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HJ文庫レビュー 『「門番やってろ」と言われ15年、突っ立ってる間に俺の魔力が9999(最強)に育ってました 1』

はじめに

 ご無沙汰しております。細川 カヲルです。皆さんはエイプリルフールを楽しめましたか? 最近は色んな所が全力でネタをぶつけてきますから過去のものを調べるのもかなり楽しいです。もう新年度なのも嘘のようです。正直4月からも多忙な日々が続くのでもうしばらく春休み気分でいたい……。

 さてさて、それでは前置きもここまでにして、最後のレビューに移りましょう。今回レビューする本は『「門番やってろ」と言われ15年、突っ立ってる間に俺の魔力が9999(最強)に育ってました 1』です。これまた長いタイトルが来ましたね。括弧もたっぷり。送られてきた封筒からこの本を取り出した時、門番に魔法のイメージが無いんだけどどういうことなんだろう? と疑問だったのが懐かしいです。それではこれから読んだ感想も交えつつレビューしていきます。

あらすじ

 体格の良さを見込まれ騎士団に入団したロイル。だが戦闘センスがあまりにもからっきしで何もやることがない門番の訳を言い渡された。

 あまりにもやることが無さ過ぎる日々。脳内で自分が大活躍する様子を妄想しながら過ごすロイルは一生門番生活になるだろうと思っていた。しかし、門番歴15年目にして技術の進歩によりついにお役御免となってしまうのであった。

 無職になったロイルはかねてからの夢であった冒険者になる事を決意する。その最中ある事実が発覚するのだった。なんとロイルは魔術の適性が高かったのだ。元々あるのとは関係ない脳内で妄想した最強魔術を使えるレベルで。

レビュータイム

レビュー① ハイでいてローなファンタジー

 この本を通読していてずっとぼんやり考えてたことがありました。この話ってファンタジーはファンタジーでもハイファンタジーかローファンタジーのどっちなんでしょう? 一応頭の中での定義が間違ってるかもしれないので軽く調べてみた所、架空の世界を舞台にしたものがハイファンタジーで我々が暮らしている世界を舞台にしたものがローファンタジーになるようです。となるとこの作品は架空の世界が舞台ですしロイルはじめ登場人物が転生したという訳でもありません。ならば圧倒的にハイファンタジーなはずなのですが断言してしまうと妙に引っかかりがあるんですよね……。

 その最大の理由であろうものは恐らくロイル愛用の魔道具、電子書籍用のタブレットだ。これだけを書くと突如現れたオーパーツのようでなんのこっちゃ! と突っ込みたくなるだろう。だがこれは魔道具の進歩がもたらした産物である。

 紙の本自体が高価といった西洋ファンタジーらしい部分も多分に含んでいるが、ロイルが電子書籍で日夜物語を読んでいるという我々現代の読書人に通じるところがあるのが何とも興味深い。

レビュー② 強くても越えなきゃいけない壁がある

 また、これも全体的に読んでていいなと思ったことなのですが、ロイルが15年間門番として立たされてるだけというバックボーンが面白い形で活かされています。例えば、仕事内容がただ立っているせい、しかも騎士団加入と共に1人暮らしをしているということもあってコミュニケーション能力が著しく低いのです。たとえ自分が強くなってるという自覚がモテても喋りに関しては据え置きのままなのが何とも人間らしいです。

 ただ単にそれを引っ張るのでもなく、会話上手な仲間ができて、またその子がロイルが普通に会話をできるように色々な形で手助けをしてくれる様子がとても微笑ましいのです。得意や苦手をイチかゼロかで決めつけてそのままにするのではんくて、ステップを踏んで克服していこうとする姿があることに人間らしさを感じました。

レビュー③ 妄想力が凄いぞ

 ロイルの凄さを語るにはやはり門番時代に培ってきた妄想力が欠かせません。しかもこの妄想、本編で明かされる作り込み具合が凄いです。数ページに渡るのが複数回出てきます。

 文体もガッツリ小説仕立てでもうこの人ネット小説家になれるのでは? と妄想してしまいそうになりました。まさに作中劇のエピソードが挿入されているかのごとく。でも案外私達が授業中に「学校にテロリストがやってきて~」と考えるのと似たようなものだったりもするのかな? 想像力が文章に寄ってるのも電子書籍を読んでいたというと納得できます。

さいごに

 舞台としては純異世界なはずなのに、細々とした設定が現代と重なる所があって共感がしやすいという奇妙ながらも受け入れやすい土壌だったのがとても興味深い作品でした。というか異世界舞台で現代日本要素が何1つないのに「あるある!」という意味合いでここまで共感できる作品もかなり珍しいような気もします。

 今回はあまりフューチャーできませんでしたが、ヒロインをはじめとして魅力的なキャラクターも沢山出ていますのでそっちの方向性でも楽しめる1冊です。


 最後に私事ではございますが。これにてHJ文庫レビュアープログラム第13弾の活動は以上となります。お付き合いしてくださった皆様、そしてこのような機会を下さったHJ文庫様、本当にありがとうございました。この4か月で普段読まないジャンルの本に出合えた気がします。次の機会がありましたらその時またお会いしましょう。(一応来期分の応募はしてます。選ばれるかどうかは別として)

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