:『天の川銀河発電所  Born after 1968 現代俳句ガイドブック』、左右社
http://sayusha.com/catalog/pisbn9784865281804