見出し画像

おいしさを積み重ねる、半日がかりのスペアリブカレー。

若い頃は、漠然と未来の自分に期待していた。歳を重ねれば経験が積み重なって仕事も要領よくこなせるようになり、失敗も減り、いくらか自分の時間が持てるようになったり、精神的余裕ができたりするかもしれない、と。

ぜーんぜんそんなことはないのである。

むしろどんどん脳みそがポンコツになって、身体の動きが鈍って、若い人と同じ結果を出すのに、彼らの倍以上の苦労と失敗を繰り返さなければいけなくなるのである。

ただ上手くなったのは、そんな自分と折り合いをつけること。そしてただ、他の人よりも辛抱強く時間をかけて事に当たるだけだ。

これまでに手に入れたひと握りの知恵と経験以外には、あとはただやみくもに時間を重ねるだけ。

そんな方法で作ったカレー、おいしくできました。

お買い得なの? 骨の重さも入ってるからなー。

近所のスーパーで、国産豚のスペアリブが100g98円と破格の安さだった。

しかし鶏の手羽やスペアリブを見繕うとき、いっつも思うのは、少々お買い得でもそこには骨の重さが加味されているということを忘れてはならない、ということである。パックの中の重量分、全部食べられるわけではないのである。

しかし骨付き肉には切り身にはない「骨周りからいいスープが出る」という付加価値もあって侮りがたい。

昨晩のテレビでカレーを見てしまい、すっかりカレーが食べたくなった我々は、久々に巡ってきたのんびりできる週末のお供として、半日ひたすら煮込むスペアリブカレーに挑むことにした。タイム・イズ・マネー、食材の安さを時間でカバーするのが我々の信条である。

スペアリブなんて買うの、一年ぶりぐらいじゃなかろうか。たかが税込み400円台の買い物に胸が高鳴る。

しっかり焼き目で、メイラード。

スペアリブカレー05

塩コショウして20分ほど置き、常温に戻したスペアリブをオリーブ油で焼く。ローリエも入れて香りづけ。ふだんより気持ちしっかりめに焼き目をつける。この焼き目もまたコクと深みを形成するのに欠かせない、大事な要素だ。

過去の自分たちからの、時間の贈り物。冷凍ストック。

スペアリブカレー06

ここで加えるのが、今回唯一のチート食材。先日妻がゆで豚を作ったときのゆで汁と、玉ねぎが大量にあってヒマな初夏に一心不乱に作っておいた飴色玉ねぎの冷凍ストック。過去の蓄積が今活きる。

スペアリブカレー07

レンチンしてシャリシャリのシャーベット状になったゆで汁と、飴色玉ねぎをどーん。その前にいつもの刻み生姜、ニンニク、唐辛子も忘れずに炒め合わせてある。塩もここで小さじ1〜2程度加える。

スペアリブカレー08

煮えてきたら、目の前に覆いかぶさってくるささいな悩みを払いのけるかのように、一生懸命アク取り。

30分加熱、30分休ませる、を繰り返して肉をホロホロに。

スペアリブカレー09

ここまで下ごしらえしたら妻にバトンタッチ。書斎でデスクワークしてる間にせっせと30分煮ては30分休ませる、を繰り返すこと数時間。なんか知らないけど先日このメソッドで煮豚を作って上手くいったらしい。

ときおりお湯を足して煮込み続ける。次第にスープが澄んできた。

あれもこれも追っかけ投入で、味に深みを。

スペアリブカレー10

食べる1時間半前、にんじんを追加。

スペアリブカレー12

欧風カレー寄りにするかスパイスカレー寄りにするか、作りながら迷ってたけど、やっぱりホールスパイスも入れたいなってなって、急遽クミン、マスタード、カルダモン(砕いた)を炒め合わせ、オイルごと鍋に追加。

スペアリブカレー13

季節外れのトマトがあったので、もちろん追加。

ジャガイモは別焼きが、我が家のスタンダード。

スペアリブカレー15

カレーのジャガイモがこよなく好きなのだが、意外とおいしい瞬間は短くて、だんだん煮崩れちゃってルウの舌触りも悪くなるので、うちではもっぱら別焼き方式。これだと、作りすぎて冷凍するときにもジャガイモを取り除かずに済むので便利です。

最後に市販ルウで全てを塗り隠す。でも、それでいい。

スペアリブカレー04]

ここまで半日かけて積み重ねてきた味のグラデーションをペンキで塗りつぶすかのように、市販ルウを溶き入れて完成。

たぶん味の構成要素として、ルウ9割。下味1割。でもそれでいいのである。そのわずか1割に繊細かつ奥深い風味が構築されていると信じる。

半日かけたスペアリブカレー。その味わいは?

スペアリブカレー02

できたてをさっそく一口。

おおおお、すげー、コクの塊だ。それでいて軽みもある。ややもすれば重ったるいぐらいのコクが大きな波のように押し寄せてはくるけど、サッと引き際に、あちこちに軽やかな香りの余韻を敷き詰めてゆく。

長時間煮込んだスペアリブはホロッホロで、お玉でよそうときにはもう骨が外れるぐらい。筋肉の線維に沿ってほぐれるその味わいは牛肉にも負けていない。

妻が隣で「煮込めるっていいねえ」と笑う。

そうなのだ、気がつけば少し肌寒いぐらいの季節になって、鍋を長時間火にかけていてもツラくない。煮込み料理のシーズン到来である。少しでも時間をとって、じっくりコトコト煮込み料理のある暮らしをしみじみ感謝して過ごしたい。

とか言いつつ、今日からまた一週間、寝食もままならぬ日々が始まったりするんだけど。

スペアリブカレー03

束の間の休息を彩るスペアリブカレー、ごちそうさまでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?