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現象と幻想と現存在-花譜「不可解弐Q2」レビュー


バーチャルシンガー花譜の2ndワンマンライブの後編、「不可解弐Q2」が2021年3月13日に開催されました。セカンドなのに実に4度目のライブです。

Youtubeでの無料公開という事もあって、実に4万人超の同時接続者がこのライブを見届けました。Twitterでは日本と世界の両方でトレンド1位をとったようです。大きなひとつの爪痕を残せました。今回、初めて花譜ちゃんのライブを観測したという方もかなり多かったのではないかと思います。

今回のライブが無料公開となった経緯はぜひこちらをご一読ください。プロデューサーの覚悟が伺い知れます。

開幕前夜

今回も恒例の、前夜から当日にかけての「公式ファンアート」、映像クリエイターの方々のライブへの参加ツイート、ライブ直前に放映されたドキュメンタリー「VIRTUAL SINGER KAF -ある少女の可能性の物語-」、そしてまさかの新録インタビューで本番に向けての気分がどんどんと高まりました。


そしてお決まりのこの宣言の後、

19:15、開演。

第一部「観測と魔法」

このライブは前回に引き続き、現実の会場ではなくバーチャルライブハウス「PANDORA」という異空間からの中継という形をとって私たちのもとに届けられました。完全バーチャルのストリーミングライブです。

冒頭、宇宙空間に浮かぶ構造物を通り抜け進んでいく映像。「らぷらすの目」の円環、青雀を彷彿させる菱形。妖しく光る月を背景に、建物の屋上に佇む花譜。「少女降臨」の口上からライブが開始。

制服、雛鳥、隼、青雀、雛鳥黑、星鴉、夏服……。これまでのすべての「形態」の花譜が次々と現れると、明転し「神椿市」のような景色。再び遡るように宇宙空間が映し出され、画面が切り替わると、荒廃した教会に立つ「青雀」花譜ちゃん。「ここにいる」「いるよ」。そして「不可解」のタイトルバックの後、スクリーンに映し出されるモノクロームな「花譜バンド」の4名。

「今日は楽しんでいきましょう!」と、こぶしを突き上げて元気よく宣言する花譜ちゃん。「夜行バスにて」「夜が降りやむ前に」「エリカ」の3曲が軽快なバンドアレンジに乗せて流れるように一息に歌われました。ライブならではのグルーヴィなサウンドは毎回の楽しみです。

MCで「Q2とは。何でしょうか?」と問いかける花譜ちゃん。お喋りしてる間ずっと人差し指をぎゅって握ってるの可愛くないですか。「ちょっと不思議な形状」の花譜バンドの皆さん。花譜ちゃんの話に身振り手振りで応える姿が微笑ましい。

続いて、「わたしのすきなうたをうたうよ。」と、カバー曲が次々と歌われます。

「サリンジャー」は、バンドのサウンドの楽しいロックチューン。前半の疾走感から中盤のゆったりとしたテンポへの変遷、またアップテンポな後半への移り変わりを力強く歌い上げる花譜ちゃん。くるっと回る文字。背景の花も美しかったです。

「人間ビデオ」、第一部の中では最高に好きです。良すぎて痺れました。画面いっぱいに表示される迫力満点のタイポ、蠢くリリックモーション、背景との見事な融合。一曲の中で早口にまくし立てたり伸びやかに歌い上げたりする表現の多様性。がなるボイス。左右にノリノリで揺れたり人差し指を突き上げたりとロックな花譜ちゃん。最後はにっこりと両手でハートを作る花譜ちゃんに観測者の心は打ち抜かれました。

「朝焼けと熱帯魚」、美しいブルー、左右に振れ、海の底を揺蕩うようなアコースティックなサウンドと、しっとりと歌い上げる花譜ちゃんの声が耳に心地良い。「おやすみ」の仕草がキュート。

「nerve」、キレのあるVALISのダンスと対照的にゆるふわで控えめな花譜ちゃんの動きがとても「らしい」。VALISの6名もそれぞれ動きに個性があって見ていてとても楽しいです。

給水を挟んで、MCのコーナー。歌った4曲についての想い。花譜ちゃんの熱のこもったアイドル論、大変興味深く拝聴しました。

理芽おねいちゃんはみんなのおねいちゃん。毎度ふたりのやりとりがとっても尊い。語彙力−53万と−37万のふたりによる「食虫植物」。ライブならではのバンドアレンジに乗せて傾向の近い二人の声の親和性を感じます。歌い終わりには理芽ちゃんの初めてのワンマンライブ「青色の天使」……もとい、「ニューロマンス」の開催が告知されました。

「不埒な喝采」、人工歌唱ソフトウェアCeVIO AI「可不」とのコラボは、来るだろうとは予想していました。花譜ちゃんの声から生まれた、しかし異質な音楽的同位体の歌声が、花譜ちゃんの歌声と奇妙な融和をしていました。無機質な瞳で花譜ちゃんをじっと見つめる可不の姿に、可愛さと得体の知れない怖さとが同居した不思議なシンギュラリティを味わいました。

ファーストライブから恒例の「御伽噺」も今回で第四幕。ナレーションはヰ世界情緒ちゃん、劇伴音楽はsamayuzameさん。「カーニバルの選別」が近づく中、2か月近く学校を休んでいた「りめ」。空白の期間に一体何があったのでしょうか。(凍結ではない。)すれ違う「かふ」と「りめ」の想いと、ふたりの間で板挟みの「×××」。この「分岐点」の行きつく先が大変気になります。そもそも「選別」される子供たちに不穏さしかない。

学生服で歌う「景色」。キーボードのソロアレンジに乗せて歌われる壮大なバラード。まさに「グランドエンディングテーマ」です。伸びやかに響く花譜ちゃんの歌声が心にぐっときます。

「そろそろ後半戦」と宣言すると、二度目の給水タイム。アルバム『魔法』から「花女」「畢生よ」「戸惑いテレパシー」ノリ&ノリなアレンジで届けられました。

「花女」は語りかけるように歌う花譜ちゃんのポエトリーリーディングと手書き文字のリリックがばっちりハマっていました。「畢生よ」、力いっぱい歌いあげる花譜ちゃんがとても恰好良かったです。

今回のライブでは、歌声は当然ですが、前回に増して表情や体の動き、腕から指先、脚からつま先まで使ったパフォーマンスの、曲との一体感が向上しているなと感じました。全体的な成長をとても感じます。

そして恒例バンドメンバー紹介。ノリノリな花譜ちゃんの声が上ずってるのがとてもかわいい。

「最後の曲です!」「戸惑いテレパシー」を疾走感そのままに歌いきると、「ありがとう!」と一言、ライブの幕がいったん閉じられます。

第二部「Witch's World」

当然、ライブはまだまだ中盤です。むしろここからが本番でした。

冒頭、実写映像が差し挟まれます。わたしたち「観測者」目線のドラマ。妙に解像度高く我々を刺してきますね、神椿。昨今の時勢により夢を追うことも、友人と会うことも、ままならない高校生の観測者の女の子。(劇中のイラストは中学生イラストレーターさんの手によるもの。)無数に生まれる名もなき「怪物」が社会を、人々の心を喰い散らかす。「魔女」、と一言呟いたその先の物語は、次回のライブの楽しみに。

そして、特殊歌唱用形態「星鴉」に変身した花譜ちゃんによる「魔女」。ライブでソロで歌うのは久しぶりです。曲中、「電子の海を舞い踊る」らぷらすの登場にびっくり。続いて理芽ちゃんとのユニゾンの美しい「魔法」、春猿火ちゃん、ヰ世界情緒ちゃんと一緒に歌う、Vの魂への賛歌、「祭壇」。立て続けに「魔女の系譜」に連なる楽曲たちが、仲間が次々と加わる形で歌われました。登場を自然に見せるカメラワークにも感心。

第二部、神椿の魔女たちによるサバトの幕開けです。

Virtual Witch Phenomenon

黒い魔女の装束、特殊歌唱用形態「花魁鳥(エトピリカ)」に身を包み、「魔女ガールズ」改め「Virtual Witch Phenomenon(V.W.P)」の結成が宣言されました。またとんでもないものが始まった…。

ライブ初登場の幸祜ちゃんは、きちんと素顔を見せてからの変身なの「配慮…。」と思いました。5人並ぶと一番背が高いんですね、彼女。

「宣戦」。前回の(再)では理芽ちゃんとのデュエットを、今回は魔女5人のクインテットで。「私達は魔女だ、これは魔法だ。」まさに、歌詞の通りの光景が広がります。

「言霊」、前回のQ1では4人で歌われたこの曲は、幸祜ちゃんが加わることでようやく完成されました。「私たちは偽物だ」。愛よ、「言霊となって世界を救って」。タイポと歌声の相乗効果で心に訴えかけます。

聴きなれないイントロに乗って5人の口上。「魔女の系譜」の新曲、「電脳」の初披露でした。歌の途中、ステージの階段を降り始める花譜ちゃん。会場全体がバーチャルの空間ですから、そこに「壁」は初めからないのですが、衝撃でした。残りのメンバーも階段を降り、座席の椅子が格納されると、円形に並ぶ5人の魔女たち。意図を察しました。

魔女たちの自己紹介コーナー。ふわふわトークでさっきまでの歌との温度差が激しすぎる。あまりにも当然の「お情」呼びなど、幸祜ちゃんのリアクションが実に観測者サイドです。かんしょくさ。

「魔女(真)」浮かび上がる魔法陣。神椿の魔女たちによる「魔女」の歌唱です。キービジュアルを背景に、5人それぞれに異質な個性ある歌声が、お互いを邪魔することなくはっきりと保たれながら調和していました。これまでの物語の、可能性たちのひとつの集大成の観測です

私が歌を歌うのは

最後のMC。「盛りだくさん過ぎてワンマンじゃないですね。」「通算で言うとセカンドでもない!いっぱい嘘ついてますね。」と楽しそうにツッコミを入れる花譜ちゃん。「ライブの形なんて、いっぱいあったほうが楽しいと思うし。自由なんだよって思います。」まさしく、この固定概念にとらわれない変幻自在なライブ表現こそ「不可解」だと、そう思います。

昨今の大変な情勢。そのあおりを受けた無数の人々がいる中で、自身が歌うことが少しでも「意味」になると信じ、「命を懸けて歌を歌い続けます」と語る花譜ちゃん。私たちにたくさんの「ありがとう」を伝えてくれました。「あなたがいるから、私は私になれる」。これは、「そして花になる」の彼女の想いの詰まった部分。「みんなを」、「この世界を」愛していると語る花譜ちゃん。「キミは一人じゃない。だからまた、絶対、生きて生きて生きて、生きて。死なないで!また、会いましょう!」と、ライブを締めくくりました。

エンドロール

東京女子流「鼓動の秘密」アイナ・ジ・エンド「死にたい夜にかぎって」大森靖子「ノスタルジックJ-pop」の三曲のカバーに乗せてエンドロール。私は全然詳しくないのですが、いずれも「アイドル」と「アーティスト」の境界で揺れ動き、苦しみながら表現を模索してきた気鋭の3名の楽曲のようです。翻って花譜という存在について色々考えさせられますね。

神椿からのQとして、以下が告知されました。要チェックです。

Q①、「不可解弐REBUILDING」 6/11&12 @豊洲PIT 及びそのクラウドファンディング実施

Q②、「神椿市建設中。」 2021 Summer Coming soon...

Q③、ポプラ社「キミノベル」とのコラボ企画 3/18

そして前回に引き続き、謎にクオリティの高いアニメ予告。圧の強い、「つづく」。

不可解弐は、どうやらまだ終わらないようです。


「不可解弐 Q2」セットリスト

第一部「観測と魔法」
ー少女降臨ー
M1:夜行バスにて
M2:夜が降り止む前に
M3:エリカ
M4:サリンジャー(The SALOVERS カバー)
M5:人間ビデオ(ドレスコーズ カバー)
M6:朝焼けと熱帯魚 平田義久 Remix(ぼくのりりっくのぼうよみ カバー)
M7:nerve 一二三 Remix with VALIS(BiS カバー)
M8:食虫植物 with 理芽(理芽 カバー)
M9:不埒な喝采 with 可不(ポリスピカデリー カバー)
ー御伽噺第四幕ー
M10:景色
M11:花女
M12:畢生よ
M13:戸惑いテレパシー

第二部「Witch's World」
ショートドラマ「かたちを失った世界でぼくらは」
ー特殊歌唱用形態「星鴉」ー
M14:魔女
M15:魔法 feat.理芽
M16:祭壇 feat.春猿火&ヰ世界情緒
ー特殊歌唱用形態「花魁鳥」ー
M17:宣戦 V.W.P
M18:言霊 V.W.P
M19:電脳 V.W.P
M20:魔女(真)arranged by rionos V.W.P

エンドロール

鼓動の秘密(東京女子流 カバー)
死にたい夜にかぎって(アイナ・ジ・エンド カバー)
ノスタルジックJ-pop(大森靖子 カバー)

Dear Observers

さて。おそらく、ずっと活動を追ってきた観測者は今回の「現象」を「凄いライブだったね」、の一言では終わらせてしまえないでしょう。

今回のライブはどうやら観測者にとって大きな区切りのようです。出されたQの解答を、一人一人が考える必要がある。かねてからの「魔女」というテーマが、この度は前面に押し出される形で、「V.W.Pの一員としての花譜」という新たな一つの方向性が明示されました。

Twitterのタイムライン等を追っていると、活動のごく初期から彼女を追っている観測者の中には、複雑な思いを持った方々も少なくない様です。これは「感覚」の問題なので、今や50万人の観測者の中でも気持ちの共有が難しい事ではありますが。

かつて、ミステリアスで儚くて幼い、どこにでもいてどこにもいない「ひとりの少女」に惹かれ、「観測者」と名付けられたファン達は、街の風景の中に彼女を探し、年明けの活動休止に心を抉られ、初めてのライブの為に途轍もない熱量をもってCFの支援を行い、圧倒的なクオリティのライブの成功はバーチャルの音楽シーンを塗り替え、多くの新しい観測者と、「神椿として」の活動の広がりを生み出しました。

それからは新たに加わった神椿のアーティスト仲間たちと「不可解(再)」を共演する形に変わり、現在までに至ります。最近では「神椿市建設中。」というゲーム開発など、その活動の展開が多面化する神椿ですが、こうした変遷に戸惑いを抱える観測者が生まれていったことも事実でした。クリエイター気質のプロデューサーの思想の色濃く出る、ワンマンではないワンマンライブへの違和感を持つことも理解できます。(私は好きですが。)

そもそも、私たち観測者と運営者たる神椿とでは「見えているもの」は初めから異なります。私たちは画面越しに花譜ちゃんの「モンタージュのかかったある部分」しか決して知り得ませんが、神椿は彼女たちの素顔や内面と常日頃向き合いながらモノ作りをしています。

例えば、デビューにあたり花譜ちゃんの親御さんと相談して、顔出ししない「バーチャル」の形をとったこと。例えば、理芽ちゃんが途中から印象を大きく変えることになっても、よりネイティブなことば遣いになったことも、本人の活動のしやすさを尊重していることの現れだと思います。

本人「自身」の「可能性の拡張」のために「かりそめの形」を纏っているのですから、今後も彼女たちはその時に応じて絶えずその姿を変えていくし、活動の形も様々に変化していくでしょう。「変わっていくこと」はむしろ必然の宿命に感じます。

一方で、あなたの好きだった花譜もまた、大切な、確かにいまの花譜を形作るコンテクストです。しかし、その世界は「あなたのもの」であって、原初の「私と君」だけの閉じたセカイ系は既に、どうしようもない現実に向き合い成長していく少女の「生きた」物語ではなくなったのかもしれません。そのイマジナリーはどうか心の中に大切に持っておいて下さい。

花譜ちゃんは、まだ17歳の高校生です。今の彼女には一緒に歌う仲間の存在が大きいのではないでしょうか。彼女がシンガーとして独り立ちする未来の可能性はまだこれから大きく開けていますが、時間はもう少しかかるでしょう。

私個人は、「今は」彼女が神椿の魔女たちと一緒に歌を歌う時間を見守るときだと思っています。距離を置く決断をしたあなた方とも、彼女のファンとして、またいつか同じ時間を共有出来たらいいなと思います。どうか、お元気で。

「花譜」とは私たちにとって何者なのか。それぞれが原点へ再び立ち返る必要があります。これからも花譜を、あるいは仮想の魔女たちの「現象」を共有していく観測者達へ。豊洲で会いましょう。

“わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)”
宮沢賢治『春と修羅』序 より

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