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誰も言わない本当のリスク

新年度最初の1か月が終わり、決算がまたぞろ発表され始めた。注目のテック企業は迅速かつ大胆なリストラで利益を確保したところも多かった一方、製造業では景気減速が直撃した企業も多かったようだ。中国リオープン関連は飲食回復の恩恵も散見されたが、資源や素材などは苦戦を強いられた。

結局のところ、1-3月に懸念された「中国リオープンでインフレ再加速」も「金融不安でリーマンショックでリセッション」も今のところ起きていない。中国景気の回復力が限定的である可能性は当noteで1月に書いたとおりであり、今のところ景気は予想の範囲内で推移している。

景気について今一度確認すると、大まかな流れとして減速基調である点は事実であり、もっと言うとリセッションへと順調に近づいている。一昨日発表された資本財受注※は銀行の貸出態度引き締めを反映し順調に減速している(図表)。(※非防衛資本財受注除く航空機ベース)

そもそもの話、リセッションは鉱工業生産が優れた一致指標である。NBERのリセッション認定がリアルタイムから1年程度遅れることは常識だが、過去のリセッション期において鉱工業生産の失速(特に前年比マイナス)はほぼリセッションを同定してきた(図表)。その鉱工業生産も足元では減速傾向であり、その背景には設備投資の減速、引いては利上げによる貸出厳格化がある。米景気は極めて順調にリセッションへの道を辿っている。

外部環境も逆風である。鉱工業生産の先触れたるISM製造業は台湾の輸出受注に遅行して動く性質があるが、中国における半導体在庫の積み上がりで台湾の輸出も悪化している(図表)。国内では利上げ、国外では中国の過剰在庫という問題から、米国の鉱工業生産は苦境に立たされている。過去の歴史から、米国がリセッションに陥ることは時間の問題と言える。

こう書くと米景気は失速まっしぐらに思えるが、難しいのはここに来て雇用に底堅さが出ている点だ。米労働省公式のJOLTS求人件数に先行するindeed社の週間求人は、3月から4月にかけて減少傾向が止まった(図表)。「景気減速→雇用失速→賃金減→インフレ終息→利下げ→株高」という安直なシナリオを指標は牽制している。雇用が底堅いならばリセッション認定もまた難しくなる。

雇用が底堅いことは家計の所得増を通じ、個人消費の堅調にもつながっている。小売売上高の優れた先行指標である全米クレジットカード消費額は横ばい圏で推移している(図表)。インフレや景気の先行き不安を受けてもなお、家計の購買力は強い。

以上のデータを整合的に解釈するならば、今後の景気は緩やかな減速となり雇用の減速はさらに遅れることになる。ただ、供給制約解消や上がらない資源価格によりインフレは景気とは無関係に下がってくる可能性が高い。賃金の方もパートタイマーが増えることで雇用増と賃金鈍化が両立する可能性がある。企業がリセッションを予期するなら解雇しやすいパートタイマーを選好するはずである。

こうした好景気持続+インフレ低下を都合よく織り込んでいるのが今の株式市場である。では何がこの均衡を崩しうるだろうか?可能性の話になるが、さらなる銀行破綻で金融不安が台頭しクレジット環境が悪化、実体経済に大打撃を与える展開が候補になる。ただ、こればかりは予想が立たず、憶測の域を出ない。

もう一つは、利上げにより家計の借り入れが厳しくなることである。先ほど既に企業は借り入れが難しくなっている(≒設備投資が減っている)と述べたが、家計にも同じことが起きる可能性は十分ある。4月下旬時点で家計のクレジットカード借入は全くと言っていいほど減少する兆候が見られないが、高金利が継続する中で企業とは違い家計だけが耐え続けられるとは考えにくい(図表)。すなわち、higher for longerが実現するより前に企業に続き家計が音を上げるのではないだろうか。

とはいえ、家計の借り入れ減速(≒消費減速)は、景気失速懸念の高まりから利下げ期待を加速させ、特にグロース株に有利になる展開も考えられる。特に、足元のテック企業が苛烈なリストラで利益を確保しているならば、景気減速の度合いがきつくなったとしても、利下げ転換の方が株価にはfavorだろう。相場を俯瞰すれば、リセッションの姿が見えてくるほど株が上がるリスクの方が膨らんでいる点には注意しておきたい。

※本投稿は専ら情報提供を目的としており金融商品の取引を推奨するものではありません。

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