わーい

この先、手を加えもせず、何処かへ応募することも無い話を此処に置き残します。

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唯情 -くらげの唄-

或る初秋の夕暮れ。二人の少女は手を繋ぎながら、紅葉の散る公園の長椅子に腰掛け、大通りの道行く人々を眺めていた。 しばらくして陽が完全に沈み込んだ頃、 「お前さんたちはまだここにいるのかい」 二人の背後から声を掛ける者がいた。 「私はいつもここで寝るんだ」 と続けた。右側に座っている短髪の少女は、大通りを見据えたまま応えた。 「気が向いたら、そのうち退くわ」 左側に座っているおさげの少女は無言のまま振り返り、杖をついている年老いた男性をじっと見ていた。 「君たちは何が不満なのだ

    • 【小説】鶴の妻

      二羽の鶴が雪の降り積もった野原に遊んでいる。然しよく見ると、比較的小さな一羽の鶴の足には罠がかかっていた。もう一羽の鶴が慌ててばさばさと羽を開いたり閉じたりしている。罠にかかっている鶴は何かを諦めた様に、或いは自分より冷静さを欠いているもう一羽を宥める様に大人しく佇んでいる。騒々しくしていた鶴は突然逃げるかのように、或いは仲間の助けを呼びに行くように高く空へと飛び去った。 日の暮れが迫ってきたころ、近くを通りかかり羽の音を聞きつけた若者が、背負っていた薪も放り捨て、その鶴の足

      • 【死生観と人生観】生き方の話

        私の死にたいに、真面目に応えてくれた3人がいました。 「もし本当に辛くて死にたいならそれは仕方ないけれど、ウチは君に死なれたらいやだな」 「死後の事は分からないし、そこに自ら飛び込むのはリスクしかない。生きている方がマシという可能性に賭けて生きてみれば。自死はリスクだよ」 「君が死にたいのは君が中途半端だからだ。頭も努力も何もかも。そんな穢れた希死があってたまるか。君が死ねないのは君自身に投資しすぎて自殺するには勿体ないと思っているからだ。それならもっと賢くなるしかないよ

        • 【短編小説】六歳の願い

          二〇二二年、七月八日、金曜日。午後三時を過ぎた頃。在宅勤務中の私が、遅めのランチ兼お菓子タイムを満喫していた時。自宅の玄関の鍵穴を誰かがこじ開けようとしているような音がした。恐る恐るインターホンのモニターを覗いてみると、茶色のランドセルを背負った女の子が一人立っていた。私は、不審に思いながらも、急いで玄関の鍵とドアを開けた。女の子は、とても驚いた顔をして、その表情を笑顔に変化させるとともに、こう言った。 「七夕のおねがいが叶った。」  女の子は当然のように玄関に入り、靴を脱ぎ

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