あなたもいつか死ぬし、私も必ず死ぬ
私はライターの養成講座であったあの人が大っ嫌いで、今でも好きじゃない。
講座を受けていたのは、もう8年前。その社会人向けの講座の受講生は一流大卒、一流企業勤務の人でほぼ占められていた。彼らは健やかで素直な匂いがした。頑張ったらもちろん報われる。これが保証されている世界で生きてきた人々なのだろう。
健やかさと素直さは光り輝き、その下の世界を見えなくさせている。彼らもその下にも世界があることは知っている。存在も否定していない。だけど見えていない。そう思えてならなかった。
だけど、とても素直で良い人達。
そこはふんわりと優しい階級社会。階級社会への入場証は一流大卒。だから彼らは自己紹介にまず卒業大学を書く。大人になって、大学卒業して何年も経っているのに自分も仲間と示すために記載が必要なのだ。みんなとっても良い人。自分と自分と同じレベルの人と作る世界で生きていきたい優しい人々だったと思う。
そんな中、嫌いだったあの人はガツガツしていた。あの人も一流大卒、一流企業勤務。なのに更に上を目指し、そして何より自分が生きていた世界を強く信じている人だった。そこが大嫌い。
優しい階級社会の中で、私は上を見上げるしかできず、どうしても上に上がりたくて上がりたくて仕方がなかった。だけどどうしたら上がれるのか分からない。でも絶対に上がりたい。無駄に強い上昇志向に胃をやられ、私は講座をドロップアウト。あの人はその後、講座で賞をとったそう。クソっ。
私はあの人の視野の狭さが嫌い。別にあの人は私に何もしていない。ただ自分が生きてきた世界を強く、強く信じていただけだ。恵まれた土壌を更に耕し、より豊かにして、今もライターで大活躍しているように私には見える。
私はあの人程では無いが、ずっと文章を書き続けている。好きな時に好きな様に自分に向き合い続けてきた。私は今でも下の世界にいる。あの人より食事も、着ている服も全てゼロの数が1つ少ないだろう。
私も書くし、あの人も書く。私が書くものは僅かな人々にしか読まれず、ネットの膨大な情報に埋もれて行く。あの人が書くものはたくさんの人に読まれて、お金も発生する。私が上がれなかった階級社会の上と下で、それぞれに書いていく。
私が書くものは自分に関心が向いている。あの人が書くものは、上に行くほど色が濃く、下に行くほど透明に広がる不特定多数の「読者」に向けて。
もうあの人との共通項は死しか見つけられない。あの人はいつか死ぬ。私も必ず死ぬ。どうかその時まで書き続けて。
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