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12)オーストラリアでパパ活しかけたときの話2(25歳)

ベトナム旅行でオーストラリアのおじさんグループ3人組と出会ってから2年、語学留学で渡豪した私はグループの1人「ジョン」と久々に再会することになった。
たまたま私の滞在している街メルボルンを訪れる予定があったらしく、彼は飛行機に乗ってはるばるアデレード(オーストラリア第三の都市)からやってきた。

私たちは金曜の午後に市内にあるロイヤルボタニックガーデン(王立植物園)付近で待ち合わせた。
彼は黒い皮ジャケットにジーンズという出立ちで現れた。

メルボルンのボタニックガーデンは100年以上前に造園された英国式庭園で、多種多様な植物に囲まれた美しい景観を楽しむことができ、遊歩道は7kmにも及ぶ。私たちはぶらぶらと歩きながらふだんの生活や彼の友人の話、一緒にベトナム旅行に行った私の友人の話など相変わらず他愛もない話をした。

ひととおり公園をまわったので、私たちは芝生で小休止することにした。

9月のメルボルンはまだ肌寒いとはいえ、色とりどりの花たちに囲まれて春の到来を感じる。(南半球なので季節が真逆)
私がぼんやり遠くの花を眺めていると、おじさんは「君に見せたいものがある」と言っておもむろに上着を脱ぎ始めた。

思いもよらない彼の行動に私が呆気に取られていると、「最近習っている太極拳(たいきょくけん)を見せたかったんだ」とおじさんは付け加え、私の意思とは無関係に太極拳の型をはじめた。

スクリーンショット 2020-10-23 午後10.28.00

太極拳とは中国武術の一種だ。ゆっくりとした独特の動作で体重移動しながら足や手を動かすので、体を支える筋力やバランス感覚が問われる。基本的にゆるやかな動きが多いので、日本のラジオ体操のように「健康維持のための運動」と扱われることが多い。

しかしおじさんの太極拳は激しかった。
時折「ハァッ!」と気合の声とともに拳を力強く前に突き出す。おじさんの声は緑豊かなボタニック・ガーデン内に響き渡った。

私はドラゴンボールやジャッキー・チェンを観て育ったのでカンフーというか、格闘技なんかは割と好きなほうだ。
ただこの時はあまりに彼の行動が予想外だったので戸惑いしかなかった。

ひととおり太極拳を見せ終えたおじさんは、芝生に腰をおろして一息ついた。

「そういえば話しておいた方がいいことがあるんだ。」
「うん?」

彼は神妙な面持ちで話はじめた。

「僕は以前中国の女性と結婚してたんだ。でも今は離婚した。彼女とはまだ友人で時々会いにいったりする」
「う、うん。」

なんだ?雲行きが怪しい。

「今は未来のパーフェクトレディに出会えるのを待っている」
「はぁ」

「それでその…それまで楽しみたい。君は僕の嫁さんにはなり得ないけど、でもスペシャルなんだ。」
「…」

「とりあえずハグしてくれないか?」
「ア…アイ ハブ ア ボーイフレンド!!(嘘)」

私は逃げた。意味がわからない。なんで太極拳も見せたんだ。求愛のダンスなのか?

スクリーンショット 2020-10-23 午後8.07.40

そうか。そういうものなのか。あぁ私はバカなんだな。
まさか父親ほど歳の離れた男性に言い寄られるなんて思いもしなかった。
しかも本命ではなく、スペシャルな遊び相手にしかなり得ないと。どうせなら本命にしといてくれ。

片田舎でマイルドヤンキーになっても、東京の生活に揉まれても、田舎生まれのピュアな心は変わらないのだ….。

ジョンは「関係を壊してしまったのなら申し訳ない」などとメールを後日よこしたが、
私はもう何も返事しなかった。


ジョンから逃走したその日、私は新しい英語のフレーズを覚えた。

Whatever will be, will be.

「なるようになるよ」。ボタニックガーデンでおじさんが最後に言っていた言葉だ。うるせー!と思った。


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