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人生100年時代へ。農業のポテンシャル⑤「悠々自適」

農業は、なぜ”悠々自適”な職業の代表なのでしょう?
 サラリーマンが日々のストレスに苛まれ、「老後は、農業でもやって悠々自適にくらしたい」という現実逃避に近いセリフを漏らすのを、一度ならず聞いたことがあるでしょう。多くの人が、“悠々自適の象徴=農業”といったイメージを持っていると言って間違いはありません。「実際には、そんなに甘いものではない」と農業従事者に叱られかねませんが、なぜ農業は“悠々自適” といったイメージが持たれ、若干の憧れを抱かれるのかを考えてみましょう。

サラリーマンにも、”時間の余裕”増えましたが・・。
 近年の働き方改革、さらにはコロナ禍によるリモートワークの広がりで、多くの方が「自由時間が増えた」と感じています。私も昨年いっぱい(2020年)まで、サラリーマンをしており、働き方改革の大号令のもと残業規制とコロナ禍で出社規制を体験し、通勤時間の往復2時間を含めて自由に裁量できる時間が大幅に増えたことを実感しました。
 リモートワークについては、業種や職種、役職によって導入の頻度に違いこそありますが、2週~月1度程度と少ない導入を体験している人も、ほぼ毎日リモートワークをしている人と大差なく、約4割が「自由な時間が増えた」と感じています。

リモートワーク頻度

 ”悠々”とはいえるが、”自適”とは言い難い実態も。
 サラリーマンにも”悠々”と仕事がしやすい自由な時間が増えました。ところが、「心が豊かになった」とは言えない面もあります。リモートワークの広がりに伴って、精神的な不調を訴える人が増えていると厚生労働省からガイドラインが出されたり、民間のアンケート調査からも不安や悩みが読み取れます。職場が自宅のため「仕事と仕事以外の切り分けが難しい」、自由時間が増えたはずが逆に「長時間労働になりやすい」といった声が多く上がっているのです。
 物理的な自由時間が増えましたが、PCやモバイルで常に管理されているような息苦しさを感じている人が、2割以上もいる実態がアンケート調査からも見て取れるのです。「パソコンでの会社のシステムへのアクセス・ログをとっているため、自宅でも見張られている気がする。」「罪悪感やあせりを感じて、それが強くなってきた。」「二十四時間職場にいるように感じる」そして体調が悪化したという人も・・。ついには「テレワークうつ」という言葉も聞かれ始めました。残念ながら、これでは自分らしい仕事の仕方、すなわち”自適”とは言い難いでしょう。

リモートワークの不安

”悠々自適”の本質は、自己管理&自由裁量できること。
 悠々自適な心豊かな生活を確立するには、”悠々”を意味するところの自由時間の多さだけでなく、”自適”つまり自分らしい仕事を自分が自由に考えられる自己管理と自由裁量の権利を、手にする必要があります。この点について、農業のメリットを考えてみましょう。
 農業の従事者の中でも、老後すなわちサラリーマンを定年してから就農した多くの人は、個人事業主として家族経営で農業を営んでいます。サラリーマンで言うところの上司はいないため、日々誰かに命令されることはありません。また、取引先の厳しい注文や細やかなサービス要求に応じることもなく、気を使う一番の相手はお天道様です。何時から何時まで働くか、就業規則に縛られることなく自分で自由に決められます。「農業は”悠々自適”でいいなぁ」という言葉には、組織の管理や束縛から解放されて「自分のビジョンや身の丈にあった自由な経営ができる」という経営者になることへの憧れを含んでいるのです。

農業は、いくつになっても起業できる!
 では、農業(農林漁業)分野に対して、何歳くらいで起業しているのかを、他の産業分野と比較しながら見てみましょう。建設業は、26~49歳をピークに高齢になるほど減少。運輸業は50代がピークであり、情報通信業は26~39歳の若い層が多く年齢が上がるにつれて減少します。それらに比べて、農業は40歳以上で増え続け、特に60歳以上の高齢者になってから起業する人が非常に多いという特徴があります。つまり農業は、何歳になっても起業でき、経営者として”悠々自適”な生活づくりができる職業なのです。

年齢別起業

農業には、”悠々自適”な地域環境をつくる多面的機能があります。
 さらに、農業には「多面的機能」と呼ばれる地域環境をより快適に守るという役割を果たしています。主な機能は、次の図ようなものです。

多面的機能2

 中でも、農村の景観を保全する機能、癒しや安らぎをもたらす機能、伝統文化を継承する機能は農業の特長として、心豊かな”悠々自適”なくらしを地域環境として育むといった役割を果たしています。

多面的機能

 以上のように、サラリーマンが「悠々自適に、農業をやりたい」という願望は、就農実態にもフィットしています。人生100年時代に向けて「セカンドライフを自分らしく心豊かなものにしたい」というビジョンを実現するためには、農業は有望な分野と言えるのです。

以上、Vo.1-5『農業のポテンシャル⑤:悠々自適』
*次回は、農業の現状と問題点を考える。その1:「従事者の減少」
 をお伝えします。
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