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圧倒的な取材量で違法地帯のリアルをぶつけられる ヒリヒリ感 「アウトロー オーシャン」


海の上が、陸の上とは全く違う論理で動いている様子が描かれ、度肝を抜かれます。
いったん海の上に出てしまえば、その船の中のルールがすべてであり、船の中の秩序さえ保たれていれば、何をやっても許される、いわば悪党どもにとっては"やりたい放題"の環境ができている様子が初っ端から描かれ、生ぬるい現実にいる身をガツンと殴られたようになりました。最前線のリアルさに引き込まれます。

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借金のかたにマグロ船に乗せられる、という、嘘ともほんとともわからぬ話を聞いたことがありますが、いわば人身売買で船にのせられ、けがをしてもこき使われる最下層のひとたちの様子を知ると、いま口にしている魚介類か魚の加工食品もこうやって、海からとられたものかもしれない、とちょっと想像をふくらませると、身が震えます。


陸の上では犯罪とされるようなことでも、海の上ではとがめられない現状は、未知の世界でした。

たとえば、人工妊娠中絶が禁止されているメキシコなどの国で、望まぬ妊娠をした女性たちに中絶をさせるため、港から妊婦を船に乗せて国の法律が適用されない海域にまで連れ出し、人工妊娠中絶を行う、法律の及ばない海の上での女性医師の行為の話。そんな世界があるのだと引き込まれました。
中絶が禁じられた国で中絶しようとすると、中絶行為自体が違法行為となるうえ、女性も罪に問われる、という、望まぬ妊娠をした女性たちにとっては不利極まりない状況ができあがっています。中絶が認められる国に行って手術を受けられるようなお金の余裕があればそうするのでしょうが、お金がないひとたちにとっては、結婚もできず、産めもできない場合は犯罪者となるリスクがあります。そんな女性たちを救うために、ヨットで港に入り、希望者を領海外に連れていくという女性医師たちのチームの行動は、”違法行為”といわれても現実に向き合うためにやむにやまれぬ行動、目の前の問題に向き合う姿勢、強い意志を感じます。

沖合の無人の人工施設をのっとり、船乗りたちに向けロックをかけるラジオ局を運営し、独立国家をうたった男の話は、そんなことが可能なのか半信半疑です。国の法律が及ばないことで、おまえらの法律には従わない、という考えで生きる。そんな非現実的な現実も、海だからできたこと、法律、現実の抜け穴を知ることができます。

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ただ圧巻なのは、人身売買まがいの行動で船員を集め、違法操業でこき使っている船の話、です。人間、一歩転落すれば、悪徳業者の食い物になり、奴隷のように扱われるダークサイドがある、という現実を思い知らされます。

圧倒的な熱量で迫るルポです。久々に読みがいのある本です。

イアン・アービナ著 (ピューリッツアー賞受賞歴有の敏腕記者です)


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