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なんでもない日の、渾身のカレーライス。

おうちで食べるごく普通のカレー。具の定番はお肉とニンジンとごろごろしたジャガイモ。玉ねぎはとろみのあるルウにすっかり溶け込んで、まろやかなコクとやさしい辛味がツヤツヤの白ごはんを包む。ありふれていて、でも決して飽きない。その完成度、唯一無二の存在感を讃えてあえて、カレーライス、と本来の名前で呼びたい。

毎日のように厨房に立たない人でも、カレーライスだけは独自のメソッドやレシピを持っている、あるいは自分だけの味を追究して日々研鑽を重ねている人って多いと思う。

誤解をおそれずに言えば、わりと男の人に自分のカレーを追究する人が多いような気がしていて、それは根底の部分でプラモの改造とか、車やバイクのカスタムに通じるような、ある種の好奇心をくすぐられているからなんだと思う。次はここをこうしたらどうだろう、こっちをこう変えたらどう変わるだろう、という愉しみ方。書いている自分も例外ではないどころか、ずばり当てはまる。単なるカレー好きのおっちゃんである。きっと毎回食べさせられるほうはいい迷惑でしょうね。ごめんなさい。

でもここで、そんなカレー探究者の皆さんに、これまでの経験からわかってきたある事実を、勇気をふるって進言させていただきたい。

カレーライスは市販ルウそのままがいちばんおいしい。

言っちゃった。たぶん皆さん言われなくてもとっくに気づいていると思うけど、実はそうなんです。大勢の人が労力と時間とお金をかけて、競い合って開発してきたカレールウ、変にバランスを変えないほうがおいしいに決まっていますよね。車やバイクで喩えると、もうメーカーの人が最高のバランスに仕上げてくれているので、それを素人が無闇にいじるのはただただ性能を落としているにすぎないんです。

でもいじりたくなるのがカレー探究者のサガってやつなんですよね。軽率にいじってバランスを崩して、そっから一生懸命汗水垂らしてバランスを取り直して、ようやくたどり着いたところは出発点からそんなに離れていないという。なんならちょっと後退している。全くもって自己満足でしかない。それでもやってしまうんですよね。

ここからは私がその愚かな所業を記します。いかに手間ヒマかけて崩したバランスを元に戻しているかご覧あれ。渾身の力で悪あがきしております。

飴色玉ねぎの長い道のり。

おうちカレー04

今回作るのは、最近流行りのスパイスカレーではなく、日本の食卓で長く愛されてきたカレーライス。インドからヨーロッパに渡り、日本に入ってきてガラパゴス的進化を遂げた「ネオ和食」である。そうなると当然作るにあたって欠かせないのが飴色玉ねぎ。玉ねぎ2個分をスライスし、弱火でじっくり1時間かけて炒めてゆく。クリエイティビティの介入する余地のない、ただの苦行。

おうちカレー05

30分後。だいぶ嵩が減り、しんなりしてきた。もう切り上げたいけど奥さんに怒られる、じゃなくてまだ飴色じゃないので続ける。

おうちカレー06

およそ一時間かけて飴色に。素晴らしい。これでようやく、スーパーでもカレーにチョイ足しパックみたいなのが手軽に購入できる飴色玉ねぎが完成。ここがようやくスタート。これを自分で仕込んでいるからこその感動が待っていると思えば辛くない。かも。

あれこれ足し算・引き算でたどり着いた隠し味。

おうちカレー07

きょうは正統派カレーライスを作るべく、牛肉を使用。と言ってもただ牛だというだけの肉。外国産の肩肉で100g109円とかいう最底辺のランクなので、予め一晩塩麹に漬け込んでやわらかくなることを願った(ならなかったけど)。

おうちカレー09

ここに入れるのが、細かく刻んだニンニクと生姜、輪切り唐辛子、無塩バター。乳脂肪分とカレーは切っても切れない。

おうちカレー10

ニンジンを入れて炒めたら水を張り、ローリエを一丁前に浮かべてグツグツ 煮ること小一時間。水が真っ茶っちゃですけど飴色玉ねぎのせいです。ニンジンは煮崩れないうえ、香味野菜であるとの認識に基づきこのタイミングで入れています。ブーケガルニなんかあろうもんならぜひ入れます。アクが出てきたら丁寧に取り除き、塩コショウ、粉末コンソメをひとつまみ

おうちカレー11

具に欠かせないジャガイモは皮を剥いて一口大に切ったら角を取り、少し表面を乾かします。こうすることで身が締まって煮崩れしにくくなります。ね、叡智を結集しているでしょ。面倒な角取りまでしちゃうという。

完成20分前ぐらいになったら(隣で炊いている土鍋ごはんが蒸らしに入ったら)、ジャガイモを投入。

ルウはミックスする、というまさに悪あがき。

おうちカレー03

うちで使っているカレーライスのルウは、写真撮り忘れたけど「メタル インドカレー 辛口」という大阪の老舗メーカーのものがメイン(2008年に破産し、別会社が生産を受け継いでいる)。そこにナイル商会の「インデラカレー」を味見しながら前者7:後者3ぐらいの比率でミーックス!

さらに、こないだ使って感動した高級トマトケチャップを酸味足しに追加。日本のカレーライスならではのもったりしたとろみがつけばできあがり!

道草をして帰ってきた、いつものおうちの安心感。

おうちカレー02

炊きたての銀シャリをよそい、たっぷりとルウをかけていただきます。その味わいは……?

うん! とても奥深いコク。さまざまな風味が幾重にも重なり合い、白ごはんと一緒に口の中でほぐれ広がってゆく。一日の疲れが癒され、いい夢まで見られそうなポカポカした気持ちが胃袋から全身に溶けてゆく。

カレー探究者が目指す味って結局ここなのかも知れないな、とチラッと思う。全員が誰も住んでない所番地を探して旅をしているように見えるけど、実は同じ理想郷を目指しているのかも知れない。

利いたふうなことを言ってごめんなさい。

この味わいがここまで根気強く(意地汚く)あれこれ手を加えた結果なのか、もともと持っていた市販ルウのポテンシャルなのかはあえて不問に処したい。もしかしてお釈迦様の掌の中で飛び回る孫悟空、USJのちんまいホグワーツ城の中の魔法かも知れないけど、細かいことはいいじゃないですか。精一杯、思いつく限りの工夫をして、出来上がったものを笑顔で食べることができたなら、その料理は成功なんです。

あ、今いいこと言った気がする。

たっぷり作ったカレー、二日目のきょうのランチにも登場予定。今度は半熟ゆで玉子をぽこんと載せる予定。それだけでもプレミアムな金曜日です。





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