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今だから描ける未来社会 ~Mika Pikazo/ARCH原作・吉上 亮/三雲 岳斗著『RE:BEL ROBOTICA』を読んで~

 創作において未来世界をそれたらしめるのは、現在の最先端技術のさらに上を行く何かが、社会全体に享受されていることではなかろうかと考えている。古びた表現かもしれないが、空飛ぶ車や家族同然のロボットなんかはその最たる例だろう。
 今回取り上げる『RE:BEL ROBOTICA レベルロボチカ』もまた近い未来を舞台としている。例に漏れず、私達からするとオーパーツのように感じる技術が一般化されている。だが、その世界に潜り込んでいると、どこか今っぽさを感じて仕方がない。


あらすじ

 2050年、AR・VRが融合・発展したMRメタリアリティの技術が大都市に実装され数十年、発展した技術は人を支え理想の世界が実現していた。東京で暮らす高校生・タイキは、自身のバグを起こしやすいという体質を抱えながらもMR社会で生活していた。そんなある日、彼は2つのものを見つける。1つ、屋上から落ちる誰かの影。1つ、誰も入ることができないはずの屋上にいた白い少女。生来の体質から「何が正常で何がバグかを知りたい」という一心で前者――目撃者ゼロの『空飛ぶ幽霊』の噂の調査を開始した。後者――噂を調べているというタイキにしか見えない少女と共に。

詳細と注目ポイント

現実に落とし込まれたSNS?

 『RE:BEL ROBOTICA』世界の基盤となる技術・MRとはどういったものか。現在では架空の技術でピンとこないため、あらすじでおざなりにしてしまったその解説から始めよう。自分の言葉で要約するよりと取りこぼしが出てくる懸念があるため、今回は本編序盤の説明を引用する。

 超越現実メタリアリティ
 二〇五〇年の東京において、生活の基盤となるシステムであり、現実世界そのもの。東京と特別行政十三区のエリアに全域に整備された新世代の超大容量・超高速情報通信網と脳内埋めこみ型の情報インターフェース――通称〈MR感覚神経チップ〉の実装によって確立されたMR現実とは、物理現実と対になるもうひとつデジタルツインの情報的現実のことを指す。(中略)仮想ヴァーチャルではない物理現実リアルに情報的な装飾を施すだけではなく、むしろ従来の物理現実よりも自由度が高く、また高い解像度を持つ現実い以上の現実的空間として、MR現実は都市の生活領域、その隅々にまで浸透した。

吉上 亮『RE:BEL ROBOTICA
 0』p15

 2020年代の技術を基準に無理やり解釈するならば「脳内にコンピューターが内蔵されており、視界がディスプレイとなっている」といった感じだろうか。フィクションでよく見る空中に投影されたモニターを彷彿とさせる。MRの表示は広告や背景オブジェクトの追加だけに留まらない。例えば、自身の容姿にアバターを纏わせることが常識となっていて、初対面の相手の素顔を覗くのはマナー違反とされている。また、相手の名前が視界に勝手に表示される機能も相まってか、現実社会に落とし込まれたSNSのような風体が散見される。

 もちろん、技術の発展はMRだけではない。AIもさらなる発展を遂げている。蓄積された行動データの分析から各個人に合わせた授業内容のレベル補正や帰宅時間の提案、さらには会話の話題を考えてくれたり友人・恋人のマッチングまで行ってくれるのだ。(話題提供は羨ましい……。)

 この世界の技術とその恩恵はまだまだあるが、言い出せばきりがないため読んでからのお楽しみ。
 人間の思考の一助となるAIの存在やMRの技術が創り出す近未来社会は最適解の未来のように感じられる。

人の違いをどう受け入れるか

 世界観の話は一旦置いておいて、今度は主人公であるタイキについて触れていこう。あらすじにも書いた通り、タイキは体質故か生来よりMRの誤作動が日常茶飯事だ。看板の文字表記が勝手に別の言語になったり、他人のMRアバターが剥がれて素顔が見えてたり、普通の道に立入禁止の警告がされたり……。かなり生活に支障がでている。MRがインフラ同然の東京においては、ハンディキャップといっても過言ではないかもしれない。
 しかし、彼はそんな現状を受け入れながら日常生活を送っている。突如見舞われるバグを見越して家を出る時間を早めたりなど工夫も怠らない。2020年代では現役だが、2050年代には使われなくなった道具を使ったり、バグの影響なのかAIによる補正の恩恵を受けにくかったりするあたりは、MRネイティブ世代でありながら私達と似たような視野や感覚を持っているという奇妙な感覚もあるように思える。
 タイキ本人の意思でこのスタンスになったのは当然だが、それを拒絶せずに一員として認めてくれる社会の在り方もこの世界が理想的に感じる要因の1つかもしれない。

心のズレと今と未来

 『RE:BEL ROBOTICA』世界に現実を感じさせられる要因には心の問題が中心となっているのもあるのかもしれない。現代社会でも芽生える社会のルールに反する心にMRがあるからこそ転がっていく展開が上乗せされている。だからこそ今っぽい未来社会になっているのかもしれない。社会そのものではなく個人の心に焦点を当てているのは、この時代だからこそ出来たスポットの絞り方なのかもしれない。

さいごに

 正直な話をすると今回の紹介は今まで以上に何を書くか悩んだ。現在このシリーズは0巻と1巻(無印)が刊行されていて、それぞれがプロローグとチュートリアルを担う構成となっている。その為、0巻のネタバレをするとこのシリーズの特徴を余す所なく語ることの難易度が跳ね上がる。言い換えてしまえば、これ以上は言えないだけでまだまだポイントはあるということだ。気になった方は是非どちらの巻も読んで欲しい。

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