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異質なゲームが人を惹きつけて離さない理由 ~鵜飼 有志『死亡遊戯で飯を食う。』を読んで~

 これは個人的な見解なのだがライトノベルの新人賞受賞作は発想が"尖って"いることが多い。差別化のためだろうか。そういう意味では『死亡遊戯で飯を食う。』は近年の新人賞受賞作品の中でも、トップクラスに"尖って"いる。少し表現を強めるならば"異質"と言い換えられるかもしれない。既存ジャンルにまとめることも不可能ではない。しかし、いざそうしてみるとどこかに違和感を感じてしまう。どこを切っても新感覚という奇妙さに惚れ込んだのは私だけではないはずだ。

あらすじ

 クリアすれば初心者でも300万円の賞金。できなければ死。そんなゲームが娯楽として社会の裏に隠れて存在している世界。プレイヤーとなる少女達は各々の事情と共にゲームに足を踏み入れる。プレイヤーネーム幽鬼ユウキもその1人。彼女の目標はただ1つ。史上最大の連勝記録といわれる98連勝を越えること。――すなわち99連勝の達成。

詳細と注目ポイント

死亡遊戯のレギュレーション

 本題に入る前に、このタイトルに書かれている『死亡遊戯』について、どのようなものなのかを本文の内容を基に整理していきたい。

  • プレイヤーはゲームをクリアすると賞金がもらえる。額は初回の場合、約300万円。ただしクリアできなければ問答不要で死ぬ。

  • ゲームに参加する際は、情報秘匿のため薬によって眠らされた後、運営によって運ばれる。

  • ゲーム開始前には〈防腐処理〉、俗に言う肉体改造などがされる。

  • 参加人数・ゲーム時間・舞台・ゲーム内容・衣装はゲームごとに変化する。これらの情報はプレイヤーには事前に知らされず、ゲームが始まらないと判明しない。内容に関しては説明される場合とそうでない場合がある。

  • このゲームには運営及びゲームの様子を楽しむ観客が存在している。プレイヤーはそれらの存在は知覚しているが内情は全く知らない。

 全体に共通するのはこのあたりだ。詳細なルールもあるが全て書くと相当な分量になりそうなのでここまでにしておく。
 このゲームは表立ってはいないものの、娯楽として成立され、洗練されているというのが特徴だろうか。これを踏まえてこの本の魅力について語っていく。

死亡遊戯=デスゲーム?

 このゲームは非常に幅が広い。1ゲームのプレイヤー人数が10人以下の場合があれば、100人以上で行うことがある。時間に関しても、数時間から1週間、場合によっては無制限なんてこともある。ゲームは基本的に個人の自由で参加を決めるため、何回も参加するプレイヤーが存在する。その為、初心者が多いゲームでは従来のデスゲームらしい雰囲気になるが、ベテランが多くなるとゲームのルールや傾向を基にしたメタな推測が行われることも少なくはない。

 当然ながら、ゲームの雰囲気に最も影響する舞台とルールを忘れてはいけない。

 ゲームの舞台は千差万別、ゲームごとにガラリと変わる。洋館・廃ビルといった「いかにも」な場所は勿論「え、そんなところで!」と目を疑ってしまうような場所で行われることもある。

 ルールについても上に同じ。舞台のテーマに沿った筋書ルールがゲームごとに用意されている。とはいってもある程度の傾向があったりもする。
 例えば対戦型はその名の通りプレイヤー同士が戦い、既定のノルマを達成することでクリアとなる。脱出型は運営が仕掛けたトラップに対峙しつつゴールを目指す、いわゆる脱出ゲームの体裁をとっている。生存型は脱出型に類似している。同じく運営によってトラップが仕掛けられているが、生存型にはゴールではなく制限時間が設けられていて、その時間がくるまでトラップを回避し続ける必要がある。

 このゲームの最も根幹となるのは「プレイヤーが命の危機に晒される」こと。これさえクリアしていれば成立するフォーマットなため、上記の要素を組み合わせることによってゲーム毎に雰囲気がガラリと変わる。これがデスゲームらしからぬ空気感が生まれる一因かもしれない。

「見せもの」であることを意識した工夫

 あらすじにも書いた通り、このゲームには観客が存在している。しかし、彼らの存在はさして重要ではない。この理由を考えた時、『死亡遊戯』は番組形式をとっているのではないかという発想に至った。つまり、読者が観客の一部ということだ。

 そう感じた理由はいくつかある。全体を通して(特に序盤)モノローグが淡々としていて、物語にのめり込むというよりアクリル板を隔てた状態を保っている様な感覚に襲われるのがもっともだろう。
 ゲームのルールに関してもそれらしき物が散見される。例えばゲームでプレイヤーに用意される衣装はメイド服やバニーガールといったコスプレのようなものがほとんどで、動きやすさよりも見栄えの良さが優先されている。
 プレイヤーに施される〈防腐処理〉には様々な効果があるが最も重要なのは血液が赤いまま流れないことだろう。これによりグロテスクな要素が減り、周囲の死亡時のショックが幾分か軽減されている可能性がある。
 容姿のいい女性をスカウトしたりすることもあるが、その一方でゲーム内の食事に毒が入っていることが無かったり、ゲーム終了後にはゲーム内で負った怪我を最先端の医療技術によって治療されたりなど、プレイヤーに対する敬意が払われていることにも注目したい。この遊技は一見残酷に見えるが、表沙汰にこそなっていないがショービジネスのモデルとしてはかなり高いクオリティーに仕上がっているのだ。

さいごに

 『死亡遊戯で飯を食う。』がデスゲームとして異質なのは特有の理不尽さが少ないからなのかもしれない。だから個人のプレイスタイルを確立したプレイヤーが多くいるのだろう。もしも私がこのシリーズのジャンルを決めるとしたら「新お仕事もの」だろうか。
 また、このシリーズは1巻につき2つのゲームの内容が収録されている。時系列が1続きになっていないためスパンの長い連作短編集、この場合連作中編集となっている。連作短編集の場合クライマックスにあたることが多い4編目の立ち位置にある2巻収録の〈ゴールデンバス〉はこれまでの集大成としても1つのゲームとしても満足度が高く、私が一番気に入っている回だ。時間に余裕のある方は、是非とも1巻と2巻をまとめて読んでほしい。勿論、3巻目も負けず劣らずの面白さがあるので、気に入った方はこのまま奇妙なゲームの観客の一員になっていただきたい。

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