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私と野球

2021年のプロ野球シーズンは、ヤクルトスワローズの日本一で幕を閉じた。
昨年最下位だったヤクルトとオリックスバファローズが戦う日本シリーズは、予想を遥かに超えて人々を魅了した。
9回裏まで勝敗が分からない、ワクワクしながら一球一球を食い入るように見入った。
職場に行けば「昨日の試合、最高だったね」と会話が弾む。
これぞプロ野球!という素晴らしい試合を見せてくれた。
男泣きの選手たちにもらい泣き。
ヤクルトスワローズ、おめでとうございます!

勝利を祈る3年間

野球観戦をこんなに楽しむようになったのは、息子の影響が大きい。
小学校高学年でグンと背が伸び、バスケットボールのクラブに入っていた息子に
「それだけ背があれば、中学でもやれる」とコーチからの声がかかっていた。
そんな息子が中学の仮入部で野球部に入った。
驚いたが、少し予感はあった。

きっと、ずっとやりたかったのだろう。
息子が小学生の頃、シングルマザーの私は、休日の全てを野球に捧げる余裕がなかった。娘との時間も持てなくなる、周りの野球をしている子供と家族を見てそう思い込んでいた。
スポーツ少年団に入っている友達から、何度も野球やらない?と誘われていた息子。
「野球は興味がないから」
そう言って断り続けていたが、本当は私に気を使っていたのかもしれない。
近所の子のお父さんがキャッチボールをやってくれると楽しそうにしていたもの。

初心者で中学野球は体力的にもきつかったが、息子は楽しそうに続けていた。
休みの日も野球部の子達と公園で野球をしていた。
息子を入れて9人しかいなかった1年生の頃、初心者が新人戦に出ると、相手チームでも噂になったが、なんと市の大会で準優勝して、いきなり県大会に出場した。
ライトを守る息子のところにボールが飛ぶと、お父さんたちは息子の名前を大声で呼んで
「前やぞ!取れるぞ!」と叫び、母親たちは手を握りしめて祈った。
センターの子は走ってフォローに入った。
息子がバントを決め、走塁を決めると、自分の子のように喜んでくれた。
野球漬けの3年間、親も祈りながら観戦する日々。
車当番、役員と大変ではあったけれど、子供たちの真剣なプレーに感動させてもらえた。
引退の日、焼肉をみんなで食べに行った。
あるお父さんが立ち上がり、子どもたちに話しかける。
「〇〇(息子)が入ってくれたから、初心者の〇〇をみんなで教えてフォローして、1年生から結束したいいチームになった。」
ありがたかった。父親との時間を持てない息子に、どのお父さんたちも、自分の息子のように接してくれた。
野球は息子に多くのものを与えてくれた。
野球がぐっと近くなった3年間だった。

ドラゴンズ応援ツアー

この頃、勤務している介護施設でも野球観戦ツアーを開催していた。
バスを貸し切り、職員と利用者、家族、診療所の医師や看護師などでナゴヤドームに応援に行く。
野球は高齢者の方には、小さい頃から根付いているスポーツだ。
特に、地元のチームを応援することで、コミュニケーションも取れていたのだと思う。

中日ドラゴンズの応援に向かうバスの車内、医師が持ち込んだ『燃えよドラゴンズ』というお馴染みの曲がエンドレスで流れる。1時間ほど、これぞ洗脳だ。
高齢者の皆さんも一緒に口ずさみ、気分を盛り上げていく。
観光バスはドームの屋内駐車場に停まってくれる。すぐ横のエレベーターを上がれば、座席に行ける。
車椅子の方にも優しい配慮である。
内野席での観戦、皆さん応援に力が入る。

ドラゴンズ、ここは正念場!という場面で、いつも穏やかな女性高齢者が立ち上がった。
「打てー!」
今まで聞いたことがない大きな声、カッと見開いた目でバッターボックスを見つめ叫ぶ。
メガホンを振り、前のめりになって応援している。
こんな力が残っているんだと新たな発見ができた貴重な時間になった。
野球には、観戦者を奮い立たせる力があるのだ。

結果はドラゴンズの負け
帰りの車内はしーんと静まり返り、「燃えよドラゴンズ」を聴くことはなかった。
コロナが収まっていれば、来年は再開したいイベントだ。またみんなでドームに行きたい。

父との思い出

父は中日ドラゴンズのファンだった。
小学生の頃、友達との会話の中心は昨日観たテレビ番組だった。
ジャニーズが好きになり、生放送の歌番組が週に何本も放送されていた時代である。
野球のシーズンが始まると、父はチャンネルを野球に変える。
家にテレビは1台しかなかった。
野球なんて観たくないのに!早くシーズン終わればいいのに!
野球が嫌いになっていた。
けれど、好きな選手はいた。
ドラゴンズではなく、その選手は西武ライオンズにいた。
カッコよかったのだ。顔が好きだった。
彼がマウンドに上がる時は、野球が気になった。
工藤公康、ピッチャー。
アイドル並みに人気があった。

1988年、日本シリーズ
ドラゴンズが出場で盛り上がっていた地元で、私は密かに相手チームの応援をしていた。
ライオンズである。
名古屋でライオンズの試合が観られる!
父は日本シリーズのチケットを取ってくれた。
まだ屋外のナゴヤ球場だった頃である。
記憶が曖昧だが、内野席だった気がする。
試合には出ていなかったが、工藤を見られた覚えはある。

父と二人だけで出かけることは少なかった。
父と母は、私が高校3年生の時に離婚した。
それから会うことは数回しかなく、60歳で亡くなった。
父のことを恐れ、恨んでいた時期があった私にとって、父との楽しかった思い出は少ない。
忘れているだけかもしれないが、ぱっと浮かぶのは、この野球観戦なのだ。
その頃の父は広告関係で、ドラゴンズの選手とは一緒に仕事をしていた。
私も、抱っこして写真を撮ってもらった選手もいる。
さすがにライオンズとは縁がなかったのだが、工藤のサインをもらってくれた。
あのサイン、どこいっちゃったんだろうな…
野球は父を、きっと好きだった頃の父を思い出す、そんな特別なものでもある。

野球ファンにおすすめの一冊

日本シリーズの盛り上がりの中、一冊の本を読んだ。

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平著

ドラゴンズファンなら必須であるが、他球団のファンの皆さんにもおすすめする。
野球に興味がない方にも、読みものとしてかなり面白く読めると思う。
元プロ野球担当記者の著者の取材力、書く力、読ませる力。
ドラマチックな展開、ストーリー。
私は何度も泣いた。
その場にいるような臨場感、胸を刺すような孤独感、寂しさ、熱く込み上げる喜び。
体験してほしい。

落合監督の頃のドラゴンズは強かった。
怖いイメージもあったが、私の中の落合さんは、息子を溺愛しているお父さん。テレビにはご家族もよく出ていた。
あの頃の、私たちが知らなかったドラゴンズの裏側を読むことができる。
知らなかった落合さんがいる。
監督って、選手って、プロで野球をやるってこんなに過酷なのか。
契約金額に納得がいく。
来年のシリーズを観る目が変わると思う。
来年はもっともっと面白いだろう日本のプロ野球。
楽しみだ!

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