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『骨太の方針』徹底解説~リスキリングは企業から個人へ、失業給付はどうなる?4つのポイントを解説

岸田内閣が2022年から打ち出している「リスキリング」。国を挙げて、デジタル領域への労働力移行を推奨し、もはやリスキリングは国策となりました。2023年の骨太の方針にてリスキリングが取り上げられましたので、本日はこちらの内容を詳しく解説します。これからリスキリングを始めようとしている方、どのような制度があるのか知りたい方、企業担当者としてリスキリングを人事施策に導入したいという方、ぜひご覧下さい。前半は骨太の方針に関する解説、後半はリスキリングの始め方について、と2回に分けて書いていきたいと思います。

骨太の方針とは

毎年6月頃に発表される「骨太の方針」とは、政府の経済財政政策の基本方針を定めた文書で、年末の予算編成に向けた国の政策方針を示すものです。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」と言います。これは、政策作りの起点となり、年末の予算編成の方向性を決めるものととして大きな意味を持ちます。

骨太の方針2022年では何を言っていたか?

諸外国に比べて低い、人への投資の重要性を説き、デジタル分野への労働力移行、学び直しについて触れていたのが昨年です。骨太の方針2022では、まだリスキリングという言葉は限定的な使われ方をしており、学び直し、リカレント教育の概念で記載されています。

デジタル化や脱炭素化という大きな変革の波の中、人口減少に伴う労働力不足にも直面する我が国において、創造性を発揮して付加価値を生み出していく原動力は「人」である。自律的な経済成長の実現には、民間投資を喚起して生産性を向上することで収益・所得を大きく増やすだけでなく、「人への投資」を拡大することにより、次なる成長の機会を生み出すことが不可欠である。「人への投資」は、新しい資本主義に向けて計画的な重点投資を行う科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXに共通する基盤への中核的な投資であるとも言える。

「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」内閣府

2022年10月には、岸田首相が所信表明演説で、個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じると表明し、大きな話題となりました。日本を支えてきた年功序列的な職能給からグローバル競争力を見据えたジョブ型の職務給への移行、リスキリングへの支援を打ち出し、「企業間、産業間での労働移動の円滑化に向けた指針を来年6月までに取りまとめる」と表明しており、2023年6月にこれが反映されることになります。


ポイント①「三位一体の労働市場改革」は賃上げを実現する仕組み

一人一人が自らのキャリアを選択する時代となってきた中、職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自らの意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要であり、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにすることが急務である。
(中略)
「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」という「三位一体の労働市場改革」
を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていく。

「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)内閣府

日本は長い間(特に失われた20年以降)、賃金上昇率が低く、グローバルに見ても、給与が上がらない国でした。特に日本の製造業は、従業員がその企業の中でこそ活きるスキル(”企業特殊的資本”といいます)を習得し、終身雇用の中で経験者を重んじる人材活用モデルを取ってきました。

今後は、

  1. 【個人】の能力開発支援

  2. 【企業】がスキルで人材の価値を図るための仕組み

  3. 【市場】で労働力が移動する

という三位一体で雇用システムを転換していく。海外のように、人材流動化を推進することで、人材マーケットが機能し、市場価値のあるスキルを持った人は高い報酬が望めるというわけです。そして、リスキリングは労働者がよいよい仕事環境に就くために自らの意志で主体的に進めるものと明記されています。

ポイント②リスキリングへの支援は企業から個人へ

現在、企業経由が中心となっている在職者への学び直し支援策について、5年以内を目途に、効果を検証しつつ、過半が個人経由での給付が可能となるよう、個人への直接支援を拡充する。その際、教育訓練給付の拡充、教育訓練中の生活を支えるための給付や融資制度の創設について検討する。

「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)内閣府

現在、リスキリングは企業から提供されるプログラムに対して、従業員がそれを受講し、一定の基準を満たすと、企業が補助金や助成金を受け取ることができる仕組みになっています。具体的には、DXリスキリング助成金(東京都)や人材開発支援助成金などが該当します。一方で、個人が直接受け取ることができる支援は、教育訓練給付金が代表的ですが、まだ多くの選択肢があるとは言えません。
今後はより個人に直接給付ができるように、財源などを検討するということです。会社に制度がない、学びたい内容がないなど、自費でリスキリングを考えている方には朗報ですね。

ポイント③職務給導入が進んでいく

「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」については、職務給(ジョブ型人事)の日本企業の人材確保の上での目的、人材の配置・育成・評価方法、リ・スキリングの方法、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係などについて事例を整理し、個々の企業が制度、導入を行うために参考となるよう、中小・小規模企業の導入事例も含めて、年内に事例集を取りまとめる。

「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)内閣府

こちらは、現職で人事の仕事をされている方は、必ず押さえておくべきトレンドです。過去にも、日立製作所や富士通などがジョブ型に移行した話がありましたが、ついに国策として本格導入が言及されるようになりました。

その背景は、日本企業の国際競争力を上げて、賃上げのできる健全な体質を作ること。人事の皆さんは、企業規模を問わず、遅かれ早かれ経営からジョブ型への対応を求められる日が来ます(むしろ、戦略人事の視点では、人事側から提案する必要があります)ので、しっかりと情報収集をしておいて下さい。具体的には、全ての仕事のジョブディスクリプションを作成することになります。そのためには従業員一人ひとりのスキルが可視化されていることが必要で、職務分析によりその仕事に必要となるスキルや経験を明文化する必要があります。等級の決定、賃金との紐づけ、人材育成との連動など、長期の取り組みになることは必至です。同業他社の事例収集や、それを実現するためのHRテックサービスなどを調べておくとよいでしょう。

ポイント④自己都合の失業給付、今より早く受け取り可能に

「成長分野への労働移動の円滑化」については、失業給付制度において、自己都合による離職の場合に失業給付を受給できない期間に関し、失業給付の申請前にリ・スキリングに取り組んでいた場合などについて会社都合の離職の場合と同じ扱いにするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。また、自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しに向けた「モデル就業規則」の改正や退職所得課税制度の見直しを行う。

「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)内閣府

離職期間のない転職をされている方には、馴染みが薄いかもしれませんが、「労働者が失業した場合及び雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に、必要な給付を行うとともに、その生活及び雇用の安定を図るための給付」が失業給付です。現在、その給付を受けるためには、離職理由が会社都合か、自己都合かによって、支給開始期間が異なっています。

現行制度では、自己都合退職の場合、失業給付受給開始まで2ヶ月+7日間を要す

キャリアアップや給与アップを目的に転職する人は、「自己都合退職」であり、現行制度では、失業給付の受給まで2ヶ月+7日間を要します。これを、失業給付申請前に、リスキリングに取り組んでいた場合、会社都合退職と同様に扱い、7日間の待期期間を経てすぐに受け取れるようにする方向で進んでいます。これにより、キャリア自律に基づく従業員側からの離職があった場合、今までよりも生活保障が充実し不安を感じることなく仕事を探すことができます。したがって、転職や労働力の移行を積極的に促す仕組みになると言えます。

次回は、リスキリングをこれからはじめるなら、どのような視点で進めていくとよいかについて、考えてみたいと思います!

Happiness insight HP

Happiness insightでは、企業のリスキリング施策立案や、自律的なキャリア形成の支援、個人のリスキリング相談に乗っています。こちらからお問合せ下さい。


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