農業の現状と問題点を考える。その1:「従事者の減少」
これまで、人生100年時代を豊かなものにするために、農業の持つポテンシャルについてお伝えしてきました。(ぜひ、マガジン『セカンドライフを楽しもう。』をご覧ください。)ところが、残念ながら農業の現状は、そのポテンシャルを発揮するどころか、苦境に立っています。これから4回にわたって、データとともに苦境の現状と問題点を整理していきます。農業について、やや悲観的に映るかも知れませんが、解決と発展に向けての情報整理ですのでお付き合い願えれば幸いです。
まずは、農林水産省による調査データをもとに、日本の農業の現状について、いくつかの面から俯瞰してみましょう。
下がり続ける日本の食料自給率。
日本の食品自給率は、1965年から2020年の約50年の間にカロリーベースで約半分の38%に下落してしまいました。日本の食料自給率は主要先進国の中でも最低の水準です。食料の海外依存度が高いと、輸入元の国が不作になったり、戦争などの情勢によって輸入ができなくなったりすると途端に食料不足になる上、平時でも国際的な交渉力が低下してしまいます。
ちなみに主な先進国の食料自給率は、カナダは264%、オーストラリア224%、アメリカ130%、フランス127%(2013年度、農水省試算)などで、100%を超えています。
なぜ日本人は、お米を食べなくなったのか?
日本の食料自給率が急落してしまったのは、急激な食生活の変化が原因と考えられています。日本人の主食といえば米ですが、経済のグローバル化の進行とともに食生活が欧米化してきました。コメの消費が減る一方、肉やパンの需要が急激に増えていったのです。
余談ですが昔にさかのぼること江戸時代、各藩の力を示すのに石高がありました。「加賀100万石」が有名ですが、1石は1年間に一人が消費するお米、約150㎏の収穫量を表していました。現在では、1年間に一人が消費するお米の平均は約59㎏に減っていて、鎖国が解かれて以降の食生活の急変を物語っています。
農業の基幹産業は稲作だが、収益は・・・。
日本の農業は、米作りを中心に受け継がれてきました。現在でも、米作りをメインとする農家は56.2%を占めています。ところが、金額ではお米は農業全体の18.7%にしかなっていません。つまり、過半数の農家が儲からないお米を作り続けているという状態です。
農水省は、補助金を出して麦などへの転作を推奨するなど農業の構造改革を進めていますが、転作した作物の収益性が低いため補助金頼みに陥ったりして、稲作偏重の解決策になっているとは言えないのが現状なのです。
農業に従事する人が、ハイペースで減っている!
農林水産省の累年統計によると、日本の基幹的農業従事者の総数は、1985年からの約30年間でおよそ半減しています。基幹的農業従事者とは、農業に主として従事した世帯員(農業就業人口)のうち、調査期日前1年間の普段の主な状態が「主に自営農業」の者、つまり”主に農業で生計をたてている人”を言います。ここ近年、カロリーベースの食料自給率や国民一人当たりの米消費量は低めながら横ばいとなっていますが、農業従事者の数はハイペースで低下を続けていることに注目すべきです。
農業従事者の世代分布データからは、サラリーマンの現役世代にあたる59歳以下の減少幅が非常に大きく、1985年からの約30年間で約1/6に減少していることが分かります。このことは、家計を支え家族を養っていく職業としては、農業は選ばれなくなっていることを示しています。農業をするにしても主な収入源として他の職業に就いており、多くの場合、農業は副業としてしか維持・継続できなくなっています。この傾向はこれからも続きそうで、人生100年時代にむけて農業は大きなポテンシャルがあるのにかかわらず、逆にその衰退が非常に懸念される状況なのです。
農業を取り巻くネガティブサイクル
農業の衰退は、大きなネガティブサイクルを生んでしまいます。お米を中心に回る日本の農業ですが、
●日本人のお米の消費量が減る。⇒ ●お米の価格は、物価水準に見合うほど上がらない。⇒ ●所得が低いため若い農業従事者が減る。⇒ ●お米の生産量と食料自給率が下がる。⇒ ●海外の安い食料に依存し、お米離れがさらに進む。
この大きなネガティブサイクルによって、様々な悪影響があります。特にその影響は、食料の自給といった大切なベース価値、さらには前号までお伝えしてきた”人生100年時代を豊かなものにするポテンシャル”が失われることに及ぶのです。
このネガティブサイクルを止めるには、日本に暮らす人みんなで想像力を働かせ、農業と食生活、購買行動を見つめ直すことが必要なのでしょう。
以上、Vo.2-1『農業の現状と問題点を考える。その1:「従事者の減少」』
*次回は、その2:「高齢化」をお伝えします。
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