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13)前のめりなアジアンメイツ(25歳)
そういえばオーストラリアでアルバイトをしていたことがある。
パパジョンに再会する少し前、いつものように語学学校に到着すると、タイ人のクラスメイトが日本食レストランでスタッフを募集していると教えてくれたのがきっかけだった。
「You look for a job? You can work at a Japanese restaurant!! Japanese restaurant is good for you!」
はて私アルバイト探してたかな..?首を傾げているとクラスメイトは、
「You should bring a resume!! You go today! I can come today too! 」
と笑顔でまくしたてた。同行するので今日履歴書持って行けとのことらしい。余談だが私が出会ったタイの方は面倒見がよく、全員もれなくとても優しい。だてに「微笑みの国」と呼ばれていない。
とにかく私はそのまま勢いに流されて面接にいくことになった。貧乏学生なのでわずかでも日銭が稼げるに越したことはない。
レストランは家から数駅離れた海の近くにあった。
ガラス張りの店内からは、浮世絵や招きネコ、ちょうちんなど「日本っぽい」ものが節操なく並べられている。"エセ感"がすごい。
とにかく店内に入ると、50代くらいの女性が笑顔で迎え入れてくれた。
「コニチワ!!はたらくのね?!わたしヨシコよ!」
声がでかい。女性はオーナーの奥さんで中国の人だった。なので実質「ヨシコ」さんでは無いのだが、とにかくここではヨシコさん(仮)と呼ばれているらしい。
ヨシコさんと話していると、店内の奥から彼女と同じ歳くらいの男性がやってきた。
「アナタはたらくの!?いつから来る!? 明日!?」
![スクリーンショット 2020-11-02 午後6.04.13](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/61617945/picture_pc_12da6ed846b20393d24b729968517e5c.png?width=800)
やはり声がでかい。この人がオーナーらしい。この人も中国の方で、でもここでは「サトウ」と名乗っているらしい。
あとから聞いた話だが、サトウさんは何年か日本で料理の腕を磨き、一念発起してオーストラリアで日本料理店を立ち上げたらしい。「料理の鉄人っていうテレビでたことアルンダヨ!」といつも自慢していた。(後日、証拠動画を見せられた。中華料理だったが)
持参した履歴書はろくに見ず、「じゃあ来週からきてネ!」ということで話は早々にまとまった。
まぁなんでもいい。新しい経験の大抵はプラスになるだろう。
このレストランに来るお客さんはオーストラリアの方が多く、週末になるとかなり繁盛している。
メニューは寿司からうどんやそば、鉄板焼き、すき焼き、しゃぶしゃぶなど幅広く取り扱っている。
一応生粋の日本人の私からすれば若干テイストが異なるような気もするが、もしかしたら現地の人々の口に合うようアレンジしたのかもしれない。
覚えることもそれなりにあって、語学学生としてやってきた私には十分な英会話の練習の場となった。
![スクリーンショット 2020-11-02 午前10.37.50](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/61617963/picture_pc_238313c8bc2f8be3e7575b683859a748.png?width=800)
忙しい時間帯になるとヨシコさんとサトウさんはよく「クエ!」と叫ぶ。
まさかお客さんに「食え!」と叫んでいるわけでもないだろうし、私やスタッフに向かって言っているように見えるがお客さんの寿司を食うわけにもいかない。私は訳がわからないという顔でスルーした。
学生時代は接客業を中心にアルバイトをしていたのでホール作業そのものは比較的慣れてはいたが、様々な文化が交錯するこの場所で学ぶことは本当に多かった。
渡豪して以来日々感じていたことだが、これまで私が思っていた当たり前がいかに当たり前でないか、ということを再認識させてくれる場だったと思う。
![スクリーンショット 2020-11-01 午後9.14.42](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/61617969/picture_pc_a9988d3366d139e148e9aeedf2e90620.png?width=800)
帰国が迫り、アルバイトを辞める直前でようやく彼らが「クエ!」ではなく「Quick!」と言っていることが判明した。
ヨシコさんとサトウさんは常に前のめりぎみに話し掛けてくる人たちだったが、基本的にはとても面倒見が良く、日本に住んでいただけあって話やすい人達だったと思う。
ネットで見たところ数年前に店を畳んでしまったようだが、きっと彼らは今もどこかでたくましく生きているだろう。
今でも彼らの「クエ!」は忘れられない。
続き
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