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ダイアログ・イン・ザ・ダーク:暗闇のエンターテイメント体験

東京・JR山手線浜松町駅から徒歩6分ほどにある、ダイアログ・ダイバーシティ・ミュージアム「対話の森」で、ダイアログ・イン・ザ・ダークという視覚障害者にアテンドしてもらう90分のエンターテイメントに参加してみた。

Facebookで誰かの投稿を見て、なんとなくおもしろそう、目が見えない体験ができる!と思ったのがきっかけだったが、正直こんなに素晴らしい体験になるとは思わなかった。

季節によって内容が変わるらしく、今回は電車に乗ってキャンプに行く設定。

グループは参加者8人にアテンドスタッフさん1人。参加者のうち、4人は見知らぬ人でうち男性が2人。年齢層は同じくらいか?
最初にニックネームを確認し合っただけで、どんな対話ができるのか、期待と不安が入り混じる。

白杖を選び、目隠しをするのでもなく、安全のために薄暗くするのでもない、全くの真っ暗闇に入る。「メガネは要りませんよ」と言われたが、ホントにメガネが役に立たない。

怖いので、お友達と手を繋いで歩く。少し安心する。誰かと手を繋ぐのは何年ぶりだろう…? 小学生だった息子と並んで歩くとふと手を繋いできたことを思い出す。安心したかったんだろうなあ。

白杖の使い方がよくわからず、とりあえず壁に体が直接ぶつからないようにするので精一杯。それよりも、環境と接している体の部分は足の裏だけ(靴は履いているが)なので、坂になったとか、芝生が生えている?とかを敏感に感じ取る。さすがに階段はなかったが、あったらもっと怖かっただろうなあ。ここで地震が起きたら?なんてことを考えていたが、すぐにそんな考えは消えた。そんなことより、「今、ここ」の体験が重要。

少し進んで、広い場所に着いたらしい。
「みんなで円になりましょう」と言われても、姿が見えないのでどっちを向いていいかがわからない。声のする方角や大きさを確認するしかない。ここで黙っていると、自分の存在が忘れられてしまう。思わず「◯◯(私のニックネーム)、⭐︎⭐︎(隣のお友達のニックネーム)の隣にいます!」とアピールする。

動かすと音がするボールを使ってキャッチボールをする。ここで思い出す。もし、目が見えていたら、相手の名前を呼ばなくても、なんとなく目で合図して投げることができる。受ける方も、何も言わなくても転がってきたボールを取るだけでよい。
しかし、ここは真っ暗闇。受ける方が音を出して場所を教えないと、投げる方はどこに投げたらいいか全くわからないのだ。
必然的に声を出したり、手を叩いたり。こうして対話が自然発生する。

次は電車に乗る。先行のグループが先に乗っていて、「ここの席が空いているよ」と教えてくれる。でも、言葉だけではわからないのだ。体をトントンしてもらって、椅子もトントンしてもらい、「私が座れる席はここにある!」とわかる。
方角もわからない。電車の記憶を思い出して、どっちが通路でどっちが窓で…と周囲を触りながら確認してみる。

そのうちに、エンジンがかかって音で電車が動き出したのがわかる。これは普段乗り物に乗っている時と同じ感覚だ。わからないのは車窓からの景色。どこに向かっているのか…?
扇風機が付いているということで確認しに行った人もいたが、私はしばし放心状態。目が見えないと方向オンチもいいとこで、今までの私は何だったんだろう??と頭の中がぐるぐる。

電車を降りると、こんどはキャンプ場。靴を脱いでテントに入ると言う。自分の靴の詳細を覚えていないことに焦る。間違えて他人の靴を履いてしまったらなんとなく違和感を感じるはずだから大丈夫と自分で自分を安心させる。アテンドスタッフさんが、隣の人と並んで靴を脱げば大丈夫とのこと。とにかく隣の人が頼り。1人だったら何もできない。

テントに入ると、持ってきたお小遣いでおだんごと飲み物を買って食べる体験。まずはアテンドスタッフさんにお金を払うところから。300円ちょうどを持っている人はそのまま渡せばよいが、私は500円玉しか持っていない。ここでも、自分の名前と500円玉であることをアピール。無事200円が戻ってきた。
飲み物は、温かいお茶かみかんジュースが選べたので、みかんジュースをチョイスした。
ウエットティッシュが回ってきて、手を拭く。ゴミ箱が回ってきてゴミを捨てる。

おだんごはカップに入っていて、手でつまんで一口で食べる。中はみたらしのたれのようだった。外にたれがついていたら手で食べられないし、串に刺さっていたら危ないかなあ。

みかんジュースはストローが横についている紙パックだった。ストローを出したり、紙パックの上下を確認できるのは、今までの経験があってすぐわかった。難関だったのは、ストローを刺す場所がわからない‼︎
他にみかんジュースを頼んだ人に何回か刺してみたらできたと聞き、トライしてみることに。ここかな?そこかな?あれ?縁だっけ?真ん中だっけ?うろ覚えの記憶は頼りにならない。
やっと刺せた時、大きな達成感を感じた(^^)

視覚が使えないので、普段より味覚を感じられた気がする。飢えていたわけでもないのに、食べ物にありつけたありがたみを感じる。

ストローを刺すのに時間がかかったため、飲み終わるのが遅く、出発に遅れそうになった。ここでもアピールしないと気づいてもらえない。ちゃんと言葉に出して、飲み終わるまで待ってもらう。

テントから出て靴を履く。また方向がわからない。隣の人に教えてもらい、自分の靴を確認する。靴を見つけるだけで一苦労。小さな子どもになった気分。
一旦回収された白杖をアテンドスタッフさんからもらう。長さも形状もばらつきがあるのに、どれが自分のだったか全く覚えていない。記憶の曖昧さがよくわかる。

また歩く。そんなに時間が経ったとは感じられなかったが、まもなく終点。小さな円になってくださいと言われたが、大きな円より難しくないか?
アテンドスタッフさんにきれいな円になってますよと言われてもお世辞じゃないかと思ったが、ドアを開けてもらって明るくなって見たら本当に小さなきれいな円になっていた。不思議…。

元の明るい場所に戻った後、手作りの円卓で振り返り対話をする。サバイバルゲーム⁈に生き残った達成感を味わい、この感動をすぐに口に出したかった。女性陣は皆口々に感想を述べていたが、男性陣はなぜか無口…。

後からじわじわといろんな感情や気づきが湧いてくる。
視覚が使えないと空気を読むことができない。空気を読むときはいろんな感覚を使っていると思っていた。空気が読めなければ、皆フラットな関係になる。言葉を発しないと存在すら気づいてもらえない。お互いに助け合うしかない。
逆に言うと、空気を読む必要がない。自分の存在を知ってもらうために声を出し、気づいて対応してもらえたら感謝する。知らず知らずのうちに、困っている人がいたら助けてあげようという気持ちになる。だんだん心地よい空間になってくる。

いや〜、これはUSJのアトラクション以上の究極のエンターテイメントだった!

これはぜひ多くの方に、体験してもらいたい。
小学生以上、暗闇で泣き叫ばないお年頃だったらOK。体験日時を要予約。お一人様向け体験時間もあるよう。知っている人だけのグループでも、知らない人と一緒のグループでも。

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