Designing Human Technology 10.0
トレント(イタリア)で実施された
参加型デザインの博士課程セミナーDHT10.0に行ってきた
トレントに行ってきた
毎年5-6月に実施されるDesigning Human Technology (DTH)博士セミナー。参加型デザインに関心のある博士課程学生20名余りをEU圏から集めて合宿形式で実施される。3日間のセミナーは、学生と参加型デザインの研究者が小さなグループを構成し、互いに意見を言い合う相互扶助の研究会だ。今年で11年目だが、コロナで一度キャンセルされているので、10回目(DHT10.0)となる。私自身の参加は、今回で3回目。いずれも博士課程の学生としてではなく、ファカルティとしての参加である。
こだわりロケーション
ロケーションは、EU圏内の山奥やら島やら人里離れた場所で実施されることとなっていて、講義や議論の時間以外は、皆で食事の準備をしたり、近隣を散歩したりしながら過ごす。北欧には「研究室」という形式があまりなく、同じ関心を持った人たちが欧州圏各地から集まるこのような形の研究合宿が多々実施される。基本、共通語は英語で、テーマによって集まり、私は以前に北欧のInformation Systemの合宿(IRIS)にも参加したことがある。合宿によっては、街中や大学キャンパスで行われることもあるが、DHTの場合は、「人里離れた場所」である。
自然豊かなロケーションで・・・
昨年・今年とロケーションは同じでイタリア北部山岳部(Trento)だったのだが、山奥であるゆえ、合宿所の中ではネットワークが繋がらず、セッション中に邪念を取り払うのに役立つ(かもしれない)。
参加しているファカルティは、事前にメールの自動返信を設定している人が多く「ネットワークがつながりにくいところにいるので、返事は1週間後ね」などというセットアップをしていた。そうすればよかったと思いつつも、終わったことはしょうがない。
実際のところ、多少対応したが、ネットワークが悪すぎて、中途半端に送られてしまったりと、街に戻ってきてからの返信の催促メールが山のように流れ込んできた。
正直、今回は1週間前に目処が立っていたはずのカンファレンス・タスクが遅延しており、ネットワークが繋がらないことでチェアの皆さんに大変迷惑をかけたし、かなりのストレスになった。このような合宿に参加するときには、3日間集中できるような環境を整えないと効果が半減する。
特徴:少人数のセミナー形式
欧州特に北欧発のセミナーとして特徴的だと思うのは、小規模の人数によるセミナー形式であること、一方的な講義があるのではなく、相互に学び合う点だ。これは日本の研究室の研究会に近い。私は、長年相互に学び合える環境に飢えていることもあって、ファカルティの身ではあるけれども、いろんなインプットがあり、とても充実した3日間になった。
今回は、ファカルティをいれて合計24人の参加者で、ちょっと多いかもしれないぐらいであるが、ファカルティと博士課程学生の人数のバランスはそれなりに良かった。
準備は必須
参加する博士課程の学生は、指定されたフォーマットに基づいて7−10枚程度のポジションペーパーを事前に提出する。そのポジションペーパーに基づいてチーム分けがされる。事前にそれぞれがチームメンバーの執筆物を全て読み、さらに指定されたペーパーに対しては、具体的な講評と批判、議論を提供するのディスカッサントとして、1時間程度のセッションを準備してセミナーに挑む。
今回は、7人程度の3グループ(5人の博士学生、2人のファカルティ)に分かれたので、1グループの執筆物は5枚で、博士課程の参加者は、1日弱の準備が必要だったと思う。
3日のプログラム
3日のプログラムでは、1日2回の1時間半のファカルティからの講義、2回のフィードバックセッションがあり、同じ構成で2日半の間続く。最後の日の後半は、講評やまとめの時間に使われた。セッションの合間は30分程度の休憩や昼食の時間が挟まっていて、頭の切り替えや整理をするにも良い時間だった。
私は最近関心のあるParticipatory Design In Asia、つまり、アジアひいては日本でいかに参加型デザインを実施するのか、どのようなチャレンジや可能性があるのかを検討する議論を提供した。
DHTだからこそ
個人的に面白いと思わされるのは、同じ欧州で同じ参加型デザインに関心を持っている人たちが集まること、そんな共通のベースがありながらも、それぞれのアプローチや問題意識を抱えているために新しい視点をもらえることだろうか。小さなグループなので名前は完全に覚えられるし、それぞれの関心事や課題なんかも把握できるから、即席だけれども、強い紐帯のコミュニティが生まれる。
ドイツに行く時、フィンランドに行く時、イタリアの別の地域に行く時、きっと声をかけて会いに行くんだろうなと思えるぐらい仲良くなれるので、きっとそのうち欧州ファンドを取りに行こうということになったら、お互いに声を掛け合えるようもにもなるんだろうと思う。博士課程の時期にそんなネットワークができる学生たちは恵まれている。
ちなみに、アジア人は私を含めて4人。英国での博士課程学生の中国人、フィンランドの博士課程のインド人とスリランカ人だ。まぁ当然と言えば、当然なのだが、日本人は私だけ。来年こそは、日本の関係者・関心のある博士課程の方達にも呼びかけして、参加して欲しいという野望を抱えつつ、振り返ってみました。
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