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とにかく変な小説が好きなんだ。

イギリスだったかアメリカだったか、とにかく遠い国に「アンソロジスト」と呼ばれるいろんな短編小説を集めて一冊の本に仕立てる仕事があると知ったとき、なんて羨ましい職業なのと思ったことがあったけれども、考えてみるとそういう人は、ものすごく怖い本とかものすごく難解で長い本も読んでいるんだろうなあ、と思い断念した。

何を?

翻訳者の方々も、きっと古典文学なぞすべて読んでいるのだろうと思っていたら、岸本佐知子さんは『二年間の休暇』(十五少年漂流記ともいう)を読んでいなくて「ひたすらうらやましい」と、エッセイに書いていた。

嫌なことがあったときに、たまにこのいち文と、岸本佐知子式ラジオ体操(『ひみつのしつもん』筑摩書房を参照)を思い浮かべる。

なので、私もアンソロジストになってみたい。今日だけ。
なにが、なのでなのかはわかんないが、このアンソロジーの副題は『変』です。


『写真』フランツ・ホーラー ドイツ幻想小説傑作集 白水社

両親の結婚式の写真を見ていたら、頭に一本も毛のない紳士が写っているのを発見。知人でもなんでもないらしい。その後その紳士がいたるところに登場し、困惑する主人公。
古い写真の中の若い両親、というスタートから、もう読む者の時間の感覚がずれてしまう感じで、「え?」という終わり方もするし、この人の小説はこれと大都会に前触れもなく鷹が現れる『奪回』しか読めないところもまた、よい。

『積み重なる密室』 青木きららのちょっとした冒険 藤野可織 講談社

夜の新幹線に乗っている主人公が、都会のビルやマンションを積み重ねられた箱みたいに感じて、中にいる人がミニチュアみたいに思えて、でもその錯覚がきれいに打ち消されて、のあたりで、ぐおう、好きと思った小説だ。その後の展開は少しでも書くとすべてが損なわれそうなのでやめときます。箱と書いて思い出した、松田青子さんの『スタッキング可能』も変だなあ。

『エリダノス号』クリスタ・ライニヒ 現代ドイツ幻想短篇集 国書刊行会

エリダノス号は遅れて旅行者は電車に乗れない。新聞は昨日のやつだし、ホームの時計は止まっているし、質問をした駅員は答えない。日本だったらもう、と怒りたくなる現状も、この小説の中ならただただ、そうだろうなと思わせる奇妙さ。短くて、とにかく唐突な話です。

『伊皿子の犬とパンと種』  フランダースの帽子 長野まゆみ 文藝春秋

海の事故で記憶をなくした青年。彼の記憶を辿ろうとする医師たちの淡々とした記録的文章が気持ち良いのだが、途中から物語はそんなことアリ?という方向に曲がっていき、最後の一行が突き放されて、良き。長野まゆみさんは他に『45°』も面白いけど、こっちは変とは少し違うかも。

『怪鳥ロック』カシュニッツ 六月半ばの真昼どき めるくまーる

マリー・ルイーゼ・カシュニッツってなんか美味しそうな名前の作家さん、神田の古本屋のちょうど地震が起きた瞬間に見つけた本でそのときの場面と一緒になっていて、とにかく変な話を書くので変好きにはこれと『その昔、N市では』も読んでもらうとして、
怪鳥ロックは昼寝してたら、なんかでっかい鳥が部屋に入ってきてどーしよどーしよ、と思っていたんだけどその鳥がなんか変でっていう話だ。似ている変さだと『鳩』ジュースキント。借りているアパートを買い取ることを夢にしている警備員の部屋に鳩が入ってくるというお話。

『オリエンテーション』ダニエル・オロズコ 居心地の悪い部屋 河出文庫

とにかくね、うわあーって息継ぎしないで仕事の説明してきた人の話がどんどんどんどんへんちくりんになっていくんです。そういう、変な早口言葉ならぬ文章が好きな人におすすめします。この短編集は全体的におもろ、です。なんせ、選んでいるのが岸本佐知子さんなので。

『傘で私の頭を叩くのが習慣の男がいる』ソレンティーノ 超短編小説・世界篇 Sudden Fiction 2 文春文庫

本が手元にないので、なんか傘でひたすら頭をつつかれるっていう話だったなっていう記憶しかないけれども、なんか五ヶ月おきくらいに、えんえんと思い出してしまう。



いやあ、ひどい解説文ですな。アンソロジストにはなれんな。でも、ここにあげた小説の変さは、ぜったいです。

日本の作家さん以外は、著作がほとんど手に入らないっていうのも、なんだか深遠な感じがして良いですよね。
私はえんえんと彼らの本を探して、もう、あきらめてそう思うことにしました。

次回は、短くて怖くて印象的なやつ、変わった仕事のおもろい話をまとめてみよう。ではでは、誤字脱字に気をつけて(私の)!

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