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HJ文庫レビュー 『孤高の王と陽だまりの花嫁が最幸の夫婦になるまで 1』

はじめに

 ついに始まりました新年度! 今日から本格的に新生活がスタートする方も多いことでしょう。もし望みの選択肢に進められなかったとしても悲観しすぎないでください。その先にハッピーエンドが全く無いわけではありません。私も大学進学が思うように行かなかった人間ですが、それでも大学生活は充実できてましたし。

 おっと話がそれました。新年度1発目となるこの記事ですが、それとは裏腹にHJ文庫のレビュアープログラムについては今月分で一旦区切りとなります。総括の方はまた後日行いますが、どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。

 それでは今月のレビューも2冊ございます。今回は『孤高の王と陽だまりの花嫁が最幸の夫婦になるまで 』のお話をしていきましょう。ややこじつけ気味かもしれませんが新生活が始まる春にぴったりな1冊です。

あらすじ

 幼い頃から迫害を受け、辺境に幽閉されたウィルフレッド。彼はその後腹違いの兄を手にかけ玉座に座り、1000年の伝統で腐敗する国を粛清で改革していた。その冷酷さからいつしか孤高の王と称されるようになる。

 王になって数年、ウィルフレッドは政略結婚により隣国の王女アリシアを妻として迎え入れることとなる。しかし彼女もまた訳アリであった。彼女は結婚が決まる直前まである事情により王家とは全く無縁の平民として生活していたのだった!

 育った環境も性格も真反対な2人。しかしアリシアは出会って早々ウィルフレッドの事を「優しい人」と判断したのであった。

レビュータイム

レビュー① 正反対な2人、でも似ている?

 それではレビューの時間にいたしましょう。あらすじから分かるように『孤高の王と陽だまりの花嫁が最幸の夫婦になるまで 』は政略結婚から始まる恋愛小説となります。でも1巻の展開からすると、恋愛というよりは人情の方が近いかな? とも感じました。まだ出会ったばかりでお互いの素性を知っていく段階ですしね。

 2人とも育った環境が違い過ぎるものだから相性が良いのか⁈ と初めこそ不安でした。でもその予想を覆すかのようにベストコンビでした。

 個人的には2人ともしっかりしているところが好きだったりします。人生での苦難の道を経て意外性がありつつも責任を背負うウィルフレッドは勿論、その特殊な生まれから決して平穏とは言い難いものの、1人の人間として生活してきた下地が彼女にもあって、会話の端々でそういったものを感じられます。

 王家の血を受け継ぎながらも特殊な育ち方をしたことや、それがもたらすパーソナリティが、独自ながらも土台の硬いキャラクターを生み出しているのかもしれません。

レビュー② 国王って大変だ

 そういった人間関係もあってたまにアニメで見るファンタジー世界の日常ものっぽさを感じた本作。ですが登場人物の大半が国を運営する者とその関係者ということもあって決してほのぼのしているとは言い難いのです。情勢がよろしくないのが猶更それを駆り立てます。

 仕事の間、これから他愛もないやり取りになっていくであろう時間が主軸となっていても、どうしようもなく行き詰まった状態がヒシヒシと感じられます。サラッとした説明だけだとこれもうダメなのでは? と諦めてしまいそうになるくらいには。

 このような社会の厳しさや王としてのリスクや宿命といった暗い部分も包み隠すことをせずに容赦なく描かれているのが何とも印象深かったです。だからこそ、アリシアの明るさがより一層映えているようにも思われます。

レビュー③ プロローグは1つとは限らない

 ではではすっかりおなじみとなってきた文章表現系で気になった部分に触れていくパートでございます。今回はやや変化球で目次ページを見ていきます。

 本作も例に漏れずにプロローグとエピローグがございます。ですがどちらも2つずつあるのです! どっちかが2つあるのは何度か見かけたような気もするのですがどっちも複数あるのを見たのは初めてかもしれません。

 エピローグが2つある理由についてはネタバレに抵触してしまうので皆様の目で確かめていただくとして、プロローグの方に着目いたします。なぜ2つあるのか。察しのいい方は既にお気づきかもしれませんね。ウィルフレッドのプロローグとアリシアのプロローグが独立して存在しているのです。

 それぞれが別の世界で育ったもの同士。彼らがどのような人間なのかを示すエピソードが区切られていることによってどのような人物なのかが覚えやすかったように感じました。言い換えるならば2人揃っての物語だということを暗に示されているのでしょうか。

さいごに

 元々のページ数が少なく、読みやすい文体ということもあって短い時間で読めました。ですが、軸のあるキャラ性や全体的には重い部類に入る世界観が物語に深みを生み出しています。それでいてシリアスになりすぎず、日向にいるかのような暖かさがありました。いつもとは違った日常を楽しみたい方にも良いかもしれません。

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