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農業の現状と問題点を考える。その3:「耕作放棄地」

減少を続ける日本の耕作地。
 農業と農地には食料を生産するだけでなく、「多面的機能」という多くの機能を持っています。例えば、うるおいのある景観をつくり出す”景観創出機能”や、いい水や空気を守る”環境保全機能”など。農業従事者が減少する一方で、それらの多面的機能を担う耕作地はどうなっているのでしょうか。
 農水省の統計によると、農地面積は宅地への転用や荒廃農地の発生などによって、農地面積が最大であった昭和36年に比べて約162万ヘクタールの農地が減少しました。ここ約50年で、日本の耕地面積は3/4に減ってしまったことになります。

耕作放棄地1

減少した耕作面積の約1/4が「耕作放棄地」、つまり荒地に。
 減少した農地面積のうち宅地等へ転用された場合は、都市化など地域の発展につながるでしょう。しかしながら、問題は「耕作放棄地」になってしまうケースです。農業・農地が創り出す”うるおいある豊かな景観”、”自然環境の保全”、”地域文化やふれあい”、”伝統文化の伝承”といった多面的機能が失われ、日本の国土が荒れていくことが、強く危惧される状況です。

耕作放棄地3

世界と比べて少ない農地。日本にとって貴重なはずですが・・。
 
日本の平野の面積は国土の約25%で、農地となるとわずか13.5%です。国民一人当たりの農地面積において日本は、イギリスの4割以下、フランスの1約1/9、アメリカの約1/16しかありません。日本は豊かな田畑に囲まれて暮らしている地域が多いようにイメージしていますが、実は世界的に見て農地の非常に少ない国であり、豊かさをもたらしてくれる農地は貴重な存在と言えるのです。

耕作放棄地4

なぜ貴重な農地が、「農作放棄地」になっているのでしょうか?
 荒廃農地になった原因に注目すると、その理由で最も多いのが「高齢化・労働力不足」です。

耕作放棄地2

 農水省の指導では、「農地の集約化」や「経営の大規模化」の支援を推進することで農地の減少を抑えようとしていますが、傾斜地など自然条件が悪いケースや収益性の問題で、期待とはうらはらに農地の減少と耕作放棄地の増加が止まらないのです。高齢化で活力が低下していては農地を集約化するような大胆な農業経営の改善は行われず、労働力が不足している状態では大規模化などできるはずがありません。残念ながら、国の農地維持への支援策よりも、高齢化による離農と若い層の就農の減少の影響の方が、勝っているのが現状なのです。

農地という財産を未来へ、どのように継承していくかを考えたい。
 
「耕作放棄地」は過疎の田舎だけの問題ではありません。「急激な宅地化」による農地の減少問題もあります。私の実家は兵庫県で戦前から農業を営んできましたが、農地が市街化区域に指定され、固定資産税が宅地並みに高くなるに従って、農地を徐々に売却して市街化調整区域に買い直してきた経緯があります。実家の例のごとく、市街化区域では固定資産税が高くなって農業では採算がとれなくなった農家が多いと聞いています。高値で売却できたり、賃貸住宅などで土地活用できた農家はラッキーですが、バブル崩壊以降はそうはいきません。景気の低迷で農地を売却しようにも価格は低迷し、少子化で賃貸住宅に転換しても十分な家賃が得られそうにないと悩む農家が多くいます。住宅の間に見られる、耕作されない空地のような農地には、そういった背景があるのです。

耕作放棄地5

 こういった状況を考慮して、これまで農地を「宅地にすべきもの」としてきた市街化区域ですが、平成28年に閣議決定された都市農業振興基本計画では、農地を「あるべきもの」と方向転換し、宅地と農地のバランスのよい共存を目指す趣旨がうたわれています。宅地化一辺倒だった都市計画においても、ようやく農地の価値が認められ始めたようです。
 農地は、収益性だけでは測れない多面的機能、すなわち様々な社会的な価値があります。私も父母から農業を承継する一人ですが、「セカンドライフを豊かにする」という私利の向こうに「人生100年時代にむけて、農地という貴重な財産を未来に受け継ぐ」という公利を心の片隅において、頑張っていきたいと考えています。

以上、Vo.2-3『農業の現状と問題点を考える。その3:「耕作放棄地」』
*次回は、その4:「若手の就農支援」をお伝えします。
#セカンドライフ , #農業 , #人生100年時代 , #幸福

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