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チャットルーム〜ふたりプレイ#9〜

*これは連載小説です*
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*<家守>さんが入室しました
*<コトリ>さんが入室しました



家守
>小森飛鳥さん、これはどういうことですかコトリ>いや、こっちが聞きたいんだけど。あなたは……home警察は、このゲームを最後までプレイしたんだよね?
家守>しました。しかし、あんな展開はありませんでした。あんな……
家守>そうです。謎の「伝染病」でこの世界が崩壊しつつあること、しかも、homeのことまで……
コトリ>トップページの言葉も、現実とそのまま同じだったね
家守>どうなってるんです
コトリ>知らないよ! 本当に呪われているとか?
家守>いったん落ち着いて、状況を整理しませんか
コトリ>まあ……整理するっていっても、本当に少しの情報しかないけどね。まず「YOU」というフリーゲームがある。このゲームは呪われている、という噂があり、実際にプレイした実況者は失踪している
家守>はい。そして失踪したアカウントの動画はすべて削除されているため、彼らのプレイしたYOUのシナリオが、今回と同じようなものだったかは不明です
コトリ>そして、プレイした人間にしか見えない謎のメッセージが表示されて、フリーズする……
家守>『あなたをおもいだせ?』
コトリ>はい
家守>整理すればするほど、わけがわからない
コトリ>そうですね
家守>そういえば、『YOU』の作者について、何か知っていることはありますか?
コトリ>さあ……フリーゲームを自由にアップロードできるサイトに、アドレスだけ張られたのが最初っていうのは聞いたことがある。作者は不明のままで、今はそのアドレスは削除されてるんですけど、ファンがデータだけ配布しているサイトがあって、俺はそこからダウンロードしたよ
家守>それ以上のことは
コトリ>さあ。home警察の力でなんとかならない?
家守>私たちが関与できるのはhome内でおこったことだけです
コトリ>そうですか……じゃあ、やっぱり、配信を続けるしかないね
家守>何を言っているんです
コトリ>内容は確かに現実に即しているから、観てる人は辛いと思う……実際に、あの『音』のせいで大切な人を亡くした人も多いだろうし。それを忘れるために、俺の実況を観ている人も多いよ。でも、配信実況でしかYOUの真相はわからない。普通にプレイしてはダメだったなら、続けるしかないでしょ
家守>homeというサイトが出来たいきさつは、あなたも知ってるでしょう
コトリ>分かってますけど
家守>あの『音』のせいで、我々人類の言葉は徐々に失われ、文化が失われつつある。それをどうにか、『なにもなかったこと』のように振る舞って、動画や作品を投稿し続ける。いつか世界が平穏を取り戻したときに、その文化がちゃんと後の人類へと受け継がれるように。それが、このhomeという場所ができた理由そのものなんです
コトリ>こんな現在進行形の悲劇を、「なにもなかったように」なんて振る舞えるはずない
家守>でも、利用規約にあなたはチェックしたでしょう。「現実におこったあの悲劇についてなにもなかったように振る舞うこと」と
コトリ>そりゃそうですけど
家守>これはただ「辛いことは忘れて楽しもう」ということだけではないんです
コトリ>どういうことです?
家守>homeはかつて存在した情報会社と、ある大学が共同で開発したサイトなんです。「この悲劇が起こらなかったら」という、ある種の平行世界において、どんな文化・芸術が生まれるのか……過去存在したサイト、個人のブログやSNSから、動画や配信のコメント1つ1つに至るまで、ネット中に散らばったすべての情報をさらったビックデータによって、これからどのような創作がなされていくのかを裏で計算しているのです。そしてそこに、生身のあなたたちのような利用者がいて、その活動がこの演算に生の情報を与えている。いずれくるその時……私たち人類が一人残らず滅びたとしても、AIが永遠に私たちの創作を残してくれるだけではなく、発展させ続けてくれるのです
コトリ>……この悲劇がおこらなかった世界線の芸術の発展だけが、そこに残るってこと?
家守>そうです
コトリ>虚しすぎる
家守>あなた、自分が言ったこと忘れたんですか? 芸術は無駄だと
コトリ>そうだけど
家守>芸術は無駄なエネルギーが余っていることを周囲にアピールするということ。あなたのその言葉を借りるならば、このhomeという場所は人類の最後の「あがき」なんです。こんな状況になってまで、私たちは創造をしている。創造を続ける無駄がある。エネルギーがある。たとえ自分自身が滅びたとしても。それを証明し続けるための場所がhomeなんです。
コトリ>誰に向かって?
家守>他我。「自分自身に向かって」、です
コトリ>……そうですか
コトリ>でも、他に事実を解明する方法がある? YOUというゲームが異常なのは、君も同意してくれるでしょ
家守>はい
コトリ>最後まで俺は知りたいよ、【コトリ】という男の子と、<speak>っていう子が一体どうなるのか。たぶん配信観てくれているみんなもそうだと思うんだよね。でも君も体験したとおり、何故か配信でしかストーリーが進まない
家守>ええ
コトリ>それだけじゃない。単純に俺自身が、リスナーの皆とこのゲームを見届けたいんだ。ずっと俺のことを見続けてくれた人たちなんだよ、YOUの中の【コトリ】が言っていたみたいに……俺のことを、はじめて認知してくれた人たちなんだ
家守>主人公に、自身を重ねていると
コトリ>うん。なんだか、情に訴えているようで申し訳ないんだけどさ
家守>……わかりました。では、あなたの活動を許可するよう、上に掛け合います
コトリ>ホントに!?
家守>裏で動いている演算プログラムに干渉しないようにすれば問題ないかと。私も、正直続きが気になりますから
コトリ>ありがとう、家守さん
家守>仕事ですので
コトリ>はは、そうでした
家守>では、次の更新予定は?
コトリ>うん。明日、普通の動画をアップロードする予定。是非ヨイネボタン押してね
家守>内容に寄ります
コトリ>相変わらず冷たいなぁ! じゃあ、また明日ね
家守>ええ、また明日コトリ>相変わらず冷たいなぁ! じゃあ、また明日ね
家守>ええ、また明日家守>ええ、また明日
コトリ>相変わらず冷たいなぁ! じゃあ、また明日ね
家守>ええ、また明日


*<コトリ>さんが退室しました
*<家守>さんが退出しました



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*このテキストは、フィクションです

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