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おすすめ本紹介シリーズ

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約週1回ほどのペースで投稿しているおすすめ本紹介をまとめたものです。どれも他の人に読んでほしいお気に入りの作品なので、少しでも興味を持ってくれれば幸いです。
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#読書記録

気が付けますか? 些細な違和感 ~雨穴『変な家』(文庫版)を読んで~

 『変な家』という本が人気らしい、という噂はかなり前から知っていた。だが、読もうとしたのはつい最近の事だった。理由は2つ。丁度文庫版が出版されたことと、知り合いに強く勧められたからだった。いつもの知り合いにしては強く勧めてくるのが珍しく既に組んでいた本を読む順番を崩しての読書だった。  確かに勧める人も出てくるのも納得の面白さだった。それは物語としての筋立ての面白さは勿論、恐らくフィクションであるにも関わらず現実にあったかもしれないというリアリティーを突き詰めた表現が読みや

古典的、だけど斬新 ~かつび 圭尚『大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーでつながったら!?』を読んで~

 ライトノベルから体を1歩引いてサブカルチャー全体に視野を広げた時、王道と呼べるジャンルは何になるだろうか? そう聞かれると私は考える間もなく異能バトルものだと答えてしまいそうだ。これといった根拠もないただの趣味でしかないのだが。  この手のものについては様々な能力が入り乱れることが多い。作品内でもたった1つに焦点が絞られることは多くはないだろう。  そういう訳で『大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーでつながったら!?』(このタイトルは誤字ではありません。"っ"

これが数学のロマンだ! ~サイモン・シン/青木 薫訳『フェルマーの最終定理』を読んで~

 私の記事の読者は恐らく文系理系で言うところの文系に相当する方が多いだろう。その中にはきっと数学が苦手な方もいるはずだ。実の所、私も現在進行形で数学に苦しめられている。講師や教科書の解説を何度見聞きしても何が起きたかサッパリでちんぷんかんぷんになってしまう。  常人には理解しがたい理論や計算式が先行し、理系の学問ということもあって最先端のイメージが強い数学だが、その歴史は途方もなく古い。古代からの付き合いと言われるといまいちピンとこない。  そんな数学史の中も一筋縄ではい

その魔法は"うそ"か"まこと"か ~三田 誠『魔女推理』を読んで~

 唐突だが、皆さんはお気に入りの作家の新作は無条件で購入する、所謂「作家買い」をしたことがあるだろうか? 私は興味のある内容かどうかで判断するためほとんどない。興味のある内容だなと思ったら偶々以前読んだ本と同じ作家先生が書いていたというニュアンスの方が多いかもしれない。この人だからという理由のみが動機になる事はあまりない。  という思考回路なせいか、『魔女推理』はかなり特殊な動機だったのかもしれないと今更ながら思う。そう、柄にもなく「作家買い」をしたのだ。実は前々から同作者

これから語るは文字の先 ~道草 家守『帝都コトガミ浪漫譚』を読んで~

 私は「どのジャンルが1番好き?」と尋ねられると答えに行き詰ってしまう。何せ王道なものに食指が動くこともあればマニアックなジャンルに手を出すこともしばしば。フラフラした末には「作者様の好きな物が詰め込まれた作品」が答えなのかと思うようになった。製作経緯が明言されない作品も多いため、主観的な部分が抜けきれないのだが。  先日SNSにて存在を知った『帝都コトガミ浪漫譚』もそのタイプだという。これに関してはあとがきにて明記されている。とはいっても最初はそんなことも悟ることなくこの

ようこそ“おわり”の展覧会へ ~山田 風太郎『人間臨終図巻』を読んで~

 ここ最近、ライトノベルの紹介が長いこと続いたので、今回は少し気分を変えて一般的な文庫レーベルから出版されている小説の話をしよう。  今回の記事のタイトルを見て、今の前置きを読んだ方の中には「どうしてよりにもよってこの本なんだ」と突っ込みたくなったかもしれない。先に言ってしまうと、この作品は小説としてかなり異質な部類にある。そういう内容もあってか私とこの本のエピソードもかなり特殊な物が多い。  初めてこの本を知ったのは別の小説を読んでいたときだった。登場人物が『人間臨終図

その情熱は、全てを貫く ~佐伯 庸介『帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中』を読んで~

 実の所今週の本紹介は別の作品で書こうと考えていた。だが、この作品があまりにも面白かったため、急遽予定を変更することにした。私が元々本が中心に関わってくる物語が好きという贔屓めいた色眼鏡をかけていることは否定しない。しかし、それを抜きにしてもこの作品に込められた本に対する愛情は凄まじいことこの上ない。表紙を開いて真っ先に目にするカラーイラストに添えられた一言から物語を締める最後の1行にまで十全にしみ込んだ情熱を知ってしまうと、発信を少しの感想だけで終わらせるのはあまりにも惜し

そうだ、新書読もう ~本紹介特別編~

 本の種類にも色々ある。フィクション・ノンフィクション・多種多様なジャンル・出版形態。もっといろんな形で細分化することも可能だ。  そんな中でも今回は新書について紹介しようと思う。私は今までライトノベルを中心に本紹介を行ってきたが、新書に関しては良い紹介方法が思いつかずかなり悩まされた。それでも他の方々にも読んでもらいたい本が多数あるため、今回は私個人の視点から新書についてのあれこれを書いていこうと思う。私自身、新書に明るいかと言えばそうでもないため、かなり偏った話が多くな

王道ファンタジー×ご当地ものの親和性やいかに⁈ ~佐々木 鏡石『じょっぱれアオモリの星』を読んで~

 最近の私の読書事情を振り返ってみると、思いの外ファンタジー系を読んでいないことに気が付いた。恐らくアニメでかなりの本数を見ているのと、ロングシリーズな作品が多く、手を出すことに少し躊躇いが生じてしまっているからだろうか。ラノベ好きを自称しておいてこの体たらくはありえない。そう発起して久しぶりのファンタジー作品として手に取ったのが今回ご紹介する『じょっぱれアオモリの星』だ。ファンタジーどころか完全にご当地ネタというところに引っ張られてました。  そういった経緯で読んでみると

少年心はいつだって ~朱雀 伸吾『はたらけ! おじさんの森』を読んで~

 前回の本紹介にて題名の話をしたが、その後ふともう1つ、題名で濃い印象を残した作品があったことを思い出した。それが『はたらけ! おじさんの森』だ。本作は本当にたまたま書店に寄った時に新刊コーナーで見かけてそのぶっ飛んだ題名とラノベではあまり見かけない清々しいほどに生き生きとしたおじさん達の表紙。どこかで見かけたフレーズの題名でありながらラノベでは前面に出にくい「おじさん」の異色さが際立つ……。そこで私は悟った。「これは確実に面白い──!」と。 あらすじ ある会社に総務として

目先の君は過去の中 ~四季 大雅『ミリは猫の瞳の中に住んでいる』を読んで~

 物語には必ず題名が存在する。一部例外はあるが題名にはその物語を端的に表すものとなっている。漠然と内容を表す例も多いが中には作中で題名の単語が出てくる、所謂「タイトル回収」が行われることもある。タイトル回収のタイミングは作品によってまちまちなのだが、今回紹介する『ミリは猫の瞳の中に住んでいる』はタイトル回収が行われたであろう作品の中でもトップクラスに印象深い回収だった。一見奇妙な題名ながらも短い時間の中でタイトル回収を行い、最後まで濃厚なストーリーを魅せ続けた。その濃厚さはじ

2つの日常、その交差点で ~扇 友太『ブラックガンズ・マフィアガール』を読んで~

 VRが根を張る世界観と言えばどのようなものが想像可能だろうか? やはり、現代の技術の結晶、誰もが想像しやすい新時代のテクノロジーの代表格ということも相まって近未来風やSFじみた世界観だろうか。どうしたわけか私はこれらのイメージがこびりついていたのか、『ブラックガンズ・マフィアガール』を読み始めた当初、世界観のギャップに困惑してしまった。ゲームでもなくパッと見現実世界のように錯覚してしまうVR世界。しかし現実と別のフィールドである事も納得させられてしまう。それでいて世界観が全

真の師弟は闇の中で ~武葉 コウ『スパイ≒アカデミー』を読んで~

 つい先日まで『このライトノベルがすごい! 2024』に向けての読書集中期間に入っていたためこちらの方を一時停止してしまって申し訳ございませんでした。でもその分得られたものも多くありました。今回はこの期間中に読んだ一冊を取り上げようと思います。この作品に関しては実のところ前々から気になっていたのですが恥ずかしながら読めておらず……。今回の投票を機会に真っ先に読ませていただきました。改めまして今回取り上げさせていただくタイトルは『スパイ≒アカデミー』、先日新たに姿を現した新進気

つまるところ、あなたは何者? ~伏見 七尾『獄門撫子此処ニ在リ』を読んで~

 読書経験にも色々ある。その中でも自分の直感でこれは絶対に面白い、自分好みの作品だと確信して実際に読んだら予想をはるかに超える読み応えだった時以上の爽快感はそうないだろう。私が最近このような経験ができたのは『獄門撫子此処ニ在リ』だろうか。実は第17回小学館ライトノベル大賞の受賞作の中でも事前情報が出た段階で最も気になっていたのである。シンプルに見えて近代風のカタカナ混じりのタイトルと伝奇ものらしい雰囲気が琴線に触れたからだろう。それからというものの実際に本編を初見で楽しみたい