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ささやかだけど、贅沢なオムライス。

お金持ちでなくっても贅沢できる方法があって、それはいつも使っているものをちょっぴり高級なものに変えることだと思う。

これは人に贈り物をして喜んでもらう秘訣でもあるんだけど、たとえば予算が3,000円だとして、3,000円の腕時計や靴を買ってもあまり喜んでもらえない。同じ3,000円でも、もっと平均の価格帯が安い製品、たとえばハンカチなんかならきっと受け取るほうも嬉しいはず。そんなふうに、使える予算の中で精一杯の贅沢をする。そうすれば毎日の食卓も、少しだけ華やかな気持ちで囲める気がする。

きょうはとっても高級なトマトケチャップを使って、いつものオムライスを作ってみた。

使うのは、日本初の国産トマトケチャップ。

トマトケチャップ02

少し前、まだ肌寒いくらいの頃に、ちょっとした必要があって日本におけるトマトケチャップの歴史について調べたとき、横浜で明治時代に作られたという日本初の国産トマトケチャップが復刻販売されていることを知った。

国産トマトケチャップは1896年(明治29年)に横浜で清水與助が創業した清水屋が、1903年(明治36年)に製造販売を開始したという記録が横浜開港資料館所蔵の資料に残っており、これが最初の国産ケチャップであると考えられる。
ちなみにトマトケチャップといえばココ、の大御所カゴメが名古屋で製造を開始する5年前のこと。

明治末期、日本で初めてトマトケチャップを作ったという清水屋はあいにく今は存続していないが、当時のケチャップを少ない資料をもとに復刻した製品が販売されている。これはと思い(そのときはちょっと使う用事もあるかなと思って)3本セットを通販で取り寄せていた。そしてなかなか使おうと思うきっかけがなくしばらく書斎に転がしておいた。

トマトケチャップ01

しかし賞味期限も徒に近づくだけだし、ここはひとつ、おうちごはんのささやかなイベントとして使ってみることにした次第。

ラベルに印刷された原材料の表記を見てみると、「有機トマト、有機砂糖、有機醸造酢、食塩、有機玉ねぎ、有機香辛料」と気持ちいいぐらいの単純明快さ。たしかに明治の頃の味を再現しようとするとそうなるのだろう。これは期待が持てる。開封して味見してみると……?

トマトケチャップ04

これが思わず唸るほどの味わい。なめらかな舌触りで、コクがあってまろやか。ふつうケチャップそのまま舐め続けるなんで酸っぱくてちょっとつらいけど、このケチャップなら平気、むしろもう一口舐めたくなるぐらいの優しい味わい。でも決して味がボケているとかじゃなくて、凛として奥行きがあり、上品な主張のある味。

ようし、作るぞう、オムライスを。

細かく刻んだ新玉ねぎ、ピーマン、シャウエッセン(規格外の特用品)を炒め、それらをちょっと横にどけて、このケチャップを鍋肌にスプーン3杯投入。

トマトケチャップ08

じゅわーという音さえも気品に満ちて聞こえる。ここにお玉一杯分ぐらいの水を足し、トマトスープ状にしたところにごはんを入れてさらに炒める

トマトケチャップ10

こうするとケチャップの風味がムラなく手早くごはんになじみます。ふだんだったら粉末コンソメなんかを一振りして風味をブーストするところだけど、今回はケチャップを存分に味わいたいから塩コショウのみ。

トマトケチャップ11

もうこのまま食べちゃいたいのをぐっと堪えて奥さんにバトンタッチ。オムライスの玉子を焼くのが実は苦手なのです。焼くだけならまだできるけど、うまくライスにかぶせられないのよねー。情けない。

玉子は昔懐かしの薄焼きスタイルで。

トマトケチャップ06

しんなり横たわるライスに玉子をお布団のようにそっと重ねたら、リゾートホテルのベッドスローのように帯状のケチャップをかけて出来上がり。くわー。見て、この婉然とした佇まい。おいしい予感しかしない。

トマトケチャップ12

食べてみると、これが思わず笑いたくなるほどふだんとは違う味わい。手作り感があって全体にとがったところが一切なく、やわらかく丸く立体感があり、優しさが口の中でほどけて広がる。

逆になんか新鮮。そうかあ、オムライスの真骨頂ってこうだったんだなあと再確認。昭和の初め頃、百貨店の食堂で食べることができたモダンな洋食って、こんな雰囲気だったのかもしれない。

これから世の中の様子がまた少し変わるのかもしれないような風向きだけど、こういうささやかな贅沢を楽しめる心の余裕をなくさずに暮らして行けたらなあと願う。


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