酢豚にパイナップル入れない主義
昨晩のメインディッシュはフランス産の豚バラを使った酢豚。角煮のレシピよろしく長ネギ、土生姜、紹興酒を用いて2時間コトコト煮込んだお肉を使ったので絶妙にふるふる感が味わえた。
けど酢豚って子どもの頃嫌いだったなあ。なぜ甘酢? ふつうに醤油あんでええやん! と心底思っていた。大人になってわざわざ自分で作るようになると、このえも言われぬ酸味で押しきるパワー感と深い旨味がたまらない。個人的には夏場にスタミナをつけたいときに食べちゃう料理だ。ビールが止まらない。
さあ今回もこの酢豚のルーツにちょっとだけ迫ろう。
酢豚は広東料理の「古老肉、咕咾肉(グーラオロウ)」が由来。この呼び名は熟成肉とでもいった意味合いで、つまり甘酢を使うのは熟成の進んだ(ちょっと傷んじゃったりした)肉を美味しく食べるための調理方法だったと言われている。またの名を「糖醋肉(タンツーロウ)」。直訳すると甘酢肉である。
戦後の日本における外国料理の普及の目安として毎回ひもといている1960(昭和35)年刊「世界の料理(中央公論社)」では「咕咾肉」の
表記を用いている。興味深いのはその解説で「調理法も地方によって
いろいろで、広東式は野菜もとり合わせますが、北京式はほとんど
肉だけを使用します」とあること。
どうやら他の文献やサイトも調べるに、糖醋肉と古老肉(咕咾肉)は違う料理のようで、微妙に様子が異なる。北京料理では糖醋肉、広東料理としては古老肉(咕咾肉)と呼ばれていることが多いように見受けられる。ざっくり区別するとこんな感じ。
・糖醋肉……お肉がメインで野菜少なめ、
黒酢(鎮江香酢または山西老陳醋)で酸味をつける
・古老肉(咕咾肉)……野菜たっぷり。酸味はお酢の他に
トマトケチャップも用いる。パイナップルを入れることが 多い
そう、酢豚といえばパイナップル論争。「世界の料理」のレシピでもパイナップル、トマトケチャップを入れることになっている。個人的には大キライで、幼い頃から激しく憎んでいた。おかずに果物入れんでええやん! と。温かいフルーツなんておかしいやん! と。
酢豚にパイナップルを入れる理由としてまことしやかに言われているのが、プロメリンという酵素が肉を柔らかくするからだというもの。しかしこれには疑問があって、まずプロメリンは60℃以上に加熱すると壊れてしまうので、ほぼ効果はないと言われる。また正当な酢豚のレシピではそもそも豚肉を片栗粉の衣をつけて揚げるので、おそらく肉の内部まではプロメリンが浸潤することはないだろう。
どうやらパイナップルを入れるのは「古老肉(咕咾肉)」のほうで、かつて(清朝の頃?)上海の租界で西洋の文化を吸収し、当時高級食材だったパイナップルを入れることでプレミアム感を打ち出した、という経緯のようだ(裏は取っていません)。
ことほどさように、広東料理は海外からの影響をかなり古くから色濃く受けている。例えば欧米の調味料であるトマトケチャップをエビチリや酢豚に使うのも、やはり世界への玄関口であった広東地方、香港あたりから始まった文化だと言われている。一方、内陸部である北京の料理、糖醋肉は中国北方特産の調味料「黒酢」で味付けする。
一口に酢豚といってもさまざまなルーツがあり、レシピがあることを知った。
大人になって好きになったけど、でもやっぱり酢豚定食はあんまり好きじゃないかなあ。白ごはんのおかずとしては酸っぱさがアダになる気がするなあ。鶏の唐揚げ定食があったらそっちを頼んでしまう。
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