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この初恋は、唯一無二 ~榛名 丼『レプリカだって、恋をする。』を読んで~

 今までライトノベルを中心に様々な本の話を投稿してきた私だが、ここに来てある重大なことに気が付いてしまった。ライトノベルの花形でもある恋愛ものを全く取り上げていないということに! いや、恋愛要素というものはどのライトノベルにおいても必ずと言っていいほどの必須項目ではあるののでそうは感じてない方もいるのかもしれない。だが、私の個人的な好みのせいで恋愛よりもバトルに重きを置いた本を手に取りがちになってしまっていた。これはラノベ好きとして、またラノベを紹介する活動を行うものとして十分に反省せねばなるまい。

 という訳で今回は、私が最近読んで1番印象に残った恋愛もののライトノベルについて書くとしよう。『レプリカだって、恋をする。』――ライトノベル界に彗星のごとく現れたピュア全振りの恋愛ものの話をするとしよう。


あらすじ

 友達に謝らなければいけないとき、体調が悪い時、あるいは学校に行くのが億劫になるイベントがあるとき、レプリカは呼び出される。そしてオリジナルの少女愛川素直あいかわすなおの代わりとして1日を過ごす。誰にだって気づかれない。オリジナルとレプリカは声も見た目も同じだからだ。ある日の事、素直が幽霊部員として所属する、あるいはレプリカが通う文芸部にクラスメイトの真田秋也さなだしゅうやという新入部員がやってきた。新たな部員と過ごす日々はオリジナルには存在しないものとなって、やがてそれはレプリカだけが持つ恋心になっていたのだった。

詳細と注目ポイント

レプリカとは?

 あらすじを読んでチンプンカンプンになった方も多いであろう。本題に入る前にまずは本作におけるレプリカについて簡単に触れておこう。本作におけるレプリカというのは本人が自由に呼び出すことのできる分身体である。要は「忙しすぎて体が1つじゃ足りない! 分裂できればいいのに!」が本当にできてしまったという感じだろうか。また、オリジナルの意思によって出したり消したりできるが幽霊とは違って両者とも同じ世界に存在している。呼び出しのオンオフによって記憶の同期が行われる。

 とはいえオリジナル=レプリカと完全な同一存在になるわけでもない。レプリカはオリジナルのためにあるという前提条件があるのは勿論、一卵性双生児の性格が全く同じになるわけではないように、経験のによる差があるのが大変興味深い。実際、主人公である素直のレプリカ(以下、本文よりナオと記す)は素直とは違う趣味を持っていたりもする。縛られているようでいて自由。でもその逆にも見えてしまう。レプリカというのはなんとも奇妙な存在だ。

何気ない、だけどもかけがえのない

 個人的にもこの世界観は気に入っていて、もっと語りたいのだが一旦本題に戻るとしよう。それを抜きにしても『レプリコ』の恋愛描写の素晴らしさは褪せることが無い。王道イベントの重ね掛けにも関わらず、全体を通して先まで透き通るような透明感が保たれ続けているのだ。

 それはやはり、レプリカの存在が大きいのだろう。次に会えるのがいつか分からない。もしかしたら誰かと遊びに行けるのも今日が最後かもしれない。そういった刹那さが、上手くいかなかったことも含めた些細なことの1コマ1コマを印象深いものにしているのかもしれない。

 もちろん、ナオ自身に誰かと遊びに行った思い出が少ないというのも大きい。慣れていないからこそ予想とは少し違う形になってしまったり、小さな反応でも彼女にとってはまたとない経験になっているのかもしれない。

『レプリコ』は文学チック?

 また、個人的に強く印象に残ったのは文学作品が多く出ていたことだろうか。頻繁にタイトルや作者の名前が挙がることは勿論のこと、場合によっては本文の1部引用なんかもあったりする。みなしだみを整えるシーンなどで現代に即した要素が多かったから相対的に目立っていたのかもしれない。

 更に、あくまでも私の主観だが『レプリコ』で文学作品らしさを感じ取れることがしばしばある。例えば、レプリカの設定については「詳細」や「原理」というものが明瞭化されていない。レプリカはさりげなく生み出されている。ライトノベルではこういった現象は滅多に見ないものだから、初めて読んだときは驚いた。こうした原理を必要としないことはどちらかというと純文学、とりわけ幻想文学を彷彿とさせた。

 また、作品内で出てくる固有名詞にも注目したい。フィクションにありがちな現実にある固有名詞を1文字変えるということはなく、現実にある固有名詞が伏せられたり変化させることなくそのままの字で登場している。このことがあってか、『レプリコ』は架空の世界ではなく現実で起きた出来事を基にしているように錯覚させられる。

 また、昔国語の授業で聞いた「近代文学は人間とは何かや近代的自我に焦点を当てている」といったニュアンスの言葉を思い出した。もしかすると、レプリカの物語を文学に重ねているのかもしれないと考えた。

さいごに

 勝手気ままに書いてはきたが、『レプリコ』は一見特殊な作品に感じられるが純粋な恋愛小説として楽しめる。そのため、普段ライトノベルに興味が無い方にも是非手に取って欲しい。

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