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映画監督のパーソナル(個人的)な体験映画

 2020年、コロナウイルス第1波が終わり第2波が近づいていた6月~7月に4本の映画が公開されました。

  • 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

  • 『カセットテープ・ダイアリーズ』

  • 『WAVES/ウェイブス』

  • 『はちどり』

この4作品は製作された国も舞台となる時代設定も違いますが、どれも同じテーマの映画でした。

それは主人公たちが、生きづらい現実のなかで芸術や大切な人に出会い、本当の自分を知っていくというテーマです。

 僕は当時、この4作品を劇場で鑑賞し、コロナ禍の抑圧された社会のなかで「自分」の生き方とは何かを深く考えるきっかけになったと思っています。
 そのくらい映画の出来は素晴らしく、間違いなく「心」で作っていた映画なのです! 

実際、どのような作品なのかそれぞれ観ていきましょう!



『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

 この映画はルイーザ・メイ・オルコットの原作小説『若草物語』をグレタ・ガーウィグ監督が映画化。
 南北戦争中のアメリカ、上流階級のマーチ一家の4姉妹はそれぞれ個性豊かな性格。主人公で次女のジョーは結婚願望がなく、将来は作家になりたい夢を持つ。



『カセットテープ・ダイアリーズ』

1987年、サッチャー政権により貧富の差が激しかったイギリスで移民の少年がロック歌手ブルース・スプリングスティーンの音楽に衝撃を受けて詩の世界に夢中になるが、家族はその夢に反対する。



『WAVES/ウェイブス』

 フロリダのとある裕福な家族の物語。長男のタイラーはレスリング部で綺麗な恋人もいる。しかし、厳格な父親にしごかれ抑圧され、さらには恋人の妊娠も発覚。恋人と口論になり悲劇が襲ってしまう…。



『はちどり』

 1994年の経済発展目まぐるしい韓国ソウル。
 14歳のウニは学校に馴染めず、厳格な家庭に抑圧されどこにも居場所がなかった。ただ、塾の女性教師ヨンジだけが理解してくれた。心を開いていくウニだったが、悲劇的な事件が起きる…。


時代や国が違っても親や家庭、社会は毒として私たちを苦しめる。

この4作品に共通するものの一つに「毒になる親」「毒になる家庭」というものが存在しています。
 『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』では、意地悪な叔母さんに早く結婚しなさいと急かされ、主人公ジョーは作家の夢を諦めさせられそうになる。
 『カセットテープ・ダイアリーズ』では、主人公は詩や音楽など文学の道に進みたいのに、父親は「そんなものに価値はない。アメリカのロックを聴くなんてもってのほかだ!」と切り捨てる。
 『ウェイブス』でも、主人公タイラーに過度な期待をしてしまい何もかもコントロールしようとする父親が出てくる。最後にはタイラーは限界が来て父親に反発する。その時も父親は反省せず「父親に向かってその言葉はなんだ!」と怒鳴り付ける。
 『はちどり』はもっと最悪。韓国は家父長制が残っており、父親が箸をつけるまで晩ごはんは食べてはいけない。そして家庭も腐っている。姉は家族に反発し夜中まで遊びトラブルを起こすし、兄は受験勉強のストレスをユニを殴ることによって解消する。
ユニは耳の裏に大きな"しこり"が出き、それが彼女の不満を表す。あまりのストレスに耐えかねて「死」を予感させるほど…。

 時代や国、それぞれ別々だが家庭や親は子供に圧力をかけ、自分の手の中で転がしている。だが、操れる訳はない。益々、子供にストレスを与える。それどころか、身動きが取れないことにより、臆病になり誰かの指示がないと動けなくなる。

 芸術は人の心を浄化させ、背中を押してくれる。

 主人公たちに待ち受けるのは絶望だけ…。
だが、それを救うのは芸術だ。みんなそれによって現実で訴えられない心の声をすべて吐き出す!!!
ジョーは小説を愛し、寂しい心を癒す!ジジャベドはスプリングスティーンの音楽に励まされ詩のコンテストに自分の作品を出す!ユニは漫画を描くことにより、ヨンジ先生と理解を深める。『ウェイブス』はそこまでたどり着けないのだが、他の3作品は芸術を愛することで他者を愛し、自分を愛する「自己愛」を見つける。
それこそが最も素晴らしい出来事なのであると考えるようになっていく。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『カセットテープ・ダイアリーズ』
『はちどり』

 すべて監督や原作者の自伝的映画

 なぜここまで孤独な人々の心を刺激する作品が生まれたのでしょうか?
 実はこの4作品はすべて監督や原作者の体験に基づいた映画だからです。
 『若草物語』の原作者のオルコットは女性作家でありながら生涯独身を貫きました。当時のアメリカの上流階級社会ではとても珍しいことです。オルコット自身も4人姉妹の次男として生まれ、ジョーのように幼い頃から作家志望だったのです。
 『カセットテープ・ダイアリーズ』の主人公には元になった人物がおり、パキスタン移民でブルース・スプリングスティーンの音楽に衝撃を受け、何度もコンサートに参加するほど熱狂的ファンになったそうです。
 『ウェイブス』は監督のトレイ・エドワード・シュルツ本人の出来事。
 レスリング部に所属していたが、父親がかなり厳しく「俺に出来たのだからお前に出来ないはずはない」と酷い発言をし、監督は父親を避けたと語っています。
 『はちどり』も監督のキム・ボラの体験談。
 ほとんど実際に起きた出来事を、をそのまま映画にして作り上げたと語っています。

 このように全てに個人的(パーソナル)な痛みや苦しみの想い出を昇華することによって、作品は多くの人の心を揺さぶるような傑作になったと思います。だからこそ、私たちは映画や小説、音楽に触れ、前向きになれると思うのです。

実は、今年も家族がテーマの映画が多い


 2020年は、日本で同時多発的に「家族」や「芸術」についての映画が公開されましたが、今年の上半期(特にアカデミー賞作品で)も「家族」がテーマの映画が多く公開されましたね!
『エブリシング・オール・アット・ワンス』や『フェイブルマンズ』、『ザ・ホエール』、『アフター・サン』など、どれも監督の実体験が多いのが特徴です。

 僕自身、幼少期に親から心理的虐待を受けた身としてこのような作品を見ると嫌なトラウマが押し寄せてくるのと、なぜもっといい親の元に生まれてこなかったのだろうと哀しくなります。
 それでも、映画や音楽、本によって助けられてきました。芸術は人を呪いから解くことができる素晴らしい"魔法"だと思います。
 いつかその"魔法"を自分でも唱えて、苦しんでいる誰かを癒すことができたらこの世の中に幸せが増えるなぁと考えてみました。

以上です!






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