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「明日は未来と手をつなぐ」第1話【創作大賞2024 漫画原作部門[シナリオ形式]】


あらすじ

山口未来(16)は木山高等学校に通う高校1年生。
幼少期に祖母の影響で社交ダンスを始め、中学期には何度も表彰台を経験する程の選手に育つ。しかし同世代の実力者たちとの才能の差に次第に心が折れてしまい、大好きだったダンスを辞めてしまう。
だがある時、社交ダンスのパートナーを探していた井上明日香(17)と出会い、ダンスの発表会に出演することに。
戸惑いながらも、過去に大病を患いながらも情熱を持ちダンスに前向きに取り組む明日香に未来は感化されていき、少しずつダンスへの情熱を取り戻していくのだが……

登場人物表

山口未来(16)  高校生
井上明日香(17) 高校生
菊池雄二(16)  未来の元パートナー
山口清美(70)  未来の祖母
山口紀子(40)  未来の母

第1話


〇井上家・部屋(深夜)

電気が点いていない部屋。
ベッドの上に座っている井上明日香、充血した目で膝の上に置かれたタブレットを一心に見つめている。

画面には、映画の1シーンが流れている。


〇タブレット・映像
優雅に微笑む女優。
女優「だけどね、だけどこの瞬間……」

〇井上家・部屋(深夜)
明日香「あ……」
明日香の目から涙が溢れる。

 

〇木山高等学校・正門

T「2年後」

『木山高等学校』と書かれたプレート。
 

〇同・体育館
テンポの良いダンスミュージックが流れる中、体操服姿の生徒たちが踊っている。

生徒たちの中、軽快な動きをしている山口未来(16)。

その姿に声を上げる生徒A・B。

生徒A「山口さん、レベル高っ……」
生徒B「ね。あたしらとおんなじステップ踊ってるのに」

井上明日香(17)、未来のダンスを見つめる。

×   ×   ×

タオルで汗を拭く未来。
未来のもとに駆け寄ってくる生徒A・B。

生徒A「山口さん!」

未来、びくっと反応すると、おずおずと生徒Aを見る。

生徒A「ね、もしかしてダンス経験者?」
未来「え、えっと……」
生徒B「姿勢めっちゃいいし、リズムも完ぺきですごいよね」
未来「しゃ、しゃしゃしゃ……」

生徒B「しゃ?写経?」
生徒A「シャイニング?」

未来「しゃ、社交ダンスを、少し……」
生徒A「社交ダンスって……シャルウィダンス的な?」
うなずく未来。

生徒B「まじ?かっこい~!」
生徒A「ね、あのさ、ジャズダンスとか興味あったりしないかなって。新人戦が10月にあるんだけど踊れる人欲しくて」

生徒B「山口さんくらい踊れたら前列でも全然いけるし!先輩もいい人ばっかで、みんなで踊るの楽しいよ! ね、どう?」

「みんな」という言葉に反応し、眼光鋭く殺気のような視線を向ける未来。怯える生徒A、B。

生徒B「ひっ……」
生徒A「ま、まあちょっと考えといて!」

その場から走り去っていく生徒A、B。

生徒A「踊ってる時とキャラ違いすぎじゃない?」
生徒B「ね、別人みたい」

未来、視線を床に落とす。

未来M「……もう人と何かをするのは、いいや」 

〇オリエンタルホテル・ダンスホール(回想)

ワルツの音楽が流れるダンスホール。
山口清美(70)が舞台衣装に身を包み、ダンスホールで踊っている。

〇同・客席

客席に座る未来(9)、山口紀子(40)。
ダンスホールで踊る清美を見つめる。

未来「わ……」
未来N「わたしが社交ダンスに呪われたのは、小学3年生のとき」

紀子「ね。おばあちゃんきれいだねぇ」 
未来「うん!」

未来N「照明の中できらきらと踊っている姿は、おうちにいる優しいお婆ちゃんとはまるで別人で」


 〇同・ダンスホール

清美、ピクチャーポーズを披露する。
客席から拍手と歓声が上がる。

未来N「キレイで、まぶしくて」

〇同・客席

未来、紀子の服を引っ張る。

未来「あたしにもできるかなあ」

紀子、嬉しそうにほほ笑むと未来の髪を優しく撫でる。

 

〇ステップワン・ダンスフロア

練習着姿の未来、笑顔で踊っている。

未来N「好奇心が背中を押して、10種目踊れるようになるまでそう時間は必要なかった」

 

〇山口家・紀子の部屋

ドレスに身を包み、その場でくるくると回る未来。拍手する紀子。

紀子「うん、かわいい」
未来「えへへ」

未来N「普段では絶対にしないメイクや髪形、派手なドレスに身を包み、踊る」

むじゃきに笑う未来。
未来N「社交ダンスの存在はわたしのささやかな変身願望を満たしてくれた」

 

〇オリエンタルホテル・ダンスホール

照明に照らされたダンスホールの中をドレスに身を包んだ未来(14)が優雅に踊っている。

 

〇同・表彰台

トロフィーを手に持ち、笑顔の未来。

未来N「モチベーションの高さが功を奏し、どんどん勝てるようになって、どんどんステップアップしていって……でも」


未来、紀子と清美に手を振る。

未来N「すぐに思い知る。自分がいかに凡庸な存在か」

(回想終了)

 

〇木山高等学校・校庭(夕)

未来、空を見上げ、暗い雲を見つめる。
その後ろから未来に近づいてくる明日香。

明日香「山口さん!」
未来「ひゃいっ……!」

未来、驚き、後ずさる。

明日香「あ、驚かせちゃってごめんね!あたし、隣のクラスの井上っていうんだけど」
未来「はあ」
明日香「体育の時間に見てたんだけど山口さんってダンスめちゃうまの人だよね!」

未来、きょとんとした表情。

明日香「今さ、踊れる人に声かけてるんだけど……」

スマホを取り出す明日香。
画面には社交ダンス教室の紹介ページが映っている。

明日香「社交ダンスって知ってる?ってマイナー過ぎるよね~」
未来「けっ……」
明日香「け?ケンタッキー?」
未来「ぇ、経験者です……」

爛々とした目で明日香に顔を近づける未来。

明日香「うっそ!マジ!そんなことある?」
未来M「ち、近い近い近い……」

明日香、未来の腕に自身の腕を絡める。

明日香「じゃ、行こう!」
未来「えっ!?どこ、に……」

明日香「いけばわかる!」
未来「ええっ!?あ、あの……!」

腕汲み状態から、ずんずんと進んでいく明日香。
悲鳴を上げる未来。

 

〇同・休憩スペース(夕)

更衣室から出てくる未来。

未来「その、言われた通り着替えましたけど」

サスペンダー、スラックスに身に着け、
男装状態の未来(足元は体育館シューズ)。

下から上をじっと見て、笑顔を浮かべる明日香。
一方で困った様子の未来。

明日香「似合~う!」
未来「うう……」
明日香「いやー、来月ダンスの発表会だったんだけどね、相手役のおじいちゃんが腰やっちゃってさあ」

明日香、未来の肩に手を置くとぶんぶんと身体を揺らす。

明日香「でもまさか経験者の人が捕まえられるとは思わなかったよ~!」
未来「あああ、あの、ででででも女性同士ですしブランクありますし、ほかの人のほうががが……」
明日香「じゃ、さっそくステップ見せるから!ね!!!!」

明日香、ダンスフロアへ走っていく。

未来「……」

ため息をつき、肩を落とす未来。

 

〇同・ダンスフロア(夕)

未来、フロアに立つと休憩スペースのイスに座る明日香に声をかける。

未来「それじゃ見てて!」

ワルツの音楽が流れる中、踊る明日香。明日香の踊りをじっと見つめる未来。

未来M「初めてそんなに経ってないのかな。動きの一つ一つはぎこちない」

笑顔で踊る明日香。

未来「けど……」

 

〇同・休憩スペース(夕)

お婆さん、未来に声を掛ける。

お婆さん「あのコ。楽しそうに踊るわよね」
未来「え」

急に声を掛けられ、びくっと驚く未来。

お婆さん「お友達?」
未来「えっと、いや」

お婆さん「あ、これどうぞ」

お婆さん、お菓子を未来に手渡す。
会釈する未来。
お菓子の袋を開けつつ、ダンスフロアを見つめる

未来「……ほんと、楽しそうで」

〇同・ダンスフロア(夕)

明日香の身体をきらきらと小さな光が包んでいる。
その姿を羨ましそうに見つめる未来。

未来M「目が、離せない」

 

〇同・休憩スペース(夕)

未来「ああいうのが才能っていうんでしょうね」

お婆さん、未来の横顔を優しく見つめる。

未来M「おっとステップちゃんと見ないと……」
未来、背筋を正してフロアを見つめる。

 

〇同・ダンスフロア(夕)

明日香、タンゴを踊る。

未来M「タンゴ……」

×   ×   ×

明日香、パソドブレを踊る。

未来M「で、パソドブレに移って」

×   ×   ×

明日香、クイックステップを踊る。

未来M「最後はクイック……」

 

〇同・休憩スペース(夕)

ひきつった表情の未来。
明日香、未来に駆け寄ってくる。

明日香「どう?」
未来「その、色んな種目が混ざってて忙しいルーティン、ですね……」
未来(描き文字)「盛りだくさんっていうか」

明日香「えへへ」
未来「いや。褒めてるわけじゃなくて」
明日香「じゃ、やろっか!」
未来「ちょっ、さすがに確認を……」
明日香「まあ踊ってればなんとかなるって!」

未来をダンスフロアへ引っ張っていく明日香。
二人の姿を優しく見つめるお婆さん。

 

〇同・ダンスフロア(夕)

ワルツを踊る未来、明日香。

未来「えっと、もう少しフレーム広めにした方が安定するかも、です」
明日香「フレーム?」
未来「腕の力を内側から外側に張る感じで」
明日香「あ、確かにいい感じかも」

スムーズな足運びの未来に、たどたどしくもついていく明日香。

明日香「ていうか男子の足型も覚えてるんだね」
未来「えと、女の子と組んでたこともあったので」
明日香「ほんとに経験者なんだ!すごい!」
未来「うっ……」

キラキラとしたまなざしを向ける明日香。挙動不審な未来。

 

〇同・休憩スペース(夕)

タオルで汗を拭く未来、明日香。

未来「あの、ところで井上さんは、何がきっかけで始めたんですか」

明日香、未来の背中を叩く。

明日香「あはっ、アスカでいいよ!一応同学年だし」
未来「一応?」
明日香「えと実はね、あたし山口さんより一つ年上なんだ」

未来「え……」
明日香「あ、浪人でも留年でもないよ!失礼な!」
未来「何も言ってないです……」

明日香、少し間があって

明日香「……ね、白血病って知ってる?」

未来、明日香の顔を見つめる。

明日香「ずっと健康で風邪とかも全然引いたことなかったのに、中学の時に急に発症しちゃってね。

明日香、作り笑いを浮かべる。

明日香「あはは、あたしもさすがにメンタルやられたよ~。ほんとそれまで大きな病気なんてしたことなかったのにさあ」

ダンスフロアを見つめる明日香。

 

〇公民館・舞台の上

舞台の上で演技をする子役時代の明日香。

明日香N「ずっとね、ずっと女優さんになりたくて。子役の頃から頑張ってきたんだけどね」

 

〇同・休憩スペース(夕)

未来、明日香の横顔を見つめる。

明日香「目の前がまっくらっていうのかな。しばらく何していいのかわからなくなって……」

明日香、顔を上げる。

明日香「でもさ、その時に見たんだ」

 

〇井上家・明日香の部屋(夜)(回想)

タブレットの画面を見つめる明日香。

明日香N「不治の病にかかったダンサーがね、死んじゃう前に世界を回るっていう話で」

画面に映る女優、ダンスを踊る。

明日香N「行く先々で初めて会った人たちとダンスをしていくっていう割とよくある話で」

(回想終了)

 

〇ステップワン・ダンスフロア(夕)

明日香「でもね、あたしはすごく救われたんだ」

明日香、はっと気づいたように未来に笑いかける。

明日香「ごめん。辛気臭い話しちゃったね」

未来「いや、そんな」

明日香「それで、こういう感じになりたいなって治療も頑張ってさ。ダイエットも超きつかったけど頑張ったんだよ!」

未来、明日香の横顔を見つめる。

未来M「そっか……」

 

〇公道(夜)

人けがまばらな公道。
遠くから手を大きく振る明日香。ぎこちなく会釈をする未来。

×   ×   ×

公道を歩く未来。

未来M「最初はただの強引な人かと思ってたけど」

通り過ぎていく学生やサラリーマン。

未来M「きっとわかってないだけで、みんな色々あるんだな……」

 

〇山口家・未来の部屋(夜)

ベッドに腰かけ、スマホの画面を確認する未来。

『あたしたち相性良さげだよね!明日から特訓!』と明日香からの文面と大量のスタンプが送られてくる。

ため息をつく未来。

未来M「あの人と一緒にダンスしていいのかな。こんな中途半端な自分が……」

×   ×   ×

(フラッシュバック)
ダンスフロアの中、踊っている明日香と未来。
笑顔の明日香。ぎこちなく笑う未来。

×   ×   ×

未来「でも、楽しかった」

ふたたびスマホの通知音が鳴る。確認する未来。
送り主の欄には『菊池』という名前。
眉間にしわを寄せる未来。

 

〇イーストホテル・ダンスホール(回想)

『第41回ユニバーサルカップ』と書かれた横断幕が掲げられている

司会者「アマチュアスタンダード部門。優勝は……遠藤海・凪咲ペアです!」

笑顔で表彰台に上がるカップルたち。沈んだ表情で拍手を送る未来(14)。

 

〇公道(夜)

公道を歩く未来、紀子(45)、清美(75)。

未来「もう、やめたい」

紀子、未来の腕の裾を掴む。

紀子「そんな、また頑張ればいいじゃない。それでまたリベンジすれば」

清美「ちょっと、紀子さん……」

未来、紀子の手を払う。

未来「お母さんはわかんないんだよ! だから簡単に『頑張れ、頑張れ』って!」
紀子「それは……」
未来「どれだけ頑張っても、自分たちよりも上手な人たちが同じくらい頑張ってるんだもん!そんなの……」

涙を流す未来。
清美、未来の背中を優しくなでる。

 

〇ステップワン・ダンスフロア

未来に詰め寄る菊池雄二(14)。

菊池「は?ここまで来て辞める?セミファイナルまで上がったばっかじゃん!」

視線を合わせずに下を向いて無気力にうなだれる未来。

未来M「たかがマイナースポーツの、でしょ?」

菊池、未来に詰め寄る。

菊池「あとちょっとだけ、頑張ろうって」 

菊池、目には涙が浮かんでいる。

未来M「あたし、楽しく、きれいに踊りたいだけだったんだけなのに」

未来「ごめん。なんかもう無理かも……」

(回想終了)

 

〇山口家・未来の部屋(夜)

『ダンス再開してるんだって?』と言う文面が表示される。

未来M「ちょっと練習場行っただけでこれって。ほんとマイナースポーツの弊害……」

更に連続で通知音が鳴る。
画面にはトロフィーを抱えた写真と共に『ちな大会で優勝しました』と文面。

口元を歪める未来。
未来、身を放り出すようにベッドに倒れ込み、クッションに顔をうずめる。

未来M「あたしは、何のためにダンスしてたんだっけ」

未来「井上さんと踊ったら、思い出せるかな……」

未来、スマホを手に取ると、『了解です』と文面を明日香のラインに送る 

 

〇公園・入口(夕)

未来、スマホの画面を手にきょろきょろと見回す。

未来「待ち合わせの場所って……」

スマホには『駅前公園で待ち合わせ!』という文面と複数のスタンプ。

 

〇公園・広場(夕)

広場から歓声が聞こえる。

未来「あれって……」

踊っている明日香。その周りには小学生たちが集まっている。

未来M「輪ができてる……」

ひきつった表情の未来。
明日香、未来に気づくと手を上げる。

明日香「みっきー!」
未来「み、みっきー……?」

どこからともなく「ハハッ!」と某有名キャラクターの声が聞こえてくる。

×   ×   ×

小学生たちに囲まれる明日香と未来。

明日香「この人があたしのパートナーです!」
小学生女子A「へえー」
小学生女子B「ね、ふたりでおどってよ!」
未来「えぇ……」

困惑した表情の未来。

×   ×   ×

ワルツの決めポーズを取る未来、明日香。
拍手と歓声が上がる。

満面の笑みを浮かべる明日香。苦笑する未来。

第2話

第3話


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#社交ダンス


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