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北国ダンサー物語

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これは「オホーツ海に面する黒池町(架空の町)を舞台に繰り広げられる、元・若者たち、現・年金生活者による真剣な社交ダンスのドタバタ劇」である。      <あらすじ> 黒池高校を… もっと読む
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記事一覧

5章第4話 万事休す!

5章第4話 万事休す!

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 昨日は夕方から会場に入り、アマチュア・スタンダードの熱い戦いを観戦しました。合間に20分ほどのダンスタイムが何度かありましたが、そんなに踊っている人はいませんでした。しかし、そのスカスカのフロアが、かえって大きなプレッシャーとなりました。目立ちすぎる気がしたからです。それでもみんなは、勇気を奮い立たせてフロアに立ったのですが、膝が震えるばかりで踊り始めることさえできませんでした。

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5章第3話 幸ちゃん到着!

5章第3話 幸ちゃん到着!

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 翌日の午後、東山の幸ちゃんがホテルに到着すると、歓声が上がりました。周囲の人たちは「何事か!」「どんな有名人が来たのか!」という目で驚いたのは無理もありません。なにしろ10数名の団体が騒いでいるのですから。



寿 美: ごめんねえ、大変なお願いしちゃって!

幸 子: なんもさ。こちらこそ、お言葉に甘えてタクシーで来ちゃった。

さとし: いいってことよ。なんぼかかったって

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5章第2話 出発!

5章第2話 出発!


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 遂にブラックプールに行く日がやってきました。

 去年の新年会で居酒屋「いらっしゃい」に集まったとき、みんなはクリスマスパーティーで踊ったフォーメーションの感激に浸りながら「またあんなことをやりたい」、「できればもっと大きな舞台で」と言い出したのを受け、千葉ちゃんが一つの考えを示した所、余りにも突拍子もない話だったので、寿美ちゃんが「そんな事できる訳ないでしょ!」と怒鳴ったのは

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5章 いざブラックプールへ

5章 いざブラックプールへ

第1話 最後の練習日に!

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 新年になりました。昨年最後の練習で総ての振り付けが出来上がりましたので、1月に入ってからは音楽に合わせて通しの練習をスタートさせました。美和ちゃんと千恵子ちゃんは、新しく振りつけられたシーンを懸命に練習していますし、チャミちゃん先生は突然回ってきた男性役を完ぺきにこなそうと真剣顔です。

 通しの練習はブラックプールへ行くメンバーだけではありません。

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4章第7話 「グー」サインに溢れたホール

4章第7話 「グー」サインに溢れたホール

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 今日は12月最後の練習日です。窓の外は雪の寒い夜ですが、暖房が効いたホールで練習できるのですから、有難いことです。

 いつもの準備体操から始まりましたが、メンバーの顔は、あの日以来、暗い表情で覆われたままです。それは、美和ちゃんがお掃除おばさん役を命じられた日でした。あの日、泣き出しそうになったのは美和ちゃんだけではありません。美和ちゃんのポジションに入るよう言われた玲子

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4章第6話 12月に起きたこと

4章第6話 12月に起きたこと

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 千葉ちゃんの入院中にフォーメーションの流れは完全に固まりました。音楽も、Tony Evansの”Pennsylvania 6-5000”(ブルース)とCasa Musicaの”Chilly Cha Cha”で変更なしとしました。あとは、これまでの部分練習を組み合わせ、そこに少しだけ面白みを加えてストーリー仕立てにしたので、あとはブラックプールまでの残り半年、踊り込みするのみです

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4章第5話 千葉ちゃん戻る

4章第5話 千葉ちゃん戻る

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 手術を終えた千葉ちゃんがサークルに顔を出すと、男性郡から湧いた第一声がこれでした。

さとし: 帰って来てくれてありがとう!

加 藤: ほんとだよ、ありがとう!!



 「やっぱ、俺は好かれている」と喜ぶ気持ちで、「 お待たせ」と控えめな返事をしましたが、少し違っていたようです。



文 次: チャミちゃん先生に殺されるかと思ったよ。ほんと、助かりました!

さとし:

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4章第4話 病院では

4章第4話 病院では


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 サークルが「宿題」に取り組んでいた間の病院の様子を少し見てみましょう。実は、千葉ちゃんの入院直後から詰所では、彼が入った306号室が毎日のように話題になっていました。こんな風にです。



看護婦A:なんかさ、あの人が来てから暗かった病室が一変したわね。

看護婦B:そう。二日目くらいから千葉さんが「はあい、点眼の時間ですよ」なんて声かけててさ。そしたら、お互い口きかなかった

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4章第2話「呼吸して踊る」

4章第2話「呼吸して踊る」

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 前回は「1歩とは」を考え、それをワルツで確認する作業をしていると、あっという間に時間が来てしまいました。千葉ちゃんの入院は1週間。その間サークルは2回しかありませんから、今回で宿題を片付けなくてはなりません。

 残りの「タコ踊り」も「呼吸をして踊る」も本当にあほらしい宿題ですが、前回は少し手こずったので、サークルの中には「今日は少し用心しながらさっさと片付けちゃおう」という雰囲気

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4章第3話「タコ踊り」

4章第3話「タコ踊り」

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寿 美: あら、あら。もうこんな時間? 急いで残りをやらなくちゃね。

さとし: もう15分もないから、無理じゃない?

寿 美: なんか、「サボりたい」って聞こえるんだけど、気のせいかしら?

さとし: なーにを言ってるんですか、俺たち、そんな考え微塵もありません。なあ、みんな。

全 員: そうそう。考えてません。気のせいです、気のせいです。

寿 美: そうよね、じゃあ、「タコ

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3章第6話 ふたつのアイディア湧く

3章第6話 ふたつのアイディア湧く

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 子供と年寄りは早寝早起きが相場ですが、千葉家の二人は今日も深夜を過ぎてもまだ起きています。きっと、物忘れが過ぎて、高齢者であることも忘れているのでしょう。二人して「深夜」のことを「お昼」と言ってますしね。


寿 美: こうやってストーブをガンガン炊いているから家の中は暖かいけど、最近寒さが増してきたわね。これは流氷が近づいているからでしょ?

千 葉: そうだねー。

寿 美:

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3章第7話 ホールドはハグなり?

3章第7話 ホールドはハグなり?

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  流氷が連れてきた「しばれる」冬が去り、オホーツクの海は力強い青一色に輝いています。空気はまだ冷たいですが、もう4月の半ば。千葉大輔が妻と引っ越してきて、はや、1年が過ぎました。

 夜の公民館では、いつものように元気なレッスンの声が飛び交っています。種目はブルースですが、高齢者たちは少し動きの大きな新しいステップに四苦八苦する中、今日も熱心に見学している館長さんの笑顔がひきつるよ

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3章第8話 最初の脱落者!

3章第8話 最初の脱落者!

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 5月の初めです。今日はとても良い天気でした。そして、今夜も、先に来たサークル員たちがホールの掃除を始めています。

 殆んどのメンバーが揃ったところにヤス(内山康夫)が一人で入ってきました。どこか沈んだ様子です。


さとし: オッス! あれ、玲子ちゃんは?

ヤ ス: それが…

と、言葉を濁すヤスに突っ込みが入ります。

さとし: この歳になって、遂に逃げられたか?

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3章第9話 二人目の脱落者と金縛り解消法

3章第9話 二人目の脱落者と金縛り解消法

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 いつものように夜の公民館です。仲間たちが集まると、美和ちゃんが準備体操の前に話し始めました。

美 和: 昨日、上杉さんのご家族から電話があって、純子さんが硬膜下出血で倒れて入院したそうです。

全 員: えええー!

美 和: 大事には至らなかったみたいですが、復帰には半年以上要するみたい。純子さんは、迷惑かけられないから、フォーメーションは諦めると話してるんだって。

寿 美:

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