浮気

部誌に載せたものです。

会社帰り、コンビニで買った物が入ったレジ袋を手にぶら下げて家路にようやく着く。

マンションの階段への扉に手をかけて、鉄の階段をのぼる。

重いパンプスと重い足を引きずりながら、足にムチを打って足を動かす。

繰り返しながら足を動かす中、彼氏のことについて頭の中にちらつく。

彼氏と出会ったのは、会社での飲み会だった。

たまたま、お酒が飲めない同士知りあった仲だった。

そこで連絡先を交換し、メッセージなどをやりとりする仲になった。

たまたま、お互いがお互いに良い感情を抱いていたので、晴れてカップルとなった。

そこまではよかった。

最近、彼氏には女の影がちらついていた。

何度彼氏に確認しても、「やってない。」など「そんなことない。」の一点張りだった。

しかし、彼氏がいないときにスマホを見ると、浮気の証拠がわんさかと出た。

ここで彼氏を問いつめてしまうと、スマホにロックをかけられてしまうかもしれない。

そんなこんなで、問いつめるタイミングを逃してしまったのである。

もちろん、その証拠は自分のパソコンとスマホにあるが。

それに本人は気づいていないのか、浮気の法則を片っ端からクリアしていた。

財布や身だしなみがやたらと綺麗になったり、

私のことをSNSにあげなかったりした。

それに、最近はお互いの時間が増えてしまった。

そして聞いてもいないのに話の理由を述べるようになった。

聞いてもいないのに、同棲をしているのに、自分の予定を私に教えたり、

私からの質問を質問で返すようになったね。

そして、最近は名前で呼んでくれることが無くなったね。

マンションでの自分の部屋に着き、鍵を開ける。

そこで私の脳は、一瞬止まった。

いや、止まってしまったの方がいいだろうか。

見たことがない女の靴があったのだ。

なぜ。信じていたのに。

二人に気づかれないように、靴を脱いで玄関にあがる。

その後、二人の靴を棚の中に隠す。

ふらふらしながら、リビングへと一歩一歩、近づく。

喘ぎ声と他の女の名前を呼ぶ声。

ボイスレコーダで録音しながら、沸々と湧き出る黒い感情を確かめていた。

段々と、黒い感情が薬となって、意識がはっきりとしていく。

どこからおかしくなったのだろうか。

彼の欠点だって、丸ごと好きになれたのに。

サーッと、冷めていくのが分かる。

好きだった。好きだったんだ。

騙し騙し生きていたが、馬鹿な時間だった。

嫌いだ。

他の女の名前を呼んでいるお前が。

嫌いだ。

他の女を抱いているお前が。

さぞ楽しいんだろうね。

同棲をしていた部屋を私物みたいに扱って、他の女を抱くことは。

おもしろいね。

喘ぎ声が無くなったことを確認し、立ってその扉を開く。

中には醜い姿の男女が二人。

「な、なんで。」

「ちょっと、どういうこと。」

顔を見合わせる二人をにらみ、ドスが聞いた低い声を絞り出す。

「出ていけ。」

すると二人はたちまち青白くなり、すぐに服を着て出ていった。

バタバタと、すごくうるさい。

こいつらは私が許せないことをした。

いつも私が不幸なことになる。

募りに募っていた不安と怒りが爆発して、涙が溢れてしまう。

あー。

あいつとなんか付き合わなかければよかった。

さて、あいつの信者は多い。

この証拠をどうやって広めるか。

女はみんな正気じゃないのよ。


強気のメイクに、強気のドレス。

そして真っ赤な口紅。

ダイヤは磨いたら美しいという話がある。

例えるとしたら、それはとてもいい気分だ。

私はずっと覚えてる。

この時を、この時間を。

真っ赤なハイヒールをコツコツと鳴らし、彼の実家のチャイムを鳴らす。

中から出てきたお義母さんは目が飛び出そうな勢いで目を開いた。

「どうしたの。春ちゃん。」

お義母さんはとてもいい人だ。もちろん、お義父さんも。

それなのに、あいつは裏切りやがった。

「今日は、海くんのことでお話があって来ました。」

「海…。あの子、まさか。」

「中に入ってお話してもよろしいでしょうか。」

青ざめた顔をしているお義母さんの後ろについて行き、居間にて腰を下ろす。

「やあやあ、これはこれは。春ちゃん。どうしたの。」

お義父さんがやってきて、居間につく。

二人ともそろい、舞台は整ってしまった。

整ってほしくなかった。

全部、アイツのせいだ。

「今日は海くんのことについてお話があってきました。」

静かに、そう告げた。

「お義母さんはもうおわかりでしょうが、カイくんが浮気をしました。」

そう告げた後、お義父さんとお義母さんを見たら泣いていた。

「ごめんなさい。ごめんなさいね。春ちゃん。」

「春ちゃん、うちの息子がすまない。」

謝られて、こっちまで泣き出してしまいそうになるが歯を食いしばって涙をこらえた。

互いに意見がすれ違いそうになっても困る。

一貫して姿勢を曲げない態度を見せる。

「これが証拠です。」

ボイスレコーダーを起動し、録音を聞かせる。

海の喘ぎ声と別の女の喘ぎ声。

そして互いに名前を呼び合う声がする。

その時、海の声が玄関からする。

帰ってきた。

帰ってきたあの野郎。

その面をぶらつかせて帰ってきたのだろうか。

居間につながっている扉が開き、海と目が合う。

「あ…。」

「…なに。」

お金が入っているだろう封筒を持って、呆然と立っている。

殴りたい。

殴りたい。

その衝動が体中を巡る。

だが、目の前の存在を悲しませたくなかった。

必死に拳を握り、その存在にひたすら睨み続ける。

口を開いたのはやっと数分立ったときだった。

「ごめん。」

たった一言。

私に対しての謝罪はそんなに軽いものだったのか。

そして極めつけは、

「他に幸せにしたい人がいるんだ。」

「別れてください。」

だと。

私は呆れてしまって、逆に笑いだしてしまった。

お義母さんとお義父さんはポカンとしていた。

「もちろん。別れてあげるわ。その札束ももらってあげる。」

「本当か!?」

「その代わり、もうお義父さんとお義母さんと私に近寄らないで。」

奴が絶望の顔をする。

あいにく、奴の考えはだいたい見えていた。

金がなくなったので実家に転がり込み、また金を貯めて女とまた過ごすのだろう。

私は生半可に復讐したくなかった。

「さようなら。」

札束を奪い取り、バックを持って玄関へと向かう。

「お、おい。待ってくれ。」

奴がすがりついてきた。

「なに。」

「お、おれ、改心するからさ。もう一度チャンスを下さい。」

はあ。

この男は何を言っても論理感が壊れている。

答えはもちろん、NOだ。

「ふざけんな。」

はらいのけて玄関を出て同僚が待つ車と乗り込んだ。

「あーあ。楽しかった。」

「性格悪〜。」

冗談を言う同僚と笑いながら義実家を後にする。

「マジ災難だったね。」

「まじでそれ。ガチであいつ何。」

「はは。」

行動なんでどうでもいいと思うくらいたくさんのことを話した。

すごく楽しかった。

本当は殴ってやりたかったが法律的にアウトなのでやらなかった。

それに、お義母さんとお義父さんを悲しませたくなかったから。

「あーあ。スッキリした。」

外の風は気持ちよかった。

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