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わたしの街多摩と“よこやまの道”【エッセイ】
多摩よこやまの道
子供のころ、父とよく歩いた道。
東京都下に広がる多摩丘陵の尾根道のこと。
”よこやま”とは万葉集に出てくる横山からきたらしい。
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『赤駒を山野の中に放牧して捕らえられず、夫に多摩の横山を歩かせてしまうのだろうか』という防人の妻の心づくしの歌が万葉集にある。
奥さんが旦那さんを心配して詠んだ歌。
とにかく、長い間残っている道ってこと。
(役者さんがイメージで演じてくれた一コマを載せておきます↓)
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全長10kmの遊歩道はしっかり山の雰囲気があり、ちょっとした登山をしている気分になる。
万葉の時代に限らず、古代~中世~江戸時代に渡ってたくさんの歴史ロマンがあったこの道。
今、わたしが歩いている。
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記憶にあるのは、茶色くてずっと同じような
変わり映えのしない風景。
2024年、わたしはその街に帰ってきた。
帰ってきたと言っても、都心→調布→多摩と遠い距離ではない。
それでも、懐かしい景色なのだ。
カメラを持って、一人で歩いてみる。
野鳥の声がする。
声だけで「あ、コゲラがいるな」とわかる。
父とは長年会っていなかったけれど、一人でも自然に触れているのが落ち着くのは、父の影響かもしれない。
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遠くには富士の山がしっかりと見えている。
見えるだけで嬉しくなるのは、やはり日本人だからだろうか。
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記憶の中には、どこの道だったのか、
田んぼやカエルの声が響いていた。
自生している小さいジャガイモみたいな実を
「これは食べれるんだよ」と父から
食べさせられたりしていたっけ。
「むかご」と言うらしい。
茶色かった風景は、
今は自然豊かで色鮮やかに目に映る。
きっと、変わったのは風景じゃなくて、見ているわたしのほう。
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帰ってきたんだな…。
場所が戻っただけなのに、なんだか本来の自分に戻っていく感覚がある。
それが、どうも嬉しいのだ。
この街で楽しかった記憶なんてほとんどないのに。
きっと、生まれ育った場所には、魂の目的があるのだろう。
いま、そんな気がしている。
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これから、私はどんな「わたし」になっていくんだろう。
わたしが「わたし」を思い出していく作業。
新たな門出にわくわくする。
さぁ、出発だ!
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なりたい私
いままでは何者かに「ならなければいけない」と勝手に思っていた。
でも本当はもっと自由だったんだ。
目の前は広がっている。
何なのかわからないのに、楽しみでしかない。
この土地に来て思ったんだ。
たくさんの人たちの思いと行動があって、今この場所が安全で平和なんだと。
気付いたんだ、私たちだけの力じゃないって。
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近所にある古戦場跡。
ここはたくさんの戦があった場所でもある。
でも、今はそんなこともわからないほど、
街は栄え、家々もしっかりしている。
ご近所散歩をしていて、いくつかの寺社に掲げられた看板を見た。
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大戦より五十回忌で、ご供養とこれからの世界平和と繁栄を祈念して十三仏が造顕され各寺院に置かれていた。
これを見て、わたしはうれしかった。
うれしすぎて感動した。
言葉にするとなんだか小さいけれど、
自分が住む土地の人々と行政が、こういうことに祈りとお金を使ってくれているいうことに。
ずっと、遥昔から、願ってきた人たちがいるということ。
今もずっと、守ってくれている人たちがいるということ。
感謝しかなかった。
何者かになりたいという「何か」は特に思い浮かばないけれど、
自分ができることで、この街と人々を大切にしていける人間になりたい。
いや、大切にしよう。
そんなことを感じた一日だった。
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