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あぁ、懐かしきドバイ。その③

まえがき

20年ほど前に、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイに転勤、4年ほど住んでいた。
今でこそ日本人の旅行先、更に富裕層の移住先としてすっかり有名な町だけれど、私が赴任した頃はまだまだ馴染みが薄く、イラク戦争もあって中東自体が危険な地域、というイメージだったと思う。

とにかくこの町、開発と変化のスピードが速いので、私がいた頃からは町の景色は、すっかり変わったはず。
その変貌ぶりを見たくて、3年前に久々に旅行を企画したものの、コロナのせいでダメになった。そして円安その他コスト高。行くのは当分難しそう。

いつか実現させたいセンチメンタルジャーニーに備え、もう陳腐化しているとわかってはいても、記憶が薄れる前に頭の中を整理し、実生活に基づいたドバイ案内を書き残しておこうと思う。


前回の5、6は、以下ご参照願います。

7.ラマダン

イスラム教独特の習慣のうち、我々外国人も含め日常生活に最も影響するものが、ラマダン(断食)と言って過言ではないと思う。

年に1度訪れる断食月には、イスラム教徒(ムスリム)の義務として1ヶ月の間、日中は一切の飲食や喫煙を断ち、貧しい人に思いを馳せ、神の恵みに感謝する。
厳密には、ツバを飲み込むことすらご法度らしい。但し、さすがに子供や病人は免除とのこと。

さて、その断食月とはイスラム暦の「9番目の月」であるが、我々に馴染みのあるカレンダー上の9月、ではない。
イスラム暦は太陰暦。つまり月の満ち欠けの周期で1ヶ月が決まるので、太陽暦の普通のカレンダーとは異なり、ラマダンの時期も毎年2~3週間くらい早まっていく。
なので、7月や8月なんかに当たる年は大変。ただでさえ暑さでヘロヘロなのに、飲み食いできない時間帯が長いのだから。

飲まず食わずでは頭はボーっとするし、体も動かないので、ラマダン期間中は当然、仕事にならない。
ビジネス習慣として、この期間の営業時間はどこもほぼ「半ドン」が定着していて、町の商店、大型ショッピングモールでさえ、日中はほぼ閉店。
結局、断食を強制されない(元々その意思も能力もないけれど)我々も、否が応でも巻き込まれるのだ。
ビジネスが進まないのも困るが、最大の悩みはお昼にランチ難民になること。
いかんせん町中のレストランはどこも閉店、ファーストフード店も、テイクアウトのみ対応。スタバでコーヒーも飲めないし、ペットボトルの水を飲みながら歩くだけでも、白い目で見られる。
大型ホテルのレストランですら、複数あるうち大抵1軒しか営業しないし、断食する人への配慮で食べている姿が外から見えないよう、カーテンやついたてで仕切られていたりするので、何となく入るのが憚られる。
なので私はラマダン中に出社する時は、お昼はハンバーガー店のデリバリーを頼むか(Uber Eatsが当時あったら選択肢がもっとあったかも)、家からお弁当を持参して人目につかない席でこっそり食べていた。

夕暮れ時の帰宅ラッシュが、また大変。当時はドバイメトロなんて便利なものは無く、交通手段は車オンリーだから、郊外に向かう道路はどこも大混雑。
1分1秒でも早く家に帰って食事したいドライバーは、みんな空腹と渋滞のイライラで目が血走っている。猛スピードでぶっ飛ばすわ、クラクションの嵐で煽るわ、普段にも増しての荒っぽい運転はたいそう怖かったものである。

昼間はダメでも、日が暮れさえすれば、何をどれだけ食べてもオッケー。
ラマダン中の夜は、イフタルという特別なビュッフェを食べながら、家族や友人と夜通し語らい合う(酒は勿論ダメだけど)。
レストランでのディナーメニューも、この期間中はイフタルのみになる。
町のいたるところで「ラマダン・カリーム」の挨拶(良いラマダンを!さしずめ『謹賀新年』みたいな感じか)が交わされる。
そこかしこで裕福な方が食事を振舞う「ラマダンテント」が出店し、老若男女、外国人労働者も誰でも、そこに行けば歓迎され、無料で飲食ができる。イスラム教の「喜捨」の精神、人に施しを与え、もてなすことが美徳とされていることが、実によくわかるのである。

ラマダン=苦役のイメージとは真逆に、この期間は毎年恒例のお祭りのようなものである。
みんな空腹のストレスでさぞかし苦しんでいるどころか、あにはからんや、意外とエンジョイしているのだ。
夜にたいそう食べ過ぎて、断食月に逆に太る人も多いそうである。

そして長い1ヶ月が過ぎ、新月が観測されるとラマダンは終了、イード・アル=フィトルという、ラマダン明けお祝いの休日が3日ほど続く。

ビジネス目的での来訪はこの期間は決してお奨めできないけれど、観光旅行の面では、普段見られない町や人々の様子が見られるという意味で、逆に穴場のシーズンと言えるとも思うのである。

#行った国行ってみたい国

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