自転車ロードレースのこと
いつも自転車選手の似顔絵や4コマにスキしてくださってありがとうございます。
選手権も終わったし、ここで自転車ロードレースについて一言説明させてもらおうかと。おかしい所があれば、容赦なく突っ込んで下さい。
色々スポーツ見るのが好きなんですが、その中で現在一番深くハマっているのが自転車ロードレースです。舗装された公道を走って速さを競うレースです。山岳、平野、街…変化に富んだコースや、敵味方が入り混じってひとつの集団となって走る呉越同舟感が他の競技にはない魅力だと思っています。
一番好きなスポーツだけど、時々自分は何でこんなスポーツ観てるんだろ…と醒めた気持ちになったり、このスポーツ終わってるわ…と悲観的な気持ちになることもあります。
そう思うのは好きな選手が負けたとか引退したとかいう時ではなくて。
ドーピング。
この競技マジでドーピング問題大杉。
一応、2009年から新しいドーピング防止策が実施されて、現在の自転車プロ選手は他競技の選手以上に厳しく監視されてドーピングに手を染め難い環境に置かれています。
でもそれは裏を返せばそれまでの自転車界がどんだけ薬漬けだったかを示してるわけで。
90年代から00年代半ばにかけて、EPO(エリスロポエチン)という薬と自己血輸血という手法が大流行しました。
赤血球を増やして持久力を向上させる効果があるけれど、検査ではなかなか見つかり難い手段として、自転車をはじめ持久力を必要とするスポーツで重宝されていたようです。他にも減量のための薬とか、証拠隠滅のための薬とか色々併用していた選手も多いようです。
ドーピング全盛期(嫌な言葉!)には、レース期間中に検査に引っかかった失格者や逮捕者が出ても、ファンは恒例行事キターぐらいにしか思わなくなっていました。
出場停止処分だけでなく(恐らく)ドーピングの副作用で自らの命を奪われるという重すぎる代償を払った選手も1人や2人ではありません。
とはいえ、そういう時代であってもファンは「検査で引っかからなかった選手はクリーン」と信じていました。最近になってようやく、それすら嘘だったということが解ってきたのです。
薬を使う側は常に監視する側の一歩先を進んでいるもので、トップレベルの選手は検査で見つからないようなタイミングと使用量を綿密に計算して、常に計画的にドーピングを行っていたのです。
ランス・アームなんとかという有名な元選手がいます。アメリカ人です。
最近のインタビューで「俺は名前を言ってはいけない人扱いされてる」と自分で言っていたので、私もそれに倣います。
このランス・なんとかストロングは20代半ばにして重度の精巣ガンを患いながらも、治療の末奇跡的に競技に復帰し、1999年から2005年にツール・ド・フランスを7連覇すると言う偉業を達成しました。
正確に言えば「達成したと信じられていました」ですね。
ガンから復帰しての偉業は全米の尊敬を集めました。
元から俺様系だったキャラはもはや傲慢と言っていい程に増長しましたが、アメリカではそれも人気を集めました。アメリカではそういうキャラって受けるんですよね…まあアメリカ以外の自転車ファンも、勝負の世界だしそういう強烈なキャラもアリかな~と容認していました。
彼の現役時代から、あまりの強さからドーピングを疑う声はありましたが、ランスの「ヨーロッパ文化である自転車レースでアメリカ人の俺が活躍してるから嫉妬してイチャモンつけてるだけだ。ファッ●ンクレイジー!抗がん剤で散々苦しんだ俺がドーピングなんてするわけないだろガタガタ騒ぐな」という言い分を、アメリカ人だけでなく多くの自転車ファンが信じてしまいました。
スポーツファンって基本的に現役選手の味方してしまうんですよね。
その時期のランスは間違いなく自転車界の「ボス」であると同時に、アメリカでは単なるスポーツ選手の枠を越えた「英雄」でした。移動は全部プライベートジェット!自宅にしょっちゅう有名ミュージシャンや政治家を呼んでぱーりーぱーりー!的な生活。
ガンからの復帰というエピソードは人々を惹きつけたし、ランス本人も自らガン撲滅キャンペーンを指揮するなど、スポーツ以外の分野で名を挙げることにも積極的でした。将来大統領選に出れば当選確実と言われてたし、実際出る気マンマンだったんでしょう。
ちょっと話逸れちゃうけど、マスコミの影響力を巧みに利用しながらも「マスコミの連中は俺に嫉妬して酷い中傷ばっかりしやがる!」と自らを「孤立無援のヒーロー」として描く手法は橋下徹とそっくり…この人たち間違いなく「注目されなきゃ死んじゃう病」「イエスマンに囲まれてなきゃ発狂しちゃう病」を患っていると思われます。
ツール7連覇の後しばらくは、引退状態だったり復帰してみたり、大物女性ミュージシャンとくっついてみたり別れてみたりと、that's セレブ生活!って感じの日々でした。
潮目が変わったのは2010年に元チームメイトのフロイド・ランディスという選手が「ランスはドーピング常習者だ、自分だけでなくチームメイトにもドーピングを強要していた」と告発して合衆国アンチドーピング委員会による捜査が始まった時でした。
ランスは当然ものすごい勢いで否定しました。「フロイド・ランディスの言ってることは真っ赤な嘘だ!奴はファッ●ンスチューピッドだ!!!」
この時も殆どのファンがランスの言い分を信用してしまいました。まあ、ランディス自身も2006年にツール勝った直後にドーピングで失格になった人だから信用されないのも無理もないです。
アンチドーピング委員会の捜査は、フロイド・ランディスだけでなく多くのアメリカ人選手やその家族、医師やチームスタッフにまで及びました。
永らく騙されていた自転車ファンの目を覚ましたのは、その捜査過程で明らかにされた複数の選手の証言でした。
ごく一部の選手以外はクリーンかつフェアに戦っているのだと、ファンだけでなく選手たちも信じて飛び込んでいったその世界が、実は禁止薬物なしでは戦えないほど汚染されていたこととか。
勇気を奮って蔓延するドーピングを告発しようとした選手が、逆に自転車界の名誉を傷つけたとして村八分に遭って引退に追い込まれたこととか。
捜査に協力した選手はドーピングの事実を認めて、ファンに対してもその村八分選手に対しても謝罪を表明しました。
そりゃショックでしたよ。
他競技と比較してドーピングで失格になる選手が多いとは思っていたけれど、まさか検査をパスした選手の中にもそれ程多くの違反者がいたとは。
我々ファンは検査でクロになってない選手を疑うわけにはいきませんから。
ランスの傲慢な言動も、彼に薬物違反がないと思っていたからこそ容認されてたわけで。
その後ランスはTVのトークショーでドーピングを認めましたが、一貫して捜査には非協力的でした。
「薬に手を染めてたのは俺だけじゃない!あの時代はみんなやってた!俺だけが責められるのは不公平だ!!!謝罪なんかするか!!!俺は競技に復帰する!!!」
ランスには自転車競技だけでなくアメリカオリンピック委員会に属する全ての競技から永久追放と、1999~2005年のツール・ド・フランスでの勝利の抹消という処分が課されました。
もちろん、捜査に協力していればもっと軽い処分になった筈なので、ランスの「俺だけ永久追放とか不公平だ」という言い分は筋が通りません。
現在の彼は元スポンサー企業や保険会社、全部負けたら何億ドルとも噂される程の数多くの民事訴訟と刑事裁判を抱えています。
彼に子供さえ居なければ「ざまあwww」って笑っていられるんだけど…
現在のロードレースでは、他のどの競技よりも進んだ反ドーピング策を実施していて、これがスポーツ界全体の反ドーピング策をリードするだろうと言われています。その一方で、自転車選手相手に薬物を提供したり使用法を指導してたりした悪徳医師たちが、自転車界では仕事をしにくくなったため他競技の選手に狙いを変えつつあるという噂もあります。
また、2012~2014年ごろのデータを見ると、ドーピング全盛期と比べてレースのスピードは5~8%も遅くなっており、違反者が少なくなったことを示唆しています。逆に機材面では大きな進化を遂げているにも関わらず。
それでも、違反者のニュースを聞かずに何ヶ月も過ごせることは、今もなかなかありません。
ドーピング全盛期に手を染めていたけど幸運にもお咎めなしで済んだので、今も知らん顔して走っている選手も確実に居るでしょう。
逆にあらぬ容疑をかけられて出場停止処分を喰らった選手が精密検査の後「実は無実でした」ってケースもあります。
ドーパーの悪知恵と反ド委員の検査技術がいたちごっこ式に進歩していく中で公正・公平を保つのはなんと難しいことなんでしょう…
ランスが「他の選手もやってたじゃねーか!何で俺だけ責められるんだ」と悪あがきしていた様を、自転車ファンや関係者は反面教師にしなければいけません。
他競技のファンや関係者から「自転車の世界は汚れてる」と言われても「他の競技だってドーパーはいるだろ」と開き直るのではなく、自分達の問題として直視できるようになるでしょうか。
そして転んでも騙されても只では起きないアメリカ人。何でも映画化しないと気がすまないのがアメリカ人。
もうすぐ全米公開です。日本でも観れるかなーwktk
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