ときどき思い出す顔
ふと思い出す顔がある。
Aさんの場合
「こんな所にいるとさ、死んじゃおうか、って思っちゃうんだよね」
いつものようにAさんは言った。事故の後遺症で、Aさんは入院していた。
「そんなこと言わないでくださいよー、私はAさんに会えるの楽しみですよ」
いつものように私も答えた。
Aさんは、少し笑って何かを言いかけ、そして、やめた。
静かに、真っ直ぐ、そして寂しそうに言った。
「ぬーみゅさん、頑張ってね」
その数週間後、Aさんは自ら命を絶った。
Bさんの場合
愛妻家のBさんは、家のことをなんでもやっていた。
掃除、洗濯、隣町への買い出し。体を自由に動かせない奥様の、身の回りの世話もしていた。
ある日、ご自宅へ伺うと、干したシーツの後ろからBさんが顔を出した。
「ごめん、まだ妻は寝ているんだ、体調がよくなくて」
「あら、そうなんですか、お大事にとお伝えください」
また来ますから、と言い置いて立ち去ろうとした時、「ぬーみゅさん!」と呼び止められた。
振り返ると、Bさんは、何かを言いたそうに口を開いて、そして、静かに、真っ直ぐに私を見た。
「毎日大変だと思うけれど、体に気をつけてね」
その数週間後だった。Bさんが手の施しようのない末期癌だと知ったのは。
福祉の道が見えなくなりそうな時。彼らの物言いたげな、静かで真っ直ぐで、そしてほんの少し悲しそうな顔が。
命の終わりを覚悟した表情が。
思い浮かぶ。
そして、彼らの声が、私の背中を優しく押すのだ。
※個人情報に留意して、エピソードは一部改変、加筆しております
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