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恩師への手紙 (小学校の頃の先生へ) #ひとつだけ記事を残すなら




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💡( 長く見えますが、5分で読んでいただけます )



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先生へ
「元気に過ごされていますか ? 僕のことを覚えてくれていらっしゃいますでしょうか。僕には恩師とも言うべき先生との忘れられない思い出があるのです。少し長くなりますが、久しぶりに先生とお話させてください」

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「○○君は帰らずに教室に残るように」

小学校3年生の夏、1日の最後に行うホームルームの終わりに先生は僕にそう言われましたね。

クラスメイトが次々と帰っていく中、私はポツンと1人教室に残った。いったい何の話があるのだろう。

いよいよ不安になってきたところで教室の黒板側の扉がガラガラと開く音がした。

入ってきたのは2人。2年生の頃から仲良くしてきた親友だ。3年生になって別々のクラスになったが、今でも大の仲良しだ。

「なぜここへ ? 」という顔をすると、2人も「なぜここに ? 」という顔をした。
そこにようやく先生が近づいてきて口を開かれました。

「まぁまぁとりあえず空いてる席に座って。今日みんなに集まってもらったのは叱るためじゃないから安心してね」
そう、先生は優しく仰ってくれました。
そしてこう切り出されました。

「4月に隣町の小学校に転校したM君(あだな:マルコ)のことは覚えているよね。そのマルコ、転校先の学校で友達ができずに悩んでいるらしいの。今週の学校がお休みの日曜日にマルコを呼んでこの教室でみんなで話して元気づけてあげてくれないかな ? 」

マルコのことはもちろん覚えている。
去年、小学校2年生で私たち3人と同じクラスになり意気投合し、毎日4人で遊んでいたこれまたかけがえのない親友である。

あんなに皆に好かれていたマルコが何で ?
とにわかに信じがたい気持ちであった。同時に自分ごとのようにショックだった。

つい最近まで仲良くしていた大切な友達。
みんなで話すだけでマルコの心がどれだけ軽くなるのかは分からないけれど、先生が提案するんだからきっと上手くいくんだろうと思いました。

私たちが先生に「うん、いいよ。」と言うと先生はほっとしたようにうれしそうな表情を浮かべ、

「じゃあ今週の日曜日にみんなでお話しようね。マルコには先生から伝えておくからね」
と仰りました。

帰り道、私たちはしんみりとした空気の中を歩いた。皆、独り言を言うように下を向き俯いたまま、小さく言葉を吐いていく。
言葉にすればするほど寂しい気持ちになって涙が込み上げてきそうになる。

迎えた日曜日。
あいにくの雨だった。
教室に行くと既に私以外の2人が着席していた。
向かい合わせるように並べた4つの机の前に先生も座っていた。机の上には高く積まれたお菓子の山とジュース。

「みんなが好きそうなお菓子を用意したから、今日は好きなだけ食べてね」

先生はいつになく張りきった様子でニコニコしている。当時は分からなかったのだが、今思うと先生はこの日の集まりを少しでも意味のあるものにしようと精一杯盛り上げてくれていたのですよね ? 

緊張していたのは私たちだけではなかったはずだ。本当に優しくて温かい先生でした。

しばらく沈黙の時間が流れた後、ふいに教室の扉を開ける音がした。顔を上げると視線の先に懐かしいマルコの姿があった。

緊張した面持ちで扉の前に現れたマルコは少しやつれたようにも見えた。顔色は悪く、以前のようなはつらつとした雰囲気が感じられない。

「さあさあこっちへ。みんな集まってくれたよ。」

先生が明るく声をかけるとマルコは少し照れた表情を浮かべながら私たちの輪に加わった。
久しぶりに見た笑顔が半年前のままだったことに幾分安堵した。

そこから誰ともなく話し始め、一緒に過ごしていた頃の思い出話で盛り上がった。
皆、気心が知れているだけあって一度打ち解けてしまえばすぐに昔の空気に戻ることができた。

何気ない話をして一緒に笑える。
この時間がかけがえのないものに思えた。
学校生活のことはあえてこちらからは聞かない。それが先生と私たちとの約束だった。

先生も積極的に輪に加わって、存分に場を盛り上げてくださいました。そんな先生の優しさも僕たちにはありがたかったです。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、お別れの時間が来た。別れ際、不安で寂しそうな表情を浮かべるマルコに対して先生が、

「大丈夫。辛くなったらまたこうやって集まって話したらいいんやから。みんな待ってるから ! いつでもおいでよ  !」

と優しくと肩を叩くと、マルコは目に涙を浮かべて頷いた。先生はその後ろ姿が見えなくなるまで手を振って見送った後、教室にもどってきて僕たちに言われました。

「みんな今日は本当にありがとう。またマルコが悩んでいたら集まってくれるかな ? 」

もちろん、というように僕たちが頷くと、先生は何度も首を振って喜んでくれたましたよね。

その時の先生の温かい眼差しが今でも忘れることができないのです。
(この先生は心の底から全力で僕たちのことを思ってくれてるんだな)と思えたのです。

2学期、3学期が終わり4年生になった。
今度は僕が転校することになった。
そして何と偶然にも、転校先の小学校はマルコの通う小学校と中学校区が同じだった。

つまり、同じ中学校に通うことになるのだった。
再びマルコとともに学校生活を送れることが何よりもうれしい気持ちがした。

大好きだった先生にお別れを告げ、新しい学校での生活が始まると、友達にも恵まれたおかげであっという間に月日が過ぎていった。

いよいよ中学生になる時が来た。
数年ぶりにマルコに会える日がついに来たのだ。
どんな雰囲気になっているのか、楽しみでもあり、怖いような気もした。

入学式の日。着慣れないブカブカの制服を着た僕は、大勢の他校から来た同級生の中にマルコの姿を真っ先に探した。いた ! 

一際体の大きなマルコはすぐに見つかった。
周囲の子たちと楽しそうに話している。

思い切って手を降るとこちらを一瞬見た後、信じられないといった表情でもう一度こちらを見た。大きな体が小走りで駆け寄ってくる。

「虎吉くん···。」

互いに顔も声もはっきりと覚えていた。
愛嬌のある笑顔も懐かしい声も少しカサカサした肌もあの頃と少しも変わらない。
表情だけがあの日より随分と明るく見えた。

学校からの帰り道、マルコと本当に色々なことを話した。転校してすぐの頃、本当はいじめにあっていたのだという。

「学校に行くのが嫌でたまらなくて、だんだん学校にも行けなくなって。そんな時に先生がみんなに会って話さないかって声をかけてくれてさ。」

マルコはゆっくりと記憶をたどるように話し始めた。僕も無言で相槌を打つ。

「みんなに会うのは緊張したけど、ほんまにうれしかったなあ。先生の優しさにも救われたわ。1人じゃないって思えてん。」

遠くを見つめながら話すマルコを見て私は聞きながら胸が熱くなってきた。自分たちはその苦しさをどれだけ理解してあげられていただろうか。

「でもな。みんなに会ってから少しずつ学校に行くようになって、何人か友達もできてさ。ようやく気持ちが少し楽になってきて···。だから僕にとって虎吉くんらと先生は恩人と恩師やねん。」

恩人と恩師。
あの時は分からなかったけれど、先生と自分たちのしたことがマルコの生きる励みになっていたのか···。

「これからもよろしくな」
マルコが差し出した手を僕は強く握った。
数年ぶりに会ったマルコと交わした約束は、僕たちにしか分からない熱い友情だった。

中学を卒業し、お互いに高校、大学と進み、社会人になっても親交は続いた。
当時、辛い日々を過ごしていたのが嘘だったかのようにいつも楽しそうに話すマルコを見ていると、自然と頬が緩んでくる。

社会人としてお互いに辛いこともあるが、今をそれなりに楽しく生きてこれた。
そして時折、先生のことを思い出しては「今ごろ、先生はどうしてるんやろうなあ」と目を細めていつも懐かしく語り合う。

先生のあの日の包み込むような笑顔···。
あの日、先生が私たちにくれたのは未来の僕たちへの熱いエールだったのかもしれない。


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先生へ
「つい長々とお話してしまってすいません。思い出を振り返りながら、あの頃の先生とお話ができたようで思わず涙が込み上げてきました。あの日の記憶は大人になった今でも色褪せることのない人生の宝物です。先生のご住所も分からず、思いを直接伝えることはできないのが唯一の心残りです。くれぐれもお体に気をつけて長く、元気に生き抜いてください」  (大人になった虎吉より)


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これは全て実話をもとに書き上げました。


(企画に参加しています)


大人になっても幼少期の忘れられない思い出、いつも自分を支えてくれる思い出が誰しもあると思います。自分にとってとても大切な作品です。




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