見出し画像

どうしたって変わる。

変わらないで。と願った物も、人も
日を越すごとに
あたりまえな顔をして変わっていく。

通い詰めていた本屋
汚れないで欲しかったお気に入りの本
生まれた時から寝静まってる
商店街の中にある中華料理屋
小学生時代の無邪気で
曇りを知らない坊主男子
瞳をキラキラさせながら夢を語る友達
好きだった人に
好きだとなんの曇りもなく言えていた自分
好きだった人の守りたいもの

年月と環境というベルトコンベヤーに乗せられて
変わって、失くなって、新しく生まれた。

悪いことじゃない。
そうわかってるつもりでも
変化が残す独特の寂しい香りに一時、
やられてしまう時がある。

特に恋愛となると
その香りは強烈で持続性も驚くほど高い。
厄介なほどに。

好きだった人のいちばん守りたいものが
私である時を知ってしまっていたから
その時の視線や話し方、寄り添い方を
知ってしまったから

全部まるまる静かに失くなって
変わっていく今を睨んだ。
まっすぐに好きでいられた
あの頃の自分も、今を愛せない自分も睨んだ。
それでも、どこかにまだ居るんじゃないかと
最後の糸が切れるまで探し続けた。

誰になんと言われても
探したい自分を責めたくはなかった。
それくらいに、素敵な人だったから。

思えば、何一つ無駄な事はない。
もういいよ。と自分がわかるまで
追いかけなければ
ずっとその香りに浸ったまま
生きていく事になっていただろうから、
前に進めないままだった。

猜疑心に塗れて変化を怖がる私をみる
彼もたぶん、苦しかったと思う。

相手だけではなく自分も
目指すものも、時間の使い方なんかも
変わってしまった中で
長い間恋人として関わる事を諦めなかった私達は
偉いぞと、よくやったと思う。

悩んで、何とかなると信じて
右往左往としてきた自分が振り返ると愛おしいし
諦めたくないと思わせてくれた相手へも
ありがとうが溢れる。

それに何より、”変わること”についての考えを
柔らかくできたのもこのお陰。

不変なんてどこにも無い事を思い知って
忘れようとしたり、悪い記憶で覆ったり
仕方のない事と割り切るしかできない時もある。

でもやっぱり思う。
変わった事を嘆いたっていい。
悲しむのは、それだけ過ごした日々が、
受け取った想いが、感じた幸せが
またここに来たいと思えた自分が
またあなたに会いたいと思えた自分が
大切だったからでしょうと。

彼が変わった事で
彼自身が受け取れた幸せを見た。
私と、ではなかったけど彼はそれでいいのだと
周りの人も、これから彼と出会う人もきっと
今の彼を求めているのだとわかった。

通い詰めていた本屋は名前と場所が変わっても
置いている本と店主さんの温かさはそのまま。

お気に入りの本を綺麗に保てなかったけれど
誰かに愛された記憶が残っている古本が好きになった。

中華料理屋は提灯に灯りが灯らなくなったけど
今ではケーキ屋さんがいい香りを漂わせ、
近所の小学生やおばあちゃん達を喜ばせている。

あの頃の坊主は、
大切な人との日々を守るために力強い目になり、
夢を夢として見れなくなった友達も
今を存分に楽しんでいる。

どうしたって変わるけど
変わった先にあるのは、寂しさだけじゃない。
誰かの大切にしていた思いと記憶と
新しいそれぞれの道と出会いだった。

これから来る何かの変化を恐れず
変わったことが嘆かれるくらい
大切だったと思える日々を送れたらいい。

どんと来いだ。



















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?