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グローバル・バリューチェーンについて

⚠️相場の話ではありません⚠️

TSMCの工場が熊本に来るに際し、歓迎と批判の両方の声が聞かれる。ここでは少し視点を変えて、TSMCの工場に貴重な若い日本人を投入して作られる半導体が最終的にどうなるかを考えてみたい。

TSMCは世界最大の半導体ファウンドリー(製造企業)で、世界のスマホ向けチップ生産の7割を担う(2位のサムスンが残り3割を占める)。では同社製チップを搭載したスマホはいくらで売られるだろうか。

グローバル・バリューチェーン(2019)”によると、09年当時5万円で販売されていたiPhone5の売上はアップルなど米国企業が6割を受け取り、日韓台独に3割超、中国(鴻海)に組立代として1%分配されるとの調査結果がある。裏を返せば、独自の技術も、勤勉な国民性も、通貨安も、3割のプールで僅かに背伸びするだけの武器にすぎない。

(iPhone5の図が無かったため4で代用↓)

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この割合は10年経った今もほぼ変わっていない。「iPhone 製造原価」で検索すると、iPhone13の時点で36~37%程度と出てくる。「iPhone 部品 製造国」で検索すると下図の結果が出てくる。詰まるところ、iPhoneが1台売れると3分の1×8分の1=24分の1で約4%が日本に入ってくる計算になる。12万円の新型iPhoneならば5,000円程度だろう。

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これをどう評価すべきか。地元民ならありがたいだろうが、先進国ならば3割の狭いプールで低賃金同士争うのではなく、6割の広いプールを誰にも邪魔されずに楽しむ方法を考えた方が良いだろう。

今のところ、直近でそれをうまく進めている(いた)国は中国が筆頭に来る。30年前は組立という最も利益率が低い(実に1%)地位にいた国が、今やBATなどアメリカのGAFAと相似形のハイテク企業を擁するに至った。日々耳にする玉石混淆の中華ブランドも中国の取り分「6割」を支えている。他の新興国でそうしたブランドが思いつかないことを考えても、中国が如何に儲かる国に変質したかを物語る。

TiVA(ティーバ)という統計がある。Trade in Value Addedの頭文字を取ったこの統計は、A国がB国に10万円のテレビを輸出した時、A国がC国から7万円で部品を買っているならば、B国が払った10万円はA国に3万円、C国に7万円帰属する、と記録し直す試みである。それによれば、中国の電気製品の輸出に占める自国の取り分は、2000年代前半は61%だったのが18年時点で73%に上昇している。先ほどの「6割」を分捕れる製品が増えたほか、賃金が上昇して国内に落ちるカネが増えてきたことを示す。

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他方で日本は、00年代は92%だったのが18年時点で81%まで下がった。メイドインジャパンの中に組み込まれる海外製品が増えてきたこと、「6割」を分捕れる製品が少なくなってことを暗に示している。ただ、この水準はOECDの中ではアメリカやイスラエルに次いで高い。

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話を切り返すが、この比率は一概に高ければ良いというものでもない。国内系列企業の自前主義に陥り、海外からの安い部品を排除した場合も同比率は高く出る。結果的に最終製品が割高となり、価格↓・数量↑↑で売上高を最大化する機会を逃がしている可能性もある。

ドイツでは同比率は76%と中国並みに下がっている。これはEUが成立し域内関税が撤廃されたため、中東欧諸国を部品供給地や組立工場に仕立て上げ中国やアメリカで自国ブランドを売り捌きつつ自国は「6割」を分捕るという国家戦略を背景としている。「何が儲かるのか」、「それを最大化する方法は何か」を考えた結果と言えよう。

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国際分業の複雑さは、iPhoneの裏やもしくはライトニングケーブルに小さく記載されているDesigned by Apple in California Assembled in Chinaが端的に物語る。どこで、誰がmakeしたかは最早重要ではなく、そこには出てこない利益の分配という身分制度こそが分捕る側、分捕られる側を決めている。TSMCの進出は嬉しいニュースなのは間違いないが、世界を席巻する財やサービスがこの国から消えてどれだけ経ったかを思い起こさせる寂しいニュースであることもまた確かであろう。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を勧めるものではありません。

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