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八方ブサイク マネジメント

気ままに現れ、かわいい顔して、おいしいもの貰って、ニャーと鳴いたら、去っていくネコ。

また次の家でも、かわいい顔して、おいしいものもらって、ニャーと鳴いて…

「他のところでも同じことしてんだろうな」と思いつつも、ついついかわいがってしまいます。

「かわいい」はネコが生き抜くために進化の過程で身に付けた才能なのでしょう。

人間の赤ちゃんも同じです。一人では何もできないし、訳もわからず大泣きするけど、あの3頭身ボディで微笑む顔を見たくて、大人たちは懸命にご機嫌をとります。

もし、赤ちゃんが生まれつきオジサンの容姿だったなら、おそらくそうはいかないでしょう。オジサン好きなママやパパばかりなら心配ありませんが。


僕はどちらかというとイヌ派です。でもネコに冷たくされると可愛がって振り向かせようとしてしまいます。まさにネコの思うツボ。


八方美人の誘惑

リーダーやマネージャー(以下リーダー)は、メンバーからの評価が気になります。それは当然です。メンバーがリーダーの指示に従って力を発揮しないことには、チームとしての目標達成はないのだから。


しかし、リーダーの思考や行動の基準が「メンバーに気に入られたい」になると話は変わってしまいます。

メンバーの力を結集してチームの目標を達成することがリーダーの役割なのに、いつの間にかメンバーから気に入られることが目的になっていませんか?


誰だって人から嫌われたくないし、いい人だと思われたい。


でも、あなたはネコや赤ちゃんではないのです。赤ちゃんの進化系ではありますが。


赤ちゃんの進化系のあなたのベース(基本)は「かわいい」。ただ赤ちゃんの八方美人はわざとではない。感情のまま素直に生きていたら、周りのみんなが勝手にかわいがってくれただけ。

(赤ちゃんの頃に、「よし、ここで泣こう」「今だ、笑おう」としてた人はいないですよね?)

赤ちゃんは、かわいがってもらうために行動しているのではなく、自分の中の快・不快のフィルターに従ってただ生きているだけ。

赤ちゃんは大人になる過程で学習して、「こうしたらかわいがってもらえる」を知ってしまう。だから大人は「かわいがってもらうために」泣いたり、笑ったりできるようになるのです。


さすがにマネジメントにおいて、泣いたり笑ったりでメンバーの気を引こうとする人はほとんどいないとは思いますが、相手に気に入られるための言葉や行動を選択する人はたくさんいます。

だって、みんなに気にいられたいもの!


八方美人のリーダーは好かれない

誤解のないように最初に言っておきます。

ネコみたいに誰からも好かれる人いるじゃん!っていうご意見があると思いますが、それは天然の八方美人です。つまり、赤ちゃんと同じように自分の快・不快を素直に表現できる人で、気に入られることを目的にした八方美人とは全くの別物です。天然の八方美人は赤ちゃん並みに好かれます。すごい才能です。

好かれないのは、人工的な八方美人。


高齢者施設に新しいお客さまの紹介がありました。その方に関する情報はまだ少ないのですが、標準以上に、ケアの手間がかかりそうな印象です。受け入れ可能なお部屋と人員数はあります。


営業担当、介護士、それぞれからリーダーへ話がありました。

営業担当「今、この方を逃すと他にはいないし、お客さまもここを気に入ってくれているから、大変だけど何とか受け入れてほしい」

介護士「そんな大変な人受け入れたら、私たちもう手が回りません。お客さまを選ぶ余裕がないのはわかるけど、今回は断ってほしい」


あなたがリーダーならば、まず最初にどのような返答をしますか?


営業担当へ「せっかくきた新規のお客さまだから、大変かもしれないけど、なんとか受け入れるよ!」

介護士へ「そうだね。みんな精一杯がんばっているのに、そのうえ大変な方が来たら辛いよね。みんなに辞められては困るし、ここは断る方向で話をすすめよう!」

営業担当、介護士ともに、満足気に帰っていきました。


双方にいい顔をして、八方美人を振りまきましたが、こうなると早くも手詰まり。八方塞がりです。


相反する両方の主張に同意しただけでなく、選択の決定権を一人で抱えることになったリーダーは、最終的に必ずどちらかの信頼を失うことになります。

受け入れた場合には、介護士から「断るって言ったのに騙された」

断った場合には、営業担当から「受け入れるって言ったのに騙された」と。


人の感情は、ネガティブな時の方が針の振りが大きくなります。

<このケースで入居を受けれる決断をした場合>

営業担当の信用(+3ポイント)

介護士の信用(ー5ポイント)

合計(ー2ポイント)

入居を断った場合はその逆です。


八方美人マネジメントは常に合計ポイントがマイナスになるのです。

日々の選択と決断の中で、八方美人を繰り返していくと、どんどん信用のマイナスポイントが溜まっていき、結果的に不信感の塊に押し潰されることになります。


八方ブサイク マネジメント

このケースで大事にしたいのは、合意形成の過程です。

八方美人マネジメントでは、「俺に任せとけ」的な力強さを感じますが、結果的に信用負債(マイナスポイント)が残ってしまいました。


実際、リーダーが強権的にリーダーシップを発揮しても良い場面もあります。

ただし、それができるのは信用残高が十分に残っている場合のみ。先に述べたように、この方法は必ず合計で信用ポイントがマイナスになるからです。信用残高の少ないリーダが使うと、信用口座が破産する恐れもあります。

重要かつ緊急な事案で、信用ポイントを失ってでも決断しなければならない場合のみに発動するのが良いでしょう。


マネジメントにおける意思決定は、どちらも正解と言えるような場面の連続です。

どちらも正解、どちらも不正解というチームの問題は、チームで答えを出すのが鉄則です。男気(いい女っぷり)を見せるために、一人で抱えてはいけません。


そこで僕が提唱するのが八方ブサイクマネジメントです。

先ほどの例の場合、

営業担当への返答「確かに逃したくないお客さまだね。けれど少し大変なケースで、介護士が受け入れられるか心配だから、介護士とも相談して決めましょう」

介護士への返答「確かに大変そうだね。ただ、これまでの営業担当とお客さまとの経緯もあるだろうし、もう少し整理して営業担当とも一緒に考えよう。」

全然カッコよくないですよね。どちらかというと頼りない。


次に両方へこう提案します。

「実際に、介護士と一緒に直接お客さまに会ってみて、今の生活の状況や身体の状態、希望などを聞く機会を作ろう。その上で、僕たちがそのニーズに応えられるか判断しようよ。大丈夫なら受け入れるし、やはり難しいならばその理由を伝えてお断りしたらいい」


八方美人マネジメントとの違い

双方に相手方の主張を、リーダーが自分の言葉で伝える

リーダーによる決定ではなく、合意による決定を目指す(ただし最終決定と結果責任はリーダーがもつ覚悟を持つ)


先ほどの例で、八方ブサイクマネジメントを行った時の信用ポイントの増減はこちらです。


<入居を受け入れる決断をした場合>

営業担当の信用(+1ポイント) 合意過程に関わったボーナス(+1)

介護士の信用(ー1ポイント) 合意過程に関わったボーナス(+1)

合計(+1ポイント)


双方合意に基づく結論なので、信用度の増減は小さくなります。加えて、合意過程に関わった(決定権の一部を任せてもらえた)という信用ボーナスがつきます。

一見、頼りなさそうなリーダーですが、結果的には信用ポイントを貯めることができました。


さらに、大切なのはここから。


八方ブサイクは信用される

「八方美人」って褒め言葉としては、あまり使わないですよね?

「誰にでもいい顔しやがって」

「きっと気に入られようと、どこでも調子のいいこと言ってるんでしょ」と。


あ、天然の八方美人は好かれます(繰り返し)


一方、八方ブサイクは信用されます。

Aさんに対し「Aさんは□□と思うんだね。Bさんの立場で考えると〇〇と感じるのだと思うよ。両方の立場で考えてみない?」

Bさんに対し「Bさんは〇〇だと考えるんだね。Aさんは□□と考えているんじゃないかな。双方の意見を合わせて最善の解決策を一緒に探そう」

本人(相手)のいないところで、相手の考えを尊重する。

意見の言いっぱなしを許さず、意思決定の過程に巻き込む。


実は、八方ブサイクマネジメントは、「時々」やっても効果はありません。

なぜなら、最初の印象として「自分の考えを理解してもらえなかった。自分の意見を採用してもらえなかった」と捉えられることがあるからです。


リーダーとして、ここは耐えどころ。一瞬、メンバーの信頼を失ったかな?と不安になります。でも実はそうではないのです。自分の意見がすんなりと採用されなかったことに対し、消化不良の顔をしているだけなのです。

消化不良は仕方ない。なぜならこの時点ではまだ結論が出ていないのだから。

消化不良の顔を見ると、リーダーとしては八方美人をしたくなります。そしたら、笑顔になるのがわかっているから。でも、思い出してください。その笑顔は一瞬の輝きであることを。これぞ八方美人の罠なのです。


八方美人の罠に気をつけながら、八方ブサイクマネジメントを繰り返しているとどうなるでしょう。

リーダーは私のいないところでも、きっと私の意見を尊重してくれる。

リーダーはいつも私を信頼し、意思決定にまで関わらせてくれる。

という信頼に変わっていきます。

これこそ、八方ブサイクマネジメントの目的です。

八方ブサイクマネジメントは、言い換えると、究極の八方美人マネジメントですね。


もし、この考えに共感したなら、早速実践してみてください。

ただし、胆力が必要ですよ。

応援してます。


「八方ブサイクマネジメント」は今朝思いついたばかりの造語なので、この言葉を使い続けるかどうかは未定です。読んでくれた方が気に入ってくれたら、使ってみようかなと思います。

今日は長文でした。最後まで読んでくれてありがとうございます。


立崎直樹



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