ダイビングインストラクターの妊活事情
前回書いた「ダイビングインストラクターの生理事情」という記事。
少し生々しく触れにくい題材だったのもあり不安でしたが、共感の声をたくさんいただけました。
今回も『妊娠』『妊活』という普段なかなか話しにくい事について、書いていきます。
1.ダイビングインストラクターの妊娠
妊娠が分かった瞬間に、周りに公表するしかなくて、今の仕事が一切出来なくなる職業ってあるでしょうか。
考えてもあまり思い浮かびません。
私たちダイビングインストラクターは妊娠が発覚した時点で、「水中に潜る」というメインの仕事が出来なくなります。ほぼ9割の仕事が潜ることなので、何も出来なくなると言ってもいいくらいですね。
もちろん、最初は妊娠に気がつかずに潜っているので、多少なりは大丈夫です。大大大先輩は3人目の妊娠の際、確信犯で潜っていたそうですが(妊娠に気づきながら潜っていた)、ある日ふと深い水深に行けなくなったそうです。お腹の子が「やめて」と教えてくれたのかも・・
なぜ妊娠したらダイビングが出来ないかというのは、『母体・胎児ともに減圧症をはじめとしたリスクが多くある』などの理由からですが、こちらは調べるといろいろ書かれているので少し貼っておきますね。
でも、こういう記事って、お客様に対してインストラクタ―側の意見が書かれている内容です。
じゃあ、ダイビングインストラクターが妊娠したらどうなの?
私たち女性インストラクターはどうしたらいいの?
旦那と2人でダイビングショップを経営することになった時、他のお店のオーナーから「夏だけは妊娠しないように気を付けなきゃね」と何気なく言われました。
それは当然分かっています。繁忙期に妊娠し潜れなくなったら、売り上げが下がるのもそうですし、すでに入っている予約の調整も大変です。
実際、前に勤めていた職場で、海の日の連休前に妊娠が発覚した子がいました。祝福の気持ちより前に、どうやって回すの・・という不安が先に出てきてしまい、心から喜んであげられませんでした。同性でもそう思ってしまうので、男性オーナーたちがお店のスタッフに対して、夏場の妊娠について言わざるをえないのは仕方ないかもしれません。
・・・でも、おかしいですよね。
確かに気を付けることはできます。仕事に対しての責任感やプライドもあるので、勤めていた時から気を付けてはいました。
でも、新しい命を授かることに罪はないのに、たまたまそれが夏であったというだけで祝福に差が出るなんて。
安定期までは公表せず隠して働く、ということは私たちには出来ません。どんなに迷惑かけることになっても、潜ることが出来なくなります。潜りたくても潜れない、海を離れなければいけない、というのは本人にとってもどれだけ辛いことか。
妊娠が分かった子たちは、私のように独立している場合を除いて、辞める選択をとることが多いです。
パソコンでの事務仕事や細かい作業などやることはいろいろありますが、重い器材やタンクを運べない、他のスタッフが忙しそうに動いているのに自分は・・となると正直居づらくなると思います。それが夏だったりするとなおさら。
怪我した時などもそうですが、なるべく動かないで出来ることやっていいよ、と言われるのは私たちインストラクターにはなかなかの苦行。(当然、お店にもよります。スタッフたくさんいたり、系列のホテルがあったりして事務仕事だけでやれる場合もある。)
社会保険などへの加入がないお店も多い業界なので、勤めていたとしても手当や育休・産休の制度がなかったりします(ここは業界として今後変わっていく必要のあるところですね)。
おめでたいことなのに、少し複雑。
すごく嬉しいのに、なんだか悔しい。
「うわーおめでとう!じゃあ少しずつ潜る回数減らして、体調悪い時は休んでいいよ」
と言ってあげられたらどんなにいいか。
「ありがとうございます!産休までは頑張って潜ります。」
と言えたらどんなにいいか。
不可能な話だけど、この道を選んだのは自分たちだけど、そう願ってしまいます。
2.子供が欲しい、でも海を手放せないという葛藤
ダイビングがどんなに好きでも、妊娠したら潜れない。
でも、まずその「妊娠する」ということが私には高い壁。そして「海が好き」という気持ちが逆に邪魔をして、私に壁を越える勇気を与えてくれません。
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私は2年前の6月に腹膜炎で入院をしました。
そしてその時のCT検査で、『子宮腺筋症』という病気が発覚。
その頃はまだ今の旦那と結婚前。
担当の先生からは、もし子供を望むなら3ヵ月避妊なしで性行為をしてみて、今の年齢や体力で妊娠しなければ不妊の可能性が高いから、早い段階で産婦人科から不妊治療のクリニックに移ってみてもいいと思う、と言われました。
急に突きつけられた「妊娠しにくいかも」という現実から、それなら先に妊活を始めてみようという事に(自己流で、タイミングとったりというところ)。「完治はしない、閉経まで逃げ切るか子宮を取るか」なんて言われたら、仕事への支障なんて考えずに出来るなら今すぐにでも・・と思うのは当然でした。
結果、子供は出来ることはなくクリニックに転院。血液検査、卵管造営など一通りの検査を行いました。子宮腺筋症が不妊の1番の原因の可能性が高いので、現在は薬物療法で治療を優先しながら仕事をしていて、不妊治療は一旦お休みをしています(避妊もしている)。
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なぜ、そのまま不妊治療を進めずに、一旦はこのまま働いていくという選択をとったか。
理由は「コロナ」と「海が諦められない」の2つで、この2つは繋がった理由でもあります。
旦那が先にショップを立ち上げ、開業2年目の時に私も退職して一緒にやることに(時系列でいうと、病気発覚してから半年後くらい)。そして、そのタイミングで新型コロナウイルスの流行が起こりました。
売り上げは激減と言いたいところですが、旦那が1人でやっていた時よりは上がっていました。ただ、2人でショップを経営する中で、コロナがなければどれだけ忙しくなっていたか、どれだけ売り上げがあったかというのは、データがないので「分からない」。
売上だけ見ると上がっているけど、これが100%だとは思えない。例年以上に少ない旅行客、GWや夏のハイシーズンに連続した休みが取れるなんていうことは、9年のインストラクター人生で初めてでした。
2人で暮らしていくことには問題ないけど、不妊治療や子育てに回せるお金と気持ちの余裕はない。自分自身もこんなに潜らないままやめてしまったら、不完全燃焼で未練たらたらしそう・・。潜りきった、やりきった、というところで海から上がりたいという思いがあります。
「本気でやればお金はなんとかなる」とも言われるし、助成金だってあります。それは全て知っているうえで。
海を好きになればなるほど、この仕事に本気になればなるほどやめられない。諦められない。
お客様に「また一緒に潜りたい」と言ってもらえばもらうほどガイドが楽しくて、あともう1年、もう1シーズン、もうちょっとだけと思ってしまう。
なんで女性だけ諦めなければいけないのか・・
そもそも不妊治療したとしても出来るか分からないのに・・
でも治療は早ければ早いほど可能性があるに決まってる・・
という気持ちが生まれてきてしまい、悶々と自分の気持ちと葛藤しながら通院するのが現実です。
「子供が出来たら気持ちも変わるよ」それは分かっています。そんなの当然です。
ただただ、『海を手放す勇気』それが私はまだ持ちきれてません。
3.それでも言われる悪気のない言葉
結婚した男女が(してなくても)、避妊をせずに性行為をしたら必ず子供が出来ると思っている人は少なくないと思います。
事実、旦那もそう思っていたようです。私と付き合って結婚して、生理や妊娠に対する考え方が変わり、女性の色々を学んでくれました。
それでも言われます。
「結婚したなら次は子供だね」
「欲しいなら早いうちがいいよ」
「じゃあそろそろ海から上がらないと」
悪気はない言葉です。
女性インストラクターの、女性としての幸せを考えてくれた上での言葉だと思います。30歳という、もう妊娠には若くもない年齢を心配しての言葉かもしれません。
でも、その言葉をくれるのはほぼ男性陣で、自身のパートナーにすぐに子供が出来た人たちです。
こちらの事情を知らないから仕方がないし、いちいち訂正もしません。
それでも、「妊娠するタイミングには気を付けて」とも言われ、「そろそろ海やめて子供だね」とも言われ、それが悪気のないアドバイスだとしても、心にチクチク突き刺さって残ります。
今回この記事を書いて、私を知っている人たちに事情を知ってもらい、「だからそっとしておいてね」というのが伝わればいいなとも思っています。
4.不妊治療、妊娠中、出産後、今までのようには潜れない中で
今はまだ海を諦められない、と書きました。
でもやはり子供は欲しいので、お金の面などを考えて不妊治療を本格的に再開する時期は決めています(来年度治療が保険適用になるのもあって・・)。そうなったらきっと、今までのように海に潜れるかは分かりません。
排卵のタイミングで病院に行く必要が出てきます。忙しい日だとしても、排卵日は月に1度。元気なたまごたちを無駄には出来ません。
生理の記事で書いたように、身体を冷やすことが1番良くないのは妊活も一緒。特に寒い冬の時期は、海に入るのをやめるつもりです。
海も子供もどちらも・・というわけにはいかないので、その時には覚悟して、上手く自分の中で折り合いをつけていかなければなと思っています。
妊娠できたら当然、海には潜れないので。
忙しく潜る旦那のサポートをしながらも、何かそれ以外に私にやれることはないか、新しく出来ることはないかと模索しています。
では出産後、以前のように潜れるかといったら・・そうもいきません。
子供を預けて潜るとしても、熱が出たからお迎えにきてくださいと言われることを考えると、お客様がいるときに対応できるかどうか。終日船に乗りっぱなしのメニューは出来なくなります(先輩女性インストラクターさん談。その方は今子供が小学生になって少しずつ海に復帰)。
特に私たち夫婦は移住組なので、助けてくれるおじいちゃんおばあちゃんは近くにいません。そうなると、出来ることはかなり限られてしまいます。
(あ、当然ですが、妊娠を諦めるという選択肢も持っています。無理はしたくない。)
独身だった20代、ただただ海が好きで、海の事だけ考えていれば良かったあの頃。
今は、自分の身体や、まだまだ続く未来、考えること向き合うことが増えました。歳を重ねるってこういうことですね。
5.女性ダイバーを応援したい
生理でお腹が痛くても、妊活中でも、子育て中でも、海に潜ることで心に潤いや余裕が生まれるなら、ぜひ潜りにきてほしい。海が大好きならいつでも遊びにきてほしい。
日々のいろんな疲れを水中時間で癒されてほしい。
私に出来る限り、そのお手伝いがしたい。
女性インストラクターたち特に若手の子たちも、周りに男性スタッフしかいなくて話しにくいこと、聞いてあげたいなと思う。
私が話したくても話せなくて1人で抱えていた時、誰かに聞いてほしいなと思ってた時、いてくれたら良かったと思う存在になりたい。
キラキラと楽しそうなSNSの投稿だけでなく、こういう表にはなかなか出ないリアルな事に触れてみることで、少しでも何か感じてもらう部分があると嬉しいです。
私も好きなこと諦められずにいるから、今は何かを我慢してでも好きなことを優先しているから、「みんなも好きなことしていいんだよ」って言ってあげたい。
生きてさえいれば、人生なんとでもなる。
悩んだ時そう思うようになったのはある出来事がきっかけなのだけれど、それはまた今度のお話。
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