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フレル朗読劇団のこと②

さて、ようやく12月3日の発表会当日の話です。

本番は2時からだけど、朝から集まることにした。なにせ今まで一度もリハーサルをしたことがないのだ。加えて会場セッティングをしたいので早くに家を出たのに、そんな日に限って阪和線が止まる。
せっかく特急を奮発したのに、動き出して30分もたたない間に早々に止まってしまう。慌ててLINEでみんなに現状を報告。鍵を開けてもらうお願いをしたら、あとは電車の中で足踏みするわけにもいかず、今日に備えて少し寝る。
結局到着はメンバーの誰よりも遅くなった。
息せききって行くと、なんと、みんなが掃除をしてくれていたのだ!
掃除機をかけたり、カラオケセットやテレビの裏側、下駄箱などの拭き掃除など、
観客を迎えるために思い思い気になる場所を整えている。
そう、わたしはメンバーを迎える前に早く行ってこれをしたかったのだ。
掃除はとても大切。それは場にいる人に影響を与えるし、伝わると思っている。
そんなこと何も言わなくてもみんながどんどんピカピカにしてくれていて、すごく嬉しかった。


靴も下駄箱に全て入れてくれた。聞くと野風さんが、「こういうものは入れておいた方がいい」とやってくださったとのこと。
ここはわたしも盲点でした。勉強します!

カラオケセットや机が積んであるところに持ち寄った布をかける。最後に6メートルほどの長さのインドのサリーを横断させてまるでパッチワークのような背景の出来上がり。
布処理や掛け方に執拗にこだわって何度も直してもらう。
その準備の執拗さにメンバーの1人であるカエルさんが焦れる。「早く稽古しよう!もう布なんかいいやんか!なんで稽古せえへんの?もう時間ないよ!」
けれどもみんな笑いながら掃除したり、お湯を沸かしたり、結局準備にたっぷり1時間かかった。
けれども時間かけただけあると思う。

準備体操として、全員で音楽をかけてアクティングエリアを歩く、途中立ち止まってストレッチする、を繰り返す。そのうち相手の肩にちょっとフレル。触れられた人は止まって腕を上げ下ろししなければならないとルールを決める。
あまりにおもしろいことが起こるのでこれをオープニングしようと決めた。客席にも行ってお客様の肩に少し触れてみたらどうなるだろうねと提案。本番では果たして、お客様も手をあげてくださり、笑い合いながら始まった。

1時間前から稽古を見てくれたたけちゃん。


最初は4人の1人語りに登場してもらう。

最初の朗読は、ちぃこちゃん。
ハープをわざわざ家から持ってきてくれて弾きながら朗読するという。
普段は細くて、喋る声も軽やかな女性らしい方。
なのに自分の身長よりも少し低いくらいの大きなハープを家から電車に乗ってここまで持ってきてくれたことに彼女の並々ならぬモチベーションを感じる。
たおやかだけど強い。
そして今までに聞いたことのない低い太い声がハープと共に響く。
谷川俊太郎の「愛 Paul Kleeに」



次はこまっちゃん。
ここ数ヶ月ハマっているムーミンのお話を朗読する。
悲しいことがあって自分の姿がどんどん見えなくなっていった子のお話。ムーミン一家と暮らしている様子を朗読する。
自分の怒りを出さないからだとミィが叫ぶ箇所がリアルに響く。こまっちゃんはここの部分を読みたかったんだなあと声の強さで感じる。
こまっちゃんはフレル初期メンバーの1人。
近況ではいつも思いがけないことをやった報告をする人。今世の中で何が流行しているのか、こまっちゃんの言動から測れるくらいアンテナが高い。そして好奇心から動いていくフットワークが軽い。何より一緒に居て楽しい。
そしてそんなこまっちゃんが声を出すことに関心を持ち続けることにも興味深いです。


みさりん
みさりんは今までお客さんとして聞いてくれていたけれど今回はじめて参加してくれた。
稽古の始め、自分の周囲が変化することをフレルの近況で話してくれる。自分の身体を使って声を出すこと、多分あまりしたことないかもしれないけど、必要性を実感している様子。茨木のり子さんの詩の朗読。通りに面した所で洋服屋さんを営んでいる夫婦のありようを描写する。顔の向きで表したりと工夫が嬉しい。この社会で生きていくことの理不尽さや怒りを抱えながら、茨木さんが社会の片隅で生きている人々に希望の光を見出す想いがみさりんと重なる。


野風さん
野風さんは普段は飄々とまるで風のよう来ては去っていく。それでもフレルの大切なメンバーです。野風さんに朗読してもらいたい作品は実はたくさんある。けれども用事がたくさんあるし、すぐ疲れるので帰ってしまう。
今回は自分の書いた言葉を読んでくれた。稽古中はいつも途中で終わっていて、本番ではじめて全文が明らかになった。「祈り」というテーマからどんどん派生していったプロセスが、10年前に死んだ友との会話を通じて語られる。野風さんの昔、今を行ったり来たりしながら祈りを語ってくれた。なんのてらいもなく、そのままを懸命に語ろうとしている野風さんの朗読になんと本番でわたしは泣いてしまった。


全員朗読
「馬たちの夜の世界」

与那国島の与那国馬と暮らす女性のエッセイをみんなで朗読する。
夜、馬たちと目に見えないものに触れていく話。
この作者が大好きで自分でも何編か語っている。読むといつもわたしの
深いところで響いていく文章を、7人に区切って読んでもらった。どんなふうに読んでくれるのだろうとワクワクしながら。
立つ、座る、声の大きさ、スピード、自分の担当のところをいろいろに試してもらいながら、自分とテキストを少しずつ近づけていく。
最後は台本から目を離すところを考えて客席を意識してもらう。
本番はとてもいい朗読でした。


小手川さん
小手川さんの声は凛としている。やりとりはいつもたおやかでにこやかだが、言いたいことになると、声が太くなり張る。おもしろいのは熱を帯びているのに、一方でとてもヒヤリとする部分があるところ。
発言の鋭さがそう思わせるのかもしれない。今回は、ホームレスだった女性が書き残した文章をまとめたものからの抜粋。何年にもわたってたった1人で孤独に社会を生き続けてきたある女性の叫びとも言えるような文面。痛いと感じる時もあれば、ひだまりのように温かな時もあってこれは日常だなとリアルに思う。
小手川さんの声から立ち上がってくる女性の像にわたしが重なって見える。
「小山さんのノートから」


ちはやさん

今回初めてのご参加。違う現場で知り合い、こちらにきてくださった。今回は平家物語を元に現代戯曲を書かれ、数ある中の一つを朗読される。奔放に生きた父との関係を描いたもの。振り回されてきた娘が、自分のペースを保とうと必死に距離を取る。俊寛をテーマにしているという。最後に出てくる父役を野風さんにお願いする。あまりにピッタリ!でびっくり!
ちはやさんの声は穏やかさの中にいつも少しだけあきらめが入っている。
明らかにしていくことによる期待しないあきらめだ。
それが彼女自身にメッセージがあったとしても圧を感じさせない。
「あなたの恩人」 ちはや  ふるえる声より


カエルさん
フレルの最初からいるメンバーの1人。カエルさんが参加される時のフレルの雰囲気と、参加していない時の場の雰囲気は変わる。
別にいつも口数が多いわけでも声高に何か言うわけでもないけれど、存在感はたっぷりとある。今回は哲学者、西田幾多郎の「愛と知」からの抜粋。祈りをテーマにこれを持ってきたというのがおもしろい。
近況で娘さんのことを語るカエルさんのエピソードに実は少しぐっときました。
この人はこんなにも娘さんを愛しく思っているのかと。
ちはやさんのところで父と娘が濃いつながりのまま切れていくのに対し、西田は親として娘の可愛さを難解な言葉で述べる。ちょうど対比となった。
西田の言葉がカエルさんの姿と重なる。


絵本「とうだい」


この絵本を読んだ時からフレルの発表会でやろうと決めた。
とうだいはどこにも行けずに岬に一本立っている。
渡鳥の話を聞きながら自由に移動できることをうらやみながらずっと立っている。
そんなお話を朗読劇として脚色した。
作者の斉藤倫さんは詩人だという。
道理で音にすると言葉に力が宿る。
特に嵐になった海でとうだいが叫ぶセリフがいい。

「おおい
おおい
あらしにまけるな
とうだいは ここに いるぞ」

フレルの男性2人に灯台役になってもらって、女性陣で脇を固める。

最初の読み合わせは、なんてことのない文章という感じでみんな読んでいるが、
声に出して読んでいくと、どんどん力が入り、声が大きくなっていく。
そう、言葉に力があるからだ。
かくして今回のフレルメンバー総出演の「とうだい」が完成した。
1回で終わるのが嫌で、14時からの本番の掛け声で集まった観客の皆さんに、冒頭リハーサルと称して一度聞いてもらい、本番で最後に聞いてもらう。
それくらい一度で終わりたくはなかった。


おおい
おおい
あらしにまけるな
とうだいは ここに いるぞ

それはそのままわたしにとっての言葉となる。
フレル朗読劇団は、わたしの灯台だ。


今回の本番を体験したからとて、朗読はうまくはならない。
不慮のことに対応できる力はつくかもしれないが。
関わった人みんな、たった1回の本番で日常にすぐ戻っていく。
けれども、自分の選んだ言葉を声に出し、仲間と声を合わせた経験は肉体に記憶として刻まれている。
日常に戻ったメンバーはなんら変わりない日常を送ることになるけれど、体験した出来事は残っていく。
どんな意味があるかは人それぞれだし、意味なんてないかもしれない。
でも、体験しなかった前には戻れない。

また来年もフレルをやろうと思う。
そして6月くらいに本番を行うつもりです!