見出し画像

『チヨの森⑩』子どもサスペンス劇場

第十章 再会

 あれから、一ヶ月以上が過ぎました。季節は紅葉の秋から師走になり、何やら皆来年の準備に向けてそわそわしているようです。

そして、すっかり体調が良くなったクリスマスイヴ。今年は温暖化の影響なのか、少し暖かい冬のようです。思ったよりも気温が下がらずに、冬用の厚手コートを着なくても大丈夫な陽気だと、夕方のテレビの天気予報は伝えていました。

「残念ねえ。今年もホワイト・クリスマスにはならなさそうね」

母親は朝からやけにウキウキしていて、リビングの窓際にあるおもちゃのモミの木を、一心不乱に飾り付けています。こんなに大慌てで飾るのならば、もっと前から準備すればいいのにと言うと、

「この、慌てながらっていうのがいいのよ」
と、訳の分からないこだわりを見せています。
「ねえ、少しはダイも手伝って」
「んー?んああ」
「いやねえ。なんだか、パパの返事に似てきた」

事件が解決したあの日から、ミーの姿がまったく見えなくなってしまいました。お決まりの玄関にも現れません。 
「ねえってば。ほら、ヨシだって手伝ってくれてるのに。ねー?」
ふと見ると、飾り付け用の人形を、皿回しのようにクルクル回しながら振り回しているヨシの姿が目に入りました。おまけに、モミの木を折らんばかりに揺らしています。ヨシの場合、手伝っているというよりも、後片付け作業を増やしているだけのように見えますが。

こんな風に、せっかくのゆったりした冬休みなのに、母親のクリスマス病が花盛り。リビングでテレビを見ようとしたら、用事を何回も何回も言いつけてくるのです。ちっとも気分が落ち着かないので、僕は久しぶりに『チヨの森』の近くまで散歩に出かけてみることにしました。
と、母親は僕を玄関の外まで追掛けてきて言いました。
「行くと思った」
「え?」
「はい、おにぎり」
「いらないよ。ただの散歩だから」
「いいの。近くでも持っていけば安心でしょ。もしもまた突然の大冒険になったら、お腹空くし」
母親は小さく笑うと、僕に魂でも注入するかのように両手でおにぎりを押しつけて、またツリーと格闘しに、リビングルームへと戻って行きました。
僕は、そのそそくさと立ち去る後ろ姿を見ながら思いました。

「お母さんが一番、不思議ちゃんじゃないか」

綺麗に晴れた空。
まっすぐと伸びた白い直線は、寒い上空を飛ぶジェット機が作った、ひこうき雲です。昼間の商店街のイルミネーションは、役目を待ちかねているように風に吹かれて左右に身をゆだねています。そんな風に『チヨの森』へは、落ち着かない町に見とれているうちに、あっという間に着きました。

森に沿って進むと都心へと続く大通りには、何か大事な物を運ぶ大型トラックや、営業の車が走っています。その脇の道を、まばらですが人間も歩いています。ですから、一人で歩いていても恐くも何ともありません。
それなのにここは、あの事件解決以来、封印が解かれたパンドラの箱のように動き出していました。大規模な掘削作業や神主による仰々しいお祓い、そして連日の見物人。忘れかけていた森神町の人々にとって、改めてとても恐い場所になってしまったのです。
それにここ数ヶ月は、テレビ局のワゴン車も何台か見られました。

―衝撃!繰り返す、森神町の神隠し―

―天狗ではなく、悪魔刑事の仕業だった!三十年前の事件―

なんていうタイトルで、昔の事件を引き合いに出しながら報道番組を作った局もありました。事件直後は、マスコミが僕の家まで取材にワンサカ訪れて来たこともありました。その時はストレスと事件のフラッシュバックで、落ち着いて夜眠れないこともありました。でも、ついこの間まで子供だと思っていた弟のヨシが、そんな時に僕を慰めてくれました。
「お兄ちゃん、僕がついてる」
なんだか気恥ずかしいけれど、大いに助けてもらったのは間違いありません。
というわけで、散歩に出るのは久しぶりです。

気にしなくても目に付くのは、毎日のようにパトカーが多く見回りしていることです。   
そして時々ですが、パトカーの窓が開いて、「よう!」と、大きな声で黒ウサギが手を挙げることもありました。
まさか知り合うことのなかったはずの刑事さんと、この僕が顔見知りになるとは想像もつきませんでした。
それもこれもやっぱり、悲しい榊君の事件があったからでしょう。失うものが大きかったけれど、得たものもあったということです。

以前から森の前には『立ち入り禁止』の看板はありましたが、それは隅に追いやられていて、形ばかりのものでした。
でも、事件があってからは、看板を目立つように大きくし、改めて市役所により、周りに緑色の頑丈なフェンスが設置されました。
そして、わずかに残っていた豊かな木々や緑は犯罪の目隠しになることから、より低く切られました。
それまで以上に、『チヨの森』は『森』ではなくなっていました。ですので、森に少しずつ帰ってきていた野鳥や野生動物たちはまた、住み家を追われることになってしまったようです。

痛ましい事件が起こったのは森のせいではないのに、人間のせいなのに。

何だか『チヨの森』だけが悪者にされている気がしました。森は、きっと人知れず泣いています。僕は、肩身の狭い思いをしている森を改めて見て、憤り、また不愉快にもなりました。山中さんに見せてもらった最初の森の姿。あの立派な勇姿は、今でも目に焼き付いて離れません。

「かわいそうに」

 「みゃ」

ふいに、小さく声が聞こえました。待っていた声です。どこかの箱に入っているかのように籠もって聞こえますが、確かにミーの声です。
「ミー?ミーだよね?どこにいるの?」
たまらずに早足で声のする方へ歩くと、僕は森の入り口にやってきていました。

真新しいフェンスは、森を捕らえる鎖のように何重にもグルグルと張り巡らされています。なんだか痛そうだし、窮屈そうです。でも、お地蔵様の所だけは花が手向けられるように、映画館の切符売り場のように少しだけ四角い隙間が開いていました。そこには、前にも増して、たくさんのお菓子とお花とおもちゃが供えてありました。
「ミー!」

そこにぽつんと、ミーは座っていました。お地蔵様と草の間で、フェンスに寄り添うように佇んでいます。相変わらず毛並みが艶やかで、清潔そうに見えるから不思議です。
「ずっとここにいたのか?ずいぶん心配したんだよ」
抱き上げようとすると、腕をするするとトンネルをすり抜けるように僕の隣りに来ました。そして顔を近づけて、ミーは囁くように言いました。
「大介さま、ご無沙汰しておりました。感傷的なご挨拶はあとにして、さっそくですが、そのフェンスの下を少しだけめくって、こちらにきていただけますか」
予告なしにいつも喋り出すので、どうもミーの丁寧語には慣れません。
「そんな、簡単に捲れる所なんて無さそうだけど」
「いえ、ありますから、だいじょうぶですから」
「ねえ、そんなことしたら、怒られない?」
「わたくしが、ほしょういたします。だいじょうぶでございます」
「なんでそんなに自信があるの?喋ったり喋らなかったり。まったく忙しいなあ」

勝手にいなくなって、勝手にひょっこり現れて。置いてけぼりにされたような気がして、僕は少しふて腐れましたが、それよりもミーが無事だったことに安心しました。
腑に落ちないながらもミーに言われるがままに、お地蔵様にお辞儀をしてからフェンスを捲りました。
「あれ?こんなに弱々しいフェンスなの?」
レースのカーテンをふんわりと上にあげるように簡単に、その頑丈そうな鉄のフェンスは、僕の為に入り口を作ってくれました。
「ささ、こちらへどうぞ。だいすけさま」

沼の跡地は、奥深く、日本の裏側に届きそうなほどすっかりくり抜かれていました。その周りには「立ち入り禁止」のテープと杭が打たれて、関係者以外は中に入ることを許されていないようです。
沼の跡地が更にこんなにもくり抜かれた理由は、虎革が、ここに子供達の遺体を埋めたと自供したからです。
沼の跡地では、虎革の供述通り連日の実況見分が行われました。がしかし、『神隠し』でいなくなっていた子供達の遺体は、誰一人として出てくることはなかったようです。

警察ではこの事態を受け、虎革が他に遺体を隠しているとして、今でも厳しい取り調べを続けているのだそうです。
では一体、六人の子供達はどこへ行ってしまったのでしょう。
そして、榊君も。
「みんなどこに行ったのかなあ」
虎革が他に遺体を隠しているとすれば、もう見当もつきません。
「みなさん、まだこの森にいらっしゃいますよ」
ミーの声がやっと、囁き声から普通の声の音量に戻りました。
「どういうこと?」
ミーは尻尾で僕の右足に触ると、「見ていなさい」と言わんばかりにそのまま沼の穴に入りました。
「どうしたの?何するの?」
そんな僕の声には耳も貸さずに、ミーは両前足で穴を掘り出しました。
「だめだよ、勝手なことしちゃ」
それでもミーは掘り進めました。その勢いは、小さなブルドーザーのようで、もう誰にも止められません。
「大介様は、『おむすびコロリン』という昔話を、ご存じでございますか?」
「正直者のおじいさんが、山に仕事をしに行って、おばあさんの作ってくれたおにぎりを食べていると、コロコロ転がって鼠の住む穴に入る。そしておにぎりが美味しかったから鼠から御礼される・・・・・・だったっけ?そんな感じ」
「まあ、いいでしょう」
「何?間違ってる?」
「いえ・・・・・・。コホン。読書家だと思っていたのに、幼稚な説明であることが大変残念ですが・・・・・・。じゃあ、その手に持っているお母様手作りのおにぎりを、ここへ」
小さな前足を差し出したミーが少し呆れた顔で僕に言うと、上手に後ろ足だけで立ち上がりました。まるで、『長靴を履いた猫』のようです。
「それでは、コホン。大介様、合図を出しますので、入り口のお地蔵様を少しだけ横に動かしてみてください」
「はあ?『おむすびコロリン』はどこに行ったの?」
「ですから、今からわかりますから」
シッシッと猫にされたのは、きっとこの世界中で僕だけなのではないでしょうか。
「なんだよ、まったく」
むっとしながらも言われたとおりにおにぎりをミーに渡して、渋々入り口まで戻り、僕はお地蔵様の隣りにしゃがんでスタンバイしました。
「で~は~、だ~い~す~け~さ~ま~、い~き~ま~す~よ~!そ~れ~!」

何が始まるのでしょう。何だかお地蔵様を動かすなんて罰が当たりそうで嫌なのですが、仕方ありません。
僕は、ミーの合図でお地蔵様を右に少しだけずらしてみました。

ぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわ・・・・・・。
「うわああぁ!」

お地蔵様の下からは、ミーの合図とともに、見たこともないほどたくさんの鼠がぞわぞわと這い出してきました。
「あわわっ」
僕は目を疑いました。『ハーメルンの笛吹き男』を思い出させるほど大量の鼠ももちろんですが、何よりその後の出来事です。
鼠の後を追うように、肌色の塊がいくつも飛び出してきました。
「あああああ。あれっ?」
僕はまだ、夢から覚めていないのでしょうか。
肌色の塊は、ただの塊なんかじゃなく、虎革にさらわれた子供達だったのです。榊君も、いました。

「榊君っ!」

榊君は振り向きません。僕の声は聞こえないかのように、全員脇目もふらずに沼まで一直線に突進していきました。それは走ると言うよりも、泳ぐと表現したほうがいいかもしれません。まるで、鰯の大群が同じ方向に吸い込まれるように泳いでいるようです。
「う、うわわわわわ」
腰を抜かした僕の脇をすり抜けるように、上手に右と左に分かれて、鼠と子供達は続々とミーのいる穴へ。
そして、僕の持ってきたおにぎりを、みんなで分け合ってパクパクと食べ始めました。
「ミ、ミー!何これー!」
ふと見ると、さっきまで横にあったお地蔵様はありません。そしてミーは穴の中で、たくさんの鼠たちに囲まれながら、空に向かって手を広げていました。
「何?雨乞い?」
僕はもう、何が何やら混乱したままで、口をあんぐりと開けるばかりでした。
すると突然、雷様がドドンと一発、ご自慢のドラムを轟かせました。

 「な、なんだ」

それまで澄み渡るように晴れていた空に、天気予報でも天気は晴れだと伝えていた空に、『チヨの森』の上だけ真っ黒な雲が現れて、虹色のスコールが降り出しました。
「嘘でしょ」
僕は慌ててリュックを頭にかざしましたが、時すでに遅し。僕の髪の毛はぺったりと頭に引っ付いて、まるで河童のようです。
どんどんと、とめどなく雨は降り続いています。洪水になってしまうのではないかと思うほど大量の雨です。
五分ほど降り続いたでしょうか。やがてそこには、あっという間に沼ができあがりました。
沼の周りには鼠たちと子供七人とミー一匹。
「このたくさんの鼠たちは、かわいそうなこの七人の子供達を、地下で守り続けていたのでございます。地下世界の守り神でございますよ」
気がつくと、沼の周りには豊かな緑が生い茂り、かわいい声で鳴く小鳥たちがさえずっています。赤や黄色やピンク色の花も咲着始めました。

これが本当の、『チヨの森』の姿。恐くも何ともない、昔の森の本来の姿でした。
「これ、山中さんが見せてくれた地図の森と同じだ」
僕は、ジャンパーのポケットに持ってきた山中さんの絵地図を見ました。端が少し破れていましたが、そこには、たった今、僕が目の前で見ている森が描かれていました。

「大介様、今ご覧いただいている、これが昔の『チヨの森』でございます。木々が風に揺れ、緑と花がハミングする。鳥がきれいな声で歌えば、太陽が話しかけてくる。そんな動植物たちの、憩いの場だったのでございます。もちろん、人間の子供も大人も関係なく、みんなが森で遊んでいたのでございますよ」
楽しげな笑い声が、そこかしこで聞こえてきそうです。
「森は、ある時からとても悲しんでいました。それは、神隠しの事件が発生してからです。事件の一部始終を、森はたった一人で見ていました。いわば、目撃者です。そして森は、誰にも相談できずに苦しんでいました。やがて事件が明るみになり、人々が遊びに来てくれなくなると、淋しくて一人ぼっちでどうしていいのか悩んでいました。緑も伐採されて花も枯れ、鳥や動物達は、居心地が悪いと、続々と離れていきました。森は、人間のせいで仲間はずれにされたのです。そして、もう二度と友達ができることはないと、心を閉ざしていました」
ミーは、泣いているようでした。猫も、涙を流すのでしょうか。
「でも、これで大丈夫。大介様が心の中に刻んでくれたこの森のイメージは、きっと将来の子供達にも伝わることと思います。森は、時間はかかるけれども、希望を持ってこれからもここで生きていくのです。これでわたくしも、気兼ねなくさよならできます」
ミーはそう言い終えると、目を閉じました。
ミーの周りには白い煙が立ちこめ、それがだんだん天高く、スクリューで水が回転するように昇り始めました。そう、例えて言うならば、まるで竜巻のようです。
「大介様、榊君は最後にあなたのような友達ができたことを、とても喜んでいますよ。そして、森も」
「どういう事?最後って・・・・・・」
その途端、溢れんばかりの沼の水は、ミーと子供達を乗せて龍のごとく空に上がり、鼠はそれとは反対に沼の穴に吸い込まれていきました。
「そろそろ、さよならです」
「さよならって、何?ミー?さよならって、どういう事なの?」
「その通りの意味でございますよ。申し遅れました。改めまして、私猫左右衛門と申します」
「知ってるよ!そうじゃなくて」
「私は、天からの使いでございます」

ミーの背中に、お地蔵様が見えた気がしました。そしてその周りには子供達が七人。榊君もいます。それから、山中さんも。
僕が息を呑んだ瞬間、皆幸せそうな顔をして、一斉に上を見上げました。
榊君が、こちらを見て手を振ったように見えました。

「榊君っ!」

それには答えず、もう一度空を見上げました。
「待って!」
閃光と轟音。子供達は一つの光の玉になりました。そして、勢いよく雲を突き抜けていきました。
ミー達は、あっという間に宇宙の彼方に吸い込まれてしまったようです。
痛くなるほど見上げていた首を元に戻すと、沼には普段と変わらぬ静けさがありました。 
跡形も無く雨が降った跡も無く、今起きた出来事の気配すらなくなっていました。
「冷たっ」
と、額に何かが当たりました。
雪です。期待していなかった雪が、降ってきました。

「雪だ・・・・・・」

そしてそれは僕の涙と共に、温かな頬に伝い重なりました。
頬に伝った涙は、ミーや榊君、そして山中さんからの「さよなら」を受け止めた証拠だと、僕には分かりました。
何度周りを見回してみても、何事も無かったかのように森は元通りで、大通りの車のシャーベットを削るような音が、ここまでよく聞こえてきました。そこかしこから聞こえてくる、雪を喜ぶ子供達の元気な歓声が、僕を現実に引き戻しました。
ゆっくりと向かった入り口のフェンスには、穴なんて開いていませんでした。お地蔵様に手向けられた花もそのままで、ずらしたはずのお地蔵様の位置も、最初見た時と変わっていません。
「烏森君、さよなら」
声が聞こえた気がしました。
振り返ると、榊君がそこにいるように思えました。
マッシュルームカットで小生意気で、理屈っぽいしゃべり方をする榊君が。

 「また、会おう」

山中さんもぶっきらぼうな言い方で、僕にそう笑いかけているような気がしました。
「はあ。ホワイトクリスマスか」
雪は、容赦なくどんどん降ってきます。

どんどん、どんどん。しんしん、しんしん。

絶え間なく降ってくる雪は、過去の嫌な出来事をすべて覆い隠すように、真っ白な絵の具を森に重ねていきました。
この分だと、東京でも今夜だけで、五センチくらいは積もりそうです。
「みゃー」
僕の右足に、毛皮が触りました。
「あれ?ミー。さよならじゃなかったのか?」
抱き上げると、頭に少し雪を被ったミーは、嬉しそうに僕を見ました。
「なんだか、帽子を被ってるみたいだ」
「にゃーお」
「よかったよ。心配したよ」
ミーの顔で頬ずりすると温かくて、少しくすぐったいです。
「みゃーお」
「そう。ミーは言葉なんて喋れなくていいよ。悲しいから、さよならなんてもう言うなよ」
「みゃー」
「側にいてくれるだけで、いいんだ」
ミーを抱いたまま、僕は言いました。そして、流れた涙をミーの体で拭きました。
「友達なんだから」
リュックサックにミーを詰め込んで、森からの家路を僕は急ぎ足で帰りました。
多分、今頃我が家では、母親と弟のヨシが雪を見て、大騒ぎではしゃいでいることでしょう。
「家に急がなきゃ。もっと走るぞ、ミー!」
「みゃーん」

森には、もう前のようにたくさんの人々や動植物が遊びに来ることは、ないかもしれません。それは、とても淋しいことです。 
でも、雪が積もり始めた森は、嬉しくて笑っているように見えました。

『チヨの森』は、今日から仲間はずれではありません。

だって森と僕は、共通の秘密を持ったのですから・・・・・・。

あ、そうそう。皆様にお伝えしなければならないことがあります。
僕、見つけてしまったのです。
あ、絶対に内緒ですよ?
実は・・・・・・。
お地蔵様の頭の上に、まるで猫のような耳が付いていたんです。付いていたというか、生えていたというか。そうだな、ちょうど猫左右衛門みたいな。

このこと、僕らだけのひ・み・つですからね?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?