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気分は目玉焼き

 ”北部九州 梅雨明け”
パソコンを開くと目についた。
今年の梅雨は最短で終わったのか。
本当にこれが梅雨だったのかどうかも怪しく思ってしまう。
暑さに対して、気持ち的に何も準備していないのに、もう夏が始まってしまった。この容赦のない不快な蒸し暑さを今年も乗り越えないといけない。
何となく、数日前から梅雨の割りに雨があまり降らないし、なんだかおかしいよなあ、本当に梅雨なのか、なんて悠長に考えていたが、突然の梅雨明け宣言に「げえー、もう梅雨明けちゃったよ、猛暑がこれから2ヶ月も続くのか…」と思いつつ、どこかでやっぱりなと思った。

12時過ぎにおにぎりを作りそれを食べながら、市内の蛍が生息しているような自然たっぷりの公園に行って、アイスコーヒーを飲みながら昨日買った小説を読んだり整理したいことを書いたりしようと思い立った。
食事を終え、身支度を済ませ、母に一応出掛けることと行き先を伝えて出かけようとすると、
「この暑い中どうやって行くの?」
「バス」
「バス?普段行きもしないような所へなんで今日?今?
行かないといけない理由がある?それがないのに頑張ってすることじゃない。
暑さは変えられないのよ。出掛けるのが午前中ならまだしも。
私の父がよくこんな暑い時にうろうろするな、涼しくて快適な所にいればいいって言ってた。
頑張るっていうのは我を張るってことよ。他にやるべきことがあるんじゃないの?」

まあ確かに外はひどい暑さだし、ここまで母が言うのを無視して我を張ろうとは思わなかった。
「じゃあ行き先変更。図書館にする。」とだけ言って家を出た。
家から自転車で10分か15分ほどで、最近週に1,2回通うようになった。
今年、一部リニューアルされロビーが新しく落ち着いた雰囲気になったため、読書するお年寄りや勉強する学生が集まるようになり、私も居心地良く過ごすことができて、静かに過ごしたい時に重宝している場所の一つだ。そこで過ごす人はそれぞれ自分の作業に集中していてその空気感が好きだからだ。

結局、母が言った通り、分からないようで分かっているやるべきことをせずに、じりじりと暑い中自転車でうろうろしているので我を張っていることになるかもしれない。それでも図書館ではうつらうつらしながら読書ができたので心地よく過ごすことができた。
静かで涼しくて快適な施設なので、普通なら見ず知らずの人がいる場所で警戒心なく居眠りなんてできないだろうが、つい頭をカクカクさせながら眠りこけてしまった。まだ眠りが浅い間は、ほんの少しだけ恥ずかしい気持ちがあり、なんとか背筋を伸ばし真っ直ぐ座り直すが、だんだん眠りが深くなるとそんな羞恥心は消えた。みんな自分のことに集中しているので、頭を前後左右にゆらゆらさせ、たまに手の力が抜けて読んでいるページをパタンと閉じてしまう私のことを誰も気付きもしないだろう、と。

冷房の寒さで目が覚め、キリの良いページまで本を読みそろそろ家に帰ろうと思い図書館の外に出た。施設内と外の温度差に毛穴が開いて行く感覚がした。
自転車を漕いでいると湿気を含んだ暖かい風が吹いていて目を細めてしまうほど日差しも強い。暑さで道路や車や建物は熱気を発しているかのように輪郭がゆらゆらしていた。
一瞬、グレーの分厚い雲が太陽を隠して、辺りが思わぬ日陰になることもあったがジリジリと頭の先から脳みそ、そして脳のシナプスまで焼かれていく気分だった。視界がぼやけて匂いもなく色々な感覚がぼやーんとし自分の輪郭が溶け出し、外の空気との境目がなくなる様だった。
ふと、今日の朝ご飯の目玉焼きを思い出した。生卵がフライパンの上でジウジウ焼けていく様子が思い出され、フライパンに入ったことなんてないのに気分は目玉焼きだった。

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