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HJ文庫レビュー 『青春マッチングアプリ 1』

はじめに

 少し昔の話、某動画サイトで度々見かけたアプリの広告にあった文言「18未満の方はご利用になれません」。アプリ自体には興味が無かった(というか広告だけでどんなアプリか理解しきれてなかった)のですがどうして年齢制限が設けられているのかだけがとても気になってました。というかどうして全年齢の場でこういった広告流してるんだ? という疑問もあったのだと思います。それが「マッチングアプリ」の広告だと知ったのは後日の事です。

 そういったこともあってか『青春マッチングアプリ』というタイトルを見た時「真逆だな」と感じました。一般的に青春とされるのは高校生ぐらいまで。そして基本的に高校3年生の年齢は18歳。現実の類似例と真っ向から矛盾したこのアプリは何をしようとしているのか。という訳で今回のレビューは『青春マッチングアプリ』です。


あらすじ

「青春って何だ?」

 可もなく不可もない高校生活1年間を過ごしてきた凪野夕景なぎのゆうけいはインターネットで曖昧な疑問を検索する。そこで検索結果の下の方に出てきた目的不明の《青春力テスト》。それを全て答えきった結果、彼の下へ届いたのは謎のアプリ「アオハコ」だった。

 アンインストール不可、口コミ一切なしの謎のアプリ。ある日、そこから青春相手とのマッチングのお知らせとミッションが届く。

 指示された場所に現れたのはクラスの中心で明らかに青春を送ってるようにしか見えない同級生花宮花はなみやはなだった⁈ 夕景(ユウ)と花(ハナ)それぞれの思惑の下アプリのミッションに従って『正しい青春』を送り始めるのだった。

レビュータイム

レビュー① アプリのお仕事はマッチングだけじゃない

 それではレビューに移っていきましょう。まずはタイトルにもある青春マッチングアプリ・アオハコについて説明していきましょう。

 とは言ってもかなり胡散臭いし謎だらけなんですよね、このアプリ。本家マッチングアプリを知らないので論点ずれるかもしれませんがマッチングって相手が出会う所で終わりじゃないんだ……。

 ところでミッションとは何ぞや? と思われる方もいるでしょう。試しに最初に配信されたミッションを引用してみましょう。

 ミッション それは最悪の出会いだった
 青春相手と出会う為、凪野ユウケイは放課後の屋上で寝そべって待っていてください。
 今日の放課後、あなたの青春相手がそこへやってきます。

江ノ島 アビス『青春マッチングアプリ 1』p30

 こんな感じの謎のお題をクリアするとSP(青春ポイント)ゲット。失敗するとポイント減少。マイナスになったらアプリの使用者ではなくなります。SPは報酬交換等もできるのですが今回は話題が逸れるので端に置いておきます。このように、アオハコは(多分)ただのマッチングアプリではないのです。

レビュー② クリア条件は……えーと…………

 今の話を聞いて、与えられたミッションをこなせばいいだけだなんて簡単じゃないか⁈ とお思いの方も多いことでしょう。しかし事はそうは単純に行きません。ミッションのクリア条件がハッキリと明示されないのですから。

 与えられた指示に従うにしてもその指示自体が曖昧なことも多いですし、判定基準も良く分かってないし……そんな中でどのように動けばミッションクリアになるのかを試行錯誤していく様子も本作の楽しみの1つとなっております。

 怪しいアプリではありますが判定等はかなり厳しいらしく、ごまかそうとしても一筋縄ではいきません。そういったミッションの数々をどのように切り抜けていくのかが見ものです。

レビュー③ 王道も、自分たちだけのも

 巷で耳にする「マッチングアプリ」という単語が堂々とタイトルを飾っているのも印象深いですが、こうして見てみると、この物語の主題は序盤に登場した「正しい青春とは?」に帰結するように感じます。

 実際に読んでいた時の序盤でもありありと突き付けられたフィクションと現実で乖離した"青春"。私もそこまでキラキラした高校生活を送っていたわけでもないのでとても共感してしまいました。

 そんな現実に光を差し込むかのような『アオハコ』の存在。『アオハコ』が提供するのはまさに誰もが羨む青春そのもの。でも、ミッションの行間では王道とは少し違うかもしれない何かもあるのです。

 同じ日常のはずなのに虚実が入り組んでしまっている。その中で真の青春とは何なのか? そう問われるような作品だと感じました。

さいごに

 謎だらけのアプリの存在と、2つの在り方が混ざり合う青春の姿も相まって、本筋のそれとは全然違うはずなのにSFすこしふしぎという言葉がふと頭をよぎりました。それぐらい隣り合わせの日常のはずなのに、不思議さを感じざるを得ない何ともむずがゆくも目が離せない1作です。

 時には思い描き、憧れたあの日々を、時には確かに過ごした日々を思い出しながら楽しんでみるのもいいかもしれません。それでは皆様良い青春を!

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