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「明日は未来と手をつなぐ」第3話【創作大賞2024 漫画原作部門[シナリオ形式]】

〇山口家・外観(朝)

1台の車が公道へ走っていく。

 

〇車・車内(朝)

紀子(47)、運転席でハンドルを握っている。
後部座席に座っている未来。

紀子「ほんと、もうちょっと早く言ってくれたらねぇ。お休み取れたんだけど」
未来「ごめんって」
紀子「まあ、またダンス再開するって言ってくれただけでも嬉しいんだけどね」

紀子、ルームミラー越しに未来を見る。

紀子「お婆ちゃんもきっとね、天国で喜んでくれてると思う」
未来「……うん。そうだといいな」

未来、窓の外を見つめる。

 

〇オリエンタルホテル・入り口(朝)

ホテルの入り口、車が止まる。

 

〇車・車内(朝)

未来、車のドアに手を掛ける。

紀子「それじゃ、頑張ってね……じゃないか」

未来、振り返って紀子を見つめる。

紀子「楽しんできて」
未来「……うん」

 

〇オリエンタルホテル・廊下

ホテルのスタッフ、演者たちが行き来する廊下。
ドレスに身を包んだ未来が深呼吸を繰り返している。
車いすに乗った明日香、未来の背後に近づき尻に手を伸ばし、掴む。

明日香「えい」
未来「ぎゃあああああっ!!?」 

未来、悲鳴を上げその場で飛びあがる。

未来「い、井上さん!?」
明日香「ちょっとぉ、色気のない悲鳴やめてよ。せっかくキレイな格好してるのに台無し」
未来「こ、こんな人のいるところで……」
明日香「いやあ緊張ほぐしてあげようかなって」
未来「もう!おじさんみたいなこと……」

未来、明日香、顔を見合わせ吹き出す。

明日香「ね、これ」

明日香、車いすを動かす。明日香の頭部にはおそろいの髪留めが光る。

未来「あ……」

明日香「気持ちだけでも一緒に踊りたいなって」

未来、涙をぐっとこらえ笑顔を作る。
明日香、未来の手を取り両手で包み込む。

明日香「ね、あたしのためとかじゃなくてさ」

明日香、未来の手をぎゅっと握る。

明日香「自分のために踊ってね」

未来、明日香の目を見つめる。

未来「はい……!」

 

〇同・控え室

鏡に向かい髪をセットする菊池(16)。

菊池「俺、来週、大会本番なんだけど」
未来「……ごめん」
菊池「あんな別れ方しといてフツー呼ぶ?」

未来、菊池をしっかりと向き合う。

未来「今は、あの時とは違うから」
菊池「……ふーん」

菊池、髪の毛をセットしながら

菊池「てか、あれマジでやるの?スタッフさんには伝えたけどさ、ぶっつけだろ?」
未来「だいじょうぶ」
菊池「ずいぶん信頼してるんだな」

うなずく未来。

未来「あの人は、あたしのパートナーだから」

菊池、未来の顔をじっと見る。

菊池「お前、嫌なやつだな……」
未来「え、何が?」

菊池、ため息をつく。

 

〇同・ダンスフロア

『大山ダンス30周年パーティー』と書かれた横断幕が大きく飾られている。
フロアで、ダンスを披露する演者たち。

×   ×   ×

6人組の男性が力強い踊りをみせる。

×   ×   ×

女性2人組が息の合った踊りをみせる。

×   ×   ×

老夫婦が老練な踊りをみせる。

 

〇同・観覧席

ダンスフロアと地続きになった観覧席。客たち、テーブルに運ばれる料理に舌鼓を打ちつつ、演者たちに拍手を送る。

明日香「あっ……」

明日香、ダンスフロアに拍手を送る。

 

〇同・ダンスフロア

フロアで向かい合う未来、菊池。

タンゴの音楽に合わせ一歩、一歩と近付いていく。

しっかりとホールドを組み、踊りだす。

×   ×   ×

タンゴの音楽の中、ステップを踊る未来、菊池。

未来M「やっぱり本番は練習通りにならない。だけど……」

観客の中に明日香を見つけ、ほほえみっを向ける未来。

未来M「だけど、楽しい……!」

×   ×   ×

パソドブレのステップを踊る。

未来M「ここも……」

×   ×   ×

チャチャチャのステップを客席に向かって披露する未来と菊池。

 

〇同・客席

客席、チャチャチャのリズムに合わせて拍手が起こる。

 

〇同・ダンスフロア

笑顔でチャチャチャのステップを踊る。

未来M「ここも、ここも、このステップも、全部に井上さんがいてくれる」

×   ×   ×

未来、菊池、クイックステップの音楽に合わせ、
ダンスフロアの端から端を飛んで跳ねて走りまわる。

客席から大きな歓声が上がる。

×   ×   ×

フロアの中心に集まる未来、菊池。
客席に向かって礼をする。
未来、頭を上げると、客席へと足を向ける。

 

〇同・客席

ワルツの音楽が流れる。
スポットライトが明日香を照らす。

明日香「(驚く)え?」

未来、明日香の車いすの持ち手を掴み、ダンスフロアへと押していく。

明日香「えっ、ちょっ、なっ!?」
未来「行きましょう!」

驚く明日香。客席からは拍手が起こる。

 

〇同・ダンスフロア

ワルツの音楽が流れる中、車いすに座った状態で踊る明日香、未来。

 

〇木山高等学校・体育館裏(回想)

制服姿でワルツを踊る明日香、未来。

(回想終了)

 

〇オリエンタルホテル・ダンスフロア

ワルツの曲の終わりと共に客席へ向かい未来、明日香。
深く礼をする。

大きな拍手と歓声が明日香と未来を包む。

 

〇同・廊下

菊池、未来を睨む。

菊池「お前、めっちゃ下手になってんじゃん」

未来、ひきつった表情になる。

菊池「ロアーも半端だったし、軸もぶれぶれ、無駄な動き多すぎ」
未来「うっ……」

菊池「でもまあ俺が今まで見た中で1番いい顔してた」

未来、廊下の先に明日香の姿を見つけると、小走りで走っていく。

菊池「まあ、なんだ。とりあえずリハビリ程度なら、また踊ってやらないでも……」

菊池、振り向く。誰もいない。

菊池「んだらァァっ!!!」

菊池、地団太を踏む。

×   ×   ×

明日香のもとへ駆け寄る未来。

未来「井上さん!」

明日香、未来の声に反応し、手を振る。

明日香「ちょっと!いきなりすぎ!あんな演出ぶっつけでやるなんてドSじゃん!!」
未来「す、すみません」
明日香「あと踊ってる最中もこっちのこと見過ぎだし。もっと踊りに集中しなきゃ」

未来、身体を小さくする。

明日香「でも……最高だった。踊れてよかった」

未来の目から涙があふれる。
その場で崩れ、嗚咽する。
明日香、未来の頭をなでる。

明日香「ありがとう……」

未来、首を横に振る。
未来「そっ、んな……ぜんぜん、わたし」
明日香「そんなことないよ。そんなことない」

未来、顔を上げ明日香を見つめる。

未来「井上、さん……」

明日香、人差し指を自分に向ける。

明日香「あすか」
未来「え?はい、知ってますけど」
明日香「じゃあ何で呼ばないの!」

未来、恥ずかしがりながら、

未来「あすか、さん……」

明日香、満足そうに笑みを浮かべると、未来の頭を乱暴になでる。
顔を見あわせ笑い合うふたり。

 

〇木山総合病院・病室

T「2年後」

ベッドの上でタブレットを見つめる明日香(19)。明日香に声を掛ける看護師。

看護師「ん、何見てるの?」
明日香「(声に気づいて)あは、きょう決戦で」
看護師「決戦?」

明日香、タブレットを看護師に見せる。画面には社交ダンサーたちがフロアで踊っている映像が流れる。

司会の声「第68回三笠宮杯スタンダード部門が始まろうとしています。注目は……」

看護師「へえ、社交ダンスなんて渋いね。友だちが出てるの?」
明日香「うん……あ、友達っていうか」

明日香、髪留めに手を置く。

 

〇オリエンタルホテル・ダンスフロア前

ドレス・燕尾服に身を包んだ整列する選手たち。

未来(18)、髪留めに手を置く。

池田晴矢(24)、未来に声を掛ける。

池田「その髪留めいつも付けてるよね。お気に入り?」
未来「うん。これ付けてると一人で踊ってる気がしないっていうか」
池田「ああ、もう一人の……」

未来、ほほ笑んで、うなずく。

 

〇オリエンタルホテル・ダンスフロア

未来、池田と手を繋ぎ、フロアへと歩いていく。

未来「パートナーと」

髪留めが照明に照らされ、光る。

〈了〉


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