見出し画像

「明日は未来と手をつなぐ」第2話【創作大賞2024 漫画原作部門[シナリオ形式]】

〇公道(夜)

並んで歩く明日香と未来。

明日香「ね、これ見て!」

明日香、スマホの画像フォルダからドレスの画像を見せる。

明日香「本番に着る予定のやつ。超可愛くない?」

未来「え……あ、はい」
明日香「どしたの?考え事?」
未来「いや……井上さんて凄いなって。行動力があって、いろんな人に好かれて」

明日香、未来を睨みつける。後ずさる未来。

未来「え、なんですか?」
明日香「それって、イヤミ?」
未来「いや……」
明日香「だってみっきーの方がダンスうまいじゃん!意地悪なこと言うと、揉むよ?」
未来「何をですか!?」

指をワキワキさせながら近づく明日香。
悲鳴を上げる未来。

未来「そ、そうじゃなくて!人を惹きつけるパワーっていうか、存在感っていうか」

未来、明日香を見て、

未来「井上さんは、月みたいな。引力がある人だなって」

×   ×   ×

(フラッシュバック)

表彰台に上がって喜んでいるカップルたちに拍手をする未来。

×   ×   ×

未来「社交ダンスってそういうのが大事ですから……」

明日香、優しい視線で未来を見つめる。

明日香「ね、みっきー」

明日香、カバンに手を突っ込むと髪留めを取り出し、未来に手渡す。

未来「可愛い……」
明日香「えへへっ。しかも、ほら」

明日香、くるっ、と振り返り自分の髪留めを未来に見せる。

明日香「おそろい」
未来「え……」
明日香「本番も髪形もおそろいでいこうよ!2人で踊るって感じで良くない?ね?」

未来、顔を赤くする。

未来「い……いいと、思います!」
明日香「えへっ、やっと本気になってくれたね」

いじわるっぽく笑う明日香。
赤面する未来。

 

〇木山高等学校・体育館裏

制服姿で、その場でくるくるとワルツを踊る明日香、未来。

 

〇同・教室(夕)

明日香、未来を手招きするとスマホを構え写真を撮ろうとする。
ぎこちない笑顔の未来。その姿を見て笑う明日香。

 

〇同・バス(夜)

座席に座りバスに揺られる未来、明日。
それぞれの片耳ずつに、ワイヤレスイヤホンの左右が着けられている。

 

〇公道(夜)

並んで歩く明日香、未来。

明日香「あと10日かあ」
未来「あっという間ですね」

明日香、未来の顔を見てにやりと笑う。

未来「どうしたんですか?」

明日香「いやあ、成長したなあって。最初の頃は会うたびなんか挙動不審で、声かける度にマッサージ器みたいな反応してたから……」

(回想)声をかけるたびに震える未来。

未来「なんですかその例え……」
明日香「でもさ、ほんとみっきーと一緒に踊れて……ううん、友達になれてよかった」

笑顔の未来。
恥ずかしそうな明日香。

 

〇木山駅・エスカレータ―(夜)

未来「それじゃあ、また」
明日香「うん、また明日!」

明日香、手を振りながら離れていく。

 

〇同・ホーム(夜)

人がまばらな駅のホーム。未来、反対側のホームを見ると、明日香が未来に気づき、手を振っている。

明日香「がんばろうね~~!」

未来、赤面しつつ小さく手を振る。

未来M「彼女は、井上さんは生死を争う病気を持ち前の明るさで乗り越えた」

未来、線路の先を見つめる。

未来M「そうして色んな人に好かれて」

快速の電車が目の前を通り過ぎていく。

未来M「そんな不遇な境遇がちょっと羨ましい、なんて」

明日香、ホームで倒れている。周りの人たちが心配そうに駆け寄ってくる。
茫然と立ちつくす未来。

 

〇木山総合病院・病室

ベッドの上に明日香。
赤い目をした未来、明日香を見つめる。

明日香「再発、だって」
未来「そんな……」
明日香「(笑って)まあ、そういう可能性も聞いてはいたからさ。そっか~って感じ」

唇を震わせる未来。

未来「それって、ダンスしたせいじゃ……」

明日香、首を振る。

明日香「違うよ。絶対に、違う」

未来の目から涙があふれて、こぼれる。

明日香「それに、もし最悪の可能性があったとしてもあたしはこの道を選んだと思う」

明日香、ベッドから身を乗り出し

明日香「だから、付き合ってくれて、あ……」

未来の目からこぼれる涙を指で拭う。
未来、身体を震わせる。

明日香「でも、一緒に踊りたかっ、た……」

明日香、表情を崩し、涙をこぼす。

明日香「ふっ、ううううっ……」
未来M「なんで」

未来M「なんでこの人は、ここまでダンスにこだわれるんだろう」

未来、スカートの裾をぎゅっと握る。

 

〇山口家・未来の部屋(深夜)

タブレットを手に持ち、画面を見つめる未来。女優の流ちょうなセリフがイヤホンから流れてくる。

女優の声「人間、いつどうなるかなんてわからないじゃない?それこそあたしが、今すぐ死んじゃうなんてこともね」

〇喫茶店(映像)

男性と組んで踊る女優。

女優「だけどね、踊っている瞬間、あたしは生きてるんだって実感することができるの」

 

〇山口家・未来の部屋(深夜)

画面にぐっと目を凝らす未来。

女優の声「それで誰かの目に、その瞬間誰かの目に私が焼き付いて、その人の中であたしが生きていくの」

未来の頬から涙がこぼれえる。

未来M「それは決して特別な台詞じゃなかった。けど、きっと井上さんにとっては……」

 

〇喫茶店(映像)

女優「想像したら最高じゃない?」

女優、にっこりと笑う。

 

〇ステップワン・ダンスフロア(夕)

ワルツの音楽が流れる中、踊る未来。

未来M「井上さんも残したかったのかもしれない。ほんのかすかでも自分の活きた証を」

踊る未来。
その額には大量の汗がにじんでいる。

未来M「わたしはどうしたい?何のために踊ってる?」

未来、腕で汗をぬぐう。

未来「見せたい。あの人と一緒に過ごしたかけがえのない時間のことを」

×   ×   ×

(フラッシュバック)

満面の笑顔でダンスフロアを踊る明日香。

×   ×   ×

未来M「彼女との時間を、なかったことにしたくない……」

 

〇同・休憩スペース(夕)

未来、小さく息を吐き、スマホを手に取る。送り主の欄に『菊池』。

『ごめん。お願いがあるんだけど』という文面を送る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?